「“エネミーブック”、起動!!」
真っ先に動いたのはシルフィだった。
懐から例の本を取り出して、ページを開いてそこから光が放たれる!
「解析開始!! ──名称判明!! 個体名・“トレジャーゴーレム!!” それ以上の詳細な情報は、予想時間10分は掛かるわ!」
「なるほど、らしい名前だな!!」
「ふうむ、解析は破格の時間ではあるが、戦闘中と言うことを考えるとかなり長く感じるねえ」
「それなら、その前にある程度攻撃するまでだ!!」
情報収集が完了するまで待っていられない。
ショー君の行動も一理あるとして、誰も止めなかった。
ショー君が一歩前に出る。
「まずは俺からだ!! こい! 召喚、“フレイム・ドラゴン”!! “ウォータードラゴン”!! “サンダー・ドラゴン”!! “ロック・ドラゴン”!!」
『『『『GYAAAOOOOOOOOOッッッ────』』』』
そのショー君の掛け声とともに、昨日見た4種のドラゴンが現れる。
今回は、前回と違って合計四体で少なめだが、それでも十分な戦力だ。
「全員、ブレスで攻撃だぁ!!」
『『『『GYAAAOOッ────!! GRUOoooooooooooッ────!!』』』』
その合図とともに、4種のドラゴンのブレスが放たれる。
トレジャーゴーレムに対し、火、水、雷、岩のブレスが襲いかかる!
これだけでも十分な威力! それを……
【攻撃反応。ガードします】
『GoooOOOOOOOO────ッ!!』
“巨大な、宝の手”が形成される。
この部屋にあった金銀財宝で構成されたそれは、トレジャーゴーレムの腕をより更に、大きく拡張した。
その両腕を持って、構えるような体勢を取り、ブレスに対してガードしてくる!
「あー!? お宝がー?!!」
「今は細かいこと気にしてる場合じゃないねえ、それより……」
「ブレスが、全然通ってねえぜ!?」
そう、あの“宝の手”で防がれたブレスは、そこで完全に止められていた。
いや、表面だけなら削って入るだろう。いくつか金銀が炎で溶け出してるように見えたり、岩で破片が飛び散っているのが見える。
しかし、それだけだ。表面を削っても、また新しいお宝で腕を再構築され続けている!?
【敵性反応。排除します】
『GaaaOOOOOOOO────ッ!!』
『『『『GYaaGYaaッッッ────?!!』』』』
「ドラゴン達ッ?!!」
トレジャーゴーレムが片手でブレスを防ぎながらもう片方の腕で、まるで飛んでる虫を振り払うような素振りの動作で、ドラゴン達をなぎ払う!!
ドラゴン達は回避も出来ず、四体とも“宝の手”で横なぎに叩かれ、壁に叩きつけられてしまった!!
やられたドラゴン達は、ショー君のカードに戻っていく!!
「嘘だろ!? 上級クリーチャーじゃないとは言え、一撃で!?」
「単純に、質量が段違いだねえ。あの攻撃、直撃したらヤバイだろうね」
「って、言ってる側から近づいて来てる!? 」
トレジャーゴーレムは、今度は俺達に狙いを定めたようで、いつの間にかノッシノッシと近づいてくる!
「させるか!! 近づけさせねーぜ!! トラップカード・“不自由の鉄球”!!」
「私も!! “ワイヤー・ショット!!”」
そうして、トレジャーゴーレムの足元に巨大な鉄球がついた手錠と、ワイヤーが巻きついていく!!
これは事前に相談して考えていた、ショー君とシルフィのコンボだ!!
「これで移動は封じたぜ!!」
「そのままその場所に固定されなさ──」
【再構築。移動続行】
『GoooOOOOOOOO────』
すると、トレジャーゴーレムは“するりと手錠とワイヤーをすり抜けて”、俺たちの方に向かって来た。
あー……
「って、ええ?! 何でーッ?!!」
「まあ、あの体って“複数の宝の集合体”なだけだからねえ……粘土みたいな物さ。形を一部崩せばすぐにすり抜けられるだろうね」
「せっかく考えたコンボだったのにー!!」
「普通のゴーレムならこれで止まってたのに!! もー!!」
目論見が失敗した事に、ショー君達はショックを受けていた。
クソっ、考えてみれば、俺達は元々狼のボスを想定して作戦を立てていた。
あんな宝の集合体のボスなんて想定していないから、いくつか用意した戦術が使えなくなってる!!
Dr.ケミカの毒薬なんかまさにそれだ、あいつに毒なんて効きそうにねえんだけど!?
「振り下ろしが来てるわよー?!!」
そして十分な距離になった後、その大きな片手を俺達に振り下ろして来た!!
回避は、間に合わない!!
「全員、後ろに回れ! “マジック・シールド・メダル!!”」
今度は俺が前に出て、マホから貰った魔法のシールドを展開する。
振り下ろされた“宝の手”は、そのシールドに阻まれてバキャキャキャンッ!! と甲高い金属音を響かせながら、弾かれたように離れていく!
「よっし! ナイスよ、カイト!!」
「けど、長くは持たねえ!! 後数回が防ぐの限度だ!!」
「なら、今の内に!! “ワイバーン・ドラゴン”を召喚!! 更に装備カード、“龍装具”を発動だぜ!!!」
俺がシールドを出している間に、ショー君が昨日のみんなを乗せてくれたドラゴンを用意してくれた。
今度は最初から人が乗るところを付けてくれているようだ。
俺達は隙を見て、ワイバーン・ドラゴンに乗り込んで飛翔する!
「ワイバーンドラゴン! 常に動き続けるんだぜ!!」
『GYaaOOooo────!!』
「よっし! これなら狙われにくいわね!」
「いや、来るぞ!?」
【逃走確認。撃ち落とします】
『GuuuOOOOOOOO────ッ!!』
その警告音と共に、都レジャーゴーレムは“宝の手”を両手で広げる。
まるで拍手をするかのように、“宝の手”の両手はワイバーン・ドラゴンを潰そうとする!!
やべえ、両側からじゃシールドが足りねえ!?
「トラップカード!! “身代わり人形”!! クリーチャーへの戦闘を一回だけ身代わりするぜ!!」
その宣言と共に、デフォルメされたようなドラゴン人形がポンッと現れた。
そちらに対して、“宝の手”は誘導されてジャキィキィキィイキィッ!! と、甲高い炸裂音を響かせた。
「ギリギリ回避できたわね!!」
「けど、スピードが根本的に足りねえぜ!! 天井も思ったより低いから、攻撃から逃げられねえ!?」
そう、この部屋はまるで体育館だと例に出したが、あの疾レジャーゴーレム相手だと、全然距離が取れない。
これじゃあ空中に逃げても、全然逃げきれねえ!
「ふむ、ちょっといいかい?」
「何だぜ、白衣のねーちゃん!?」
「“筋力増強薬”、このワイバーン・ドラゴンに飲ませてみても良いかな?」
「っ!! よっし、分かったぜ! 飲め、ワイバーン・ドラゴン!!」
そうして、Dr.ケミカがフラスコの瓶を空中の前に投げ入れる。
それを支持されたワイバーン・ドラゴンがフラスコごと噛み付いて、飲み込んだ。
『────っ!? GYaaOOOOOOOOOOOO────!!』
「おお!! 元気になったねえ!?」
「ありがとうだぜ!! スピードアップだ!! みんな、しっかり掴まれ!!」
その言葉と共に、ワイバーン・ドラゴンの飛行速度が大幅にアップした!!
それを“宝の手”がはたき落とすように追いかけてくるが、それらを全て回避する!
「よっし!! 攻撃を避けられるようになったわ!!」
「これなら、今のうちに次の攻撃準備を出来るな!!」
「カイトの兄ちゃん! これを!!」
そうして出来た余裕の時間に、ショー君が何枚かカードを手渡して来た。
え、これ……!?
「今のうちに何枚か渡しておく! 必要な時に使ってくれだぜ!」
「良いのか? と言うか、俺が使えるのか!?」
「ああ! 念じればカイトの兄ちゃんでも発動出来るぜ!」
「そっか、なるほど了解! ありがたく使わせてもらうな!」
「ねえ、私は? 私にはないの?」
「もちろん、ねーちゃん達にもちゃんと良いの上げるぜ!!」
こうして、俺達はショー君からカードをありがたく受けとった。
それを見てDr.ケミカはふむ、と言って。
「ならば、私も“筋力増強薬”を渡しておこうかねえ。はいどうぞ」
「えー……いやまあ、仕方ないか。ちょっと怖いけど、ありがたく貰っておく。必要な時に飲むよ」
「そうだねえ。いやー、思わぬところで実験が出来そうだ!」
「やっぱ返して良いか?」
とは言え、やれることは全てやるべきか。
そう我慢して、初めてのDr.ケミカの薬だが、いつでも飲めるようポケットに入れておく事にした。
【敵、逃走続行中。撃ち落とします】
『GuuuOOOOOOOO────ッ!!』
「っ!! また追って来たぜ!!」
「けど、このスピードなら追いつかれないは──」
【レーザー。発射】
は?
と、言う前に。その光線は、頭部の赤い宝石から発射された。
気づいた時には、ワイバーン・ドラゴンが撃ち貫かれていた。
『────っ!? GYa──aaaAAAAAAAAAAッ??!!!』
「ワイバーン・ドラゴンッ?!!」
しまったあ?!! そう言えば、道中のゴーレムも極太レーザーを撃って来たんだった!!
なんとか乗っている俺達にはあたらなかったが、ワイバーン・ドラゴンは致命傷!!
強制的にカードに戻される!!
「おああッ?!」
「きゃあああッ?!」
「落ちるねえ!?」
「うわああああッ?!!」
こうして、俺達は空中でワイバーン・ドラゴンから投げおとされたのだった……