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第83話 対決、トレジャーゴーレム③

 ──は?

 その言葉を呟く前に、トレジャーゴーレムが吠えていた。


『──GuuuOOOOOOOO────ッ!!』


 トレジャーゴーレムは、健在だった。

 真っ二つに“赤い宝石”を斬られても、なお──いや、“再生している”!?

 赤い宝石が、またすぐにくっついている!? 元通りになってやがる?!!


【レーザー・発──】

「“ワイヤー・ショット”!!」

「っ!?」


 俺が呆けていると、レーザーが発射されそうになっていた。

 それをシルフィが、地上からフックを射出して、俺を引き寄せてくれる。

 俺が元いた場所を、レーザーが通り過ぎた。ギリギリ逃げきれたのだ。


「何ボーッとしてるのよ?! 全く!」

「わ、悪い!! けど何で!? あの赤いコアが弱点じゃなかったのか!?」


 俺の予想に反した結果となり、だいぶ動揺していた。

 あのいかにもな赤い宝石が弱点じゃなかったのかよ!?


「それなんだけど、シルフィ君が解析をちょうど終わらせてくれてねえ」

「見なさい、これを! “エネミー・ブック!!”」


 そう言って、シルフィが例の本を見せてくれる。

 そこには、トレジャーゴーレムの詳細情報が書かれていた。


 ==============

<トレジャーゴーレム>


 ダンジョンの宝物庫に侵入した者を排除する装置。

 通常のゴーレムの個体より、巨大な体を構成するように設定。

 その際、構築物のサイズを最小の物も含み、構築体の自由度を高めた。


 また、本来であれば特殊なゴーレムと言えど、そこまで強力な個体ではない。

 コアのサイズそのものは、通常と大差ない。どころか、技術の発展により小さく纏まっている。

 だが、この場所が“通常ゴーレムのいるダンジョンの奥深くだった”事が影響を与える。


 トレジャーゴーレムは、ダンジョンに転がっている宝石類を集める役割を、ダンジョン内のゴーレムに与える権限を持っていた。

 それに従い、ダンジョン内の通常ゴーレムは撃退した冒険者達から、宝石類を回収、宝物庫に保管していく。


 その際、“撃破された他の通常個体のゴーレムのコアも回収する”と言う想定外を行った。

 ゴーレムは、周囲の無機物を解析する事で、それを素材に体を作り上げる性質を持つ。

 壊れたゴーレムのコアも宝物庫に溜まることで、トレジャーゴーレムはそれを素材に自身のコアの周囲に同化。コアそのものをくっつけて巨大化したのだ。


 つまりトレジャーゴーレムとは、“複数のゴーレムコアの合体した個体”となる。

 本体の本来のコアを破壊しない限り、倒す事は不可能。

 ちなみに、他のコアは完全に機能ごと合体したため、本体が壊れれば機能停止となる。

 ==============


「────はあ?!!」


 その説明欄の内容に、俺は声を上げる。

 複数のゴーレムコアの合体した個体だって?!!


「つまり、君の切り裂いたように見えた赤い宝石は、実際はあれも複数の集合体。“本体を切り損なっただけ”、と言う話だねえ」

「クッッソ!! そう言う事だったのかあーッ!!」


 真ん中で真っ二つにしただけじゃ、本来のコアとなる宝石を切れなかったって事か!!

 て事は、必要なのは一閃じゃなくて細切れだったって事!? くそお!!

 なんか炎の四天王の戦いを思い出すんだけど!?

 いや、あいつは分裂して増えるから厄介だったけど、こっちはただのくっついて再生だからまだマシかあ!? いや、どっちもどっちだな!?


「なら、もう一度行ってやる!! 今度は細切れに……!!」

「いやあ、それももう難しそうだねえ……」


【緊急・コア付近にダメージを負いました。完全防御モードに移行します】

『GuuuOOOOOOOO────ッ!!』


 その警告音と共に、トレジャーゴーレムが再度吠える。

 すると、“トレジャーゴーレムの足元が崩れていく”


「何!? やっぱり倒したの?!」

「いやあ、あれは倒したわけじゃなく、どちらかと言うと……」


 そして、崩れた足元、胴体を構築していた宝が……“赤い宝石を包むように球体となった”

 今のあいつは、上半身だけを残して浮かんでいる。

 は……?


「“弱点、隠されちゃったねえ”……」

「うっっっそでしょ?!! そんなのありなの!?」


 嘘だろ!? そんなの出来るなら何で最初からやんねーの?!!

 そんな事を思ってる間に、“宝の手”が振り下ろされて──?!


「しっかり捕まってるんだねえ!!」

「きゃああ?!」

「うっわあ?!」


 そして、Dr.ケミカに俺とシルフィは抱えられたままその場から離脱する。

 俺たちのいた場所に、“宝の手”が振り下ろされていた。

 ポツリと、Dr.ケミカが呟く。


「──? ちょっと、私たちのいた場所からずれていたねえ。振り下ろしの精度が、下がってる……?」

「白衣のねーちゃん! みんな!」

「ショー!!」


 俺たちの移動先に、ショー君がいた。

 どうやらDr.ケミカがショー君の近くに行くように移動してくれたらしい。


「一体、どうなったんだぜ!?」

「見ての通り、弱点を隠された!! あれを突破しないと、あいつを倒せない!!」

「何だって!? よし、もう一度“バーニング・ドラゴン”を再召喚して、さっきのを……」

「いや、見て!?」


 シルフィの慌てるような声に、俺達は振り返る。

 トレジャーゴーレムの“宝の手”が、崩れていく。

 あいつの周囲に、手だった宝がクルクルと旋回するように浮かび上がり……


【周囲排除・実行】

『GuuuOOOOOOOO────ッ!!』


 ──その旋回速度が上昇。まるで局地的な台風のようになった。

 大量の宝が、台風の渦に混ざって飛んでいる!!


「おい待て!? 宝の中には“刃物類”もあるんだぞ?!」

「どうやら、ここら一体一層するつもりらしいねえ!!」

「ちょっと!? 逃げ場がなくなるじゃない!?」

「くっそお! クリーチャーを一体召喚! それを捧げて! “ギガ・ロックドラゴン”を召喚!!」

『GYaaOOOOOOOOOOOO────!!』


 俺達が混乱する中、ショー君が今までで一番大きめのドラゴンを召喚してくれる。


「さらに装備カード・“メタル化”を発動!! “ギガ・ロックドラゴン”をメタル化する!!」

『GYaaOOOOOOOOOOOO────!!』


 その言葉で、召喚したドラゴンがカチカチの鋼鉄に!!


「全員、隠れるんだぜ!!」

「うわああああああ!!」


 俺達は、ドラゴンの巨体に包まれるように隠れた。

 ドラゴンの体に、“宝の台風”がやってくる!!


 ガキィッ! ガキィガキィッ! ガキキキキキキィッ! 


「くっそ! これじゃあ近づけない!」

「く、10分しかクリーチャーは召喚を維持できないぜ!」

「どうしよう、このままじゃやられるわよ!」

「……ちょっといいかい?」


 俺達が慌てる中、Dr.ケミカが冷静な表情で話し出す。


「何だ、どうした!?」

「──ちょっと静かにしてくれないかい?」

「はあ!? この状況で何を言って……!?」

「いや、そうではなくて」


「──“ちょっと、しばらく音自体を立てないようにして欲しいんだ。身動きしないでね”」


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