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第78話 ボス戦、終了?

「………………」

「………………」

「………………」

「………………ふう。カイト、これ……」

「よっしユウカ、お疲れー」


 目の前に、ダンジョンの壁に入り口以上の大穴を開けるほどの風穴が開いた後。

 ユウカが何か言いたそうな反応に対して、俺はただ労いの言葉を掛けている。


「………………」

「………………」

「………………」

「さて……」


 3人がまだ無言の中、俺はみんなに対して振り返り……



「──“ボス戦攻略、お疲れ様”」


 そう全員に通達した。


「………………いやいや。いやいやいやっ」


 すると真っ先に、シルフィが体の前で手を横にブンブンと振り始めて、そう言い出した。


「嘘だろ……?」

「ちょーっとこれは、予想外過ぎるねえ……」


 ショー君は口をアングリと開けて。Dr.ケミカは手元の長い袖を口元に当てて、冷や汗を垂らしている。


「なんだよお前ら。ボスを一撃で倒したんだぞ。喜べよ」

「いやあ、カイト。これはボクもちょっと……」


 俺のその言葉に、ユウカがそう微妙そうな表情で否定してきた。

 えー。


「え、何。この結末。あれだけ気合入れて準備したボス戦が、こんなあっさり終わるわけ……? 私の覚悟は一体……」

「俺も、気合十分入れてきたのに……」

「まあ、肩透かしも良いところだったねえ……」

「別に良いだろ。あっさり勝つに越した事は無いんだから」


 俺は腰に手を当てて、そう言い切った。

 作戦が成功したんだから、もっと喜ぼうぜ。


「その作戦が、成功し過ぎたのが問題だねえ……」

「いやまさか、ボクも完全に詠唱の妨害無しで最後まで言い切れるとは……」


 そう。俺の作戦は、ボス部屋に入る前に、外から一撃加えられないか、というものだった。

 狼はジッとこちらを見ていても、わざわざ部屋から出て攻撃してくる気配がないものだから、一撃くらいは先制攻撃喰らわせられるんじゃないか、と思っての事だった。


 その際使う技は、俺が知る限り最大火力で、発動に時間が掛かるユウカの技だった。

 四天王をほぼ消しとばしたあの技なら、発動さえすればボスに対して一撃必殺出来るだろうと思っての事だった。


 結果は、見ての通り大成功。

 念のため、詠唱の邪魔しに部屋から出てきたなら俺がシールドを張って時間を稼ぐつもりだったが、予想通り狼は動かず。

 おかげで無事に、ユウカの詠唱が最後まで行ったという訳だ。


 ユウカ自身も予想外だったらしく、ここまで妨害無しで最後まで詠唱できたのは初めての経験だったとのこと。


「それにしても、凄い威力だったねえ……ここにきて、ずっと君を温存していた理由がよく分かった気がするよ」

「同感ね……こんなバカげた火力、普段使いするわけにはいかないものね。生きた破壊兵器よ、最早これ」

「金髪のねーちゃんスゲーぜ。俺のドラゴンたちで、あの火力を再現するんだったらどれだけカードと下準備が必要か……」

「あ、あはは……」


 Dr.ケミカ達のユウカを称賛する声に対し、苦笑いを浮かべるユウカ。

 一部微妙に称賛? と言えるのか迷う言葉があったけど、まあ褒められている事には変わりない。

 というかショー君、君あの威力再現出来そうなの? 準備はいるとはいえ? もしそうならスッゲーなおい。


「いや、一応普段使いはもっと小回りの効く必殺技を使ってるんだよ? あれは究極奥義だから……」

「だとしても、だ。あの威力を人の身で放てるとは、称賛に値するよ。いやはや、世界は広いねえ。あ、異世界だったか。アーッハッハ! 一本取られたねえ!」

「ただ独り相撲してるだけじゃない」


 そうしてシルフィが呆れた表情になっていると、突如彼女が表情を変える。


「って、お宝は!? お宝は無事なの、あんな攻撃放って!?」

「「…………あっ」」

「あっ、じゃねーわよ!? 目的忘れてんじゃないわよ?!」


 その言葉に、俺とユウカは真面目に声を漏らしていた。

 そうだ、目的はダンジョン最深部のお宝だった。

 ユウカの攻撃で、部屋の奥深くまで貫通するほどの攻撃を放ってしまっている。

 これでは、宝ごと吹き飛ばしてしまっている可能性が高いだろう。


 しまった、そこまでは考えていなかった……

 ボスを倒す事に注視しすぎて、お宝の安否までは考えられていなかった。

 これは完全に、俺の落ち度だな……

 やっぱり、楽をしようとしちゃ駄目だったって事か……?


「あーもう!! ちょっと確かめてくる!」

「あ、俺もー!!」

「ふむ。私も見に行こうかな」

「あ、ちょっと!?」


 そう言って、慌てたシルフィを中心に、3人は先に壊れた部屋の奥に突き進んで行った。

 それを止めきれず、追いかけようとすると……


「……ん?」

「どうした、ユウカ?」

「これは……ちょっと騒ぎすぎたかもしれない」


 そう言って、ユウカが見つめ出したのは、俺達がこの場所までやって来るのに通った方角だった。


「さっきのボクの攻撃の音で、“動物達やゴーレムがここに向かって来てるかも”……」

「……マジか?!」

「うん。微かにだけど、走って来る音が聞こえて来る」


 ユウカが両耳に手を添えて、そう言い出した。

 ユウカの事だ、確かなんだろう。


「カイト。ちょっと早めに3人を呼び戻して来てくれないかい? ボクは念のため、ここで監視と足止めをしておくよ」

「分かった。すぐに戻るよ」


 そうして俺はユウカを置いて、3人を追いかけに向かったのだった。


「うひゃー、大きな穴が空いてる……ユウカの技、スゲーな」


 俺はそう呟きながら、ボス部屋だった部屋を歩き出す。

 ユウカの攻撃の破壊の後が、一直線に大きな穴となって貫通して行っている。

 しかし、3人の姿が見えない……


「あっれ? もしかして……」


 すると、俺は気づく。

 行き止まりの壁だと思い込んでいたが、ユウカの開けた大穴の先。

 もしかして、まだ部屋があるのかと。そんな雰囲気が微かに見える。


 ひょっとしたら、狼の部屋のさらに奥に、お宝部屋があったのかもしれない。

 ユウカが入り口ごと壁を壊してしまったのだろうか?


「とりあえず、俺も入るか……」


 そうして、俺もその部屋に足を踏み入れる……


 ──今思うと、この判断は失敗だった。


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