──は?
その言葉を呟く前に、トレジャーゴーレムが吠えていた。
『──GuuuOOOOOOOO────ッ!!』
トレジャーゴーレムは、健在だった。
真っ二つに“赤い宝石”を斬られても、なお──いや、“再生している”!?
赤い宝石が、またすぐにくっついている!? 元通りになってやがる?!!
【レーザー・発──】
「“ワイヤー・ショット”!!」
「っ!?」
俺が呆けていると、レーザーが発射されそうになっていた。
それをシルフィが、地上からフックを射出して、俺を引き寄せてくれる。
俺が元いた場所を、レーザーが通り過ぎた。ギリギリ逃げきれたのだ。
「何ボーッとしてるのよ?! 全く!」
「わ、悪い!! けど何で!? あの赤いコアが弱点じゃなかったのか!?」
俺の予想に反した結果となり、だいぶ動揺していた。
あのいかにもな赤い宝石が弱点じゃなかったのかよ!?
「それなんだけど、シルフィ君が解析をちょうど終わらせてくれてねえ」
「見なさい、これを! “エネミー・ブック!!”」
そう言って、シルフィが例の本を見せてくれる。
そこには、トレジャーゴーレムの詳細情報が書かれていた。
==============
<トレジャーゴーレム>
ダンジョンの宝物庫に侵入した者を排除する装置。
通常のゴーレムの個体より、巨大な体を構成するように設定。
その際、構築物のサイズを最小の物も含み、構築体の自由度を高めた。
また、本来であれば特殊なゴーレムと言えど、そこまで強力な個体ではない。
コアのサイズそのものは、通常と大差ない。どころか、技術の発展により小さく纏まっている。
だが、この場所が“通常ゴーレムのいるダンジョンの奥深くだった”事が影響を与える。
トレジャーゴーレムは、ダンジョンに転がっている宝石類を集める役割を、ダンジョン内のゴーレムに与える権限を持っていた。
それに従い、ダンジョン内の通常ゴーレムは撃退した冒険者達から、宝石類を回収、宝物庫に保管していく。
その際、“撃破された他の通常個体のゴーレムのコアも回収する”と言う想定外を行った。
ゴーレムは、周囲の無機物を解析する事で、それを素材に体を作り上げる性質を持つ。
壊れたゴーレムのコアも宝物庫に溜まることで、トレジャーゴーレムはそれを素材に自身のコアの周囲に同化。コアそのものをくっつけて巨大化したのだ。
つまりトレジャーゴーレムとは、“複数のゴーレムコアの合体した個体”となる。
本体の本来のコアを破壊しない限り、倒す事は不可能。
ちなみに、他のコアは完全に機能ごと合体したため、本体が壊れれば機能停止となる。
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「────はあ?!!」
その説明欄の内容に、俺は声を上げる。
複数のゴーレムコアの合体した個体だって?!!
「つまり、君の切り裂いたように見えた赤い宝石は、実際はあれも複数の集合体。“本体を切り損なっただけ”、と言う話だねえ」
「クッッソ!! そう言う事だったのかあーッ!!」
真ん中で真っ二つにしただけじゃ、本来のコアとなる宝石を切れなかったって事か!!
て事は、必要なのは一閃じゃなくて細切れだったって事!? くそお!!
なんか炎の四天王の戦いを思い出すんだけど!?
いや、あいつは分裂して増えるから厄介だったけど、こっちはただのくっついて再生だからまだマシかあ!? いや、どっちもどっちだな!?
「なら、もう一度行ってやる!! 今度は細切れに……!!」
「いやあ、それももう難しそうだねえ……」
【緊急・コア付近にダメージを負いました。完全防御モードに移行します】
『GuuuOOOOOOOO────ッ!!』
その警告音と共に、トレジャーゴーレムが再度吠える。
すると、“トレジャーゴーレムの足元が崩れていく”
「何!? やっぱり倒したの?!」
「いやあ、あれは倒したわけじゃなく、どちらかと言うと……」
そして、崩れた足元、胴体を構築していた宝が……“赤い宝石を包むように球体となった”
今のあいつは、上半身だけを残して浮かんでいる。
は……?
「“弱点、隠されちゃったねえ”……」
「うっっっそでしょ?!! そんなのありなの!?」
嘘だろ!? そんなの出来るなら何で最初からやんねーの?!!
そんな事を思ってる間に、“宝の手”が振り下ろされて──?!
「しっかり捕まってるんだねえ!!」
「きゃああ?!」
「うっわあ?!」
そして、Dr.ケミカに俺とシルフィは抱えられたままその場から離脱する。
俺たちのいた場所に、“宝の手”が振り下ろされていた。
ポツリと、Dr.ケミカが呟く。
「──? ちょっと、私たちのいた場所からずれていたねえ。振り下ろしの精度が、下がってる……?」
「白衣のねーちゃん! みんな!」
「ショー!!」
俺たちの移動先に、ショー君がいた。
どうやらDr.ケミカがショー君の近くに行くように移動してくれたらしい。
「一体、どうなったんだぜ!?」
「見ての通り、弱点を隠された!! あれを突破しないと、あいつを倒せない!!」
「何だって!? よし、もう一度“バーニング・ドラゴン”を再召喚して、さっきのを……」
「いや、見て!?」
シルフィの慌てるような声に、俺達は振り返る。
トレジャーゴーレムの“宝の手”が、崩れていく。
あいつの周囲に、手だった宝がクルクルと旋回するように浮かび上がり……
【周囲排除・実行】
『GuuuOOOOOOOO────ッ!!』
──その旋回速度が上昇。まるで局地的な台風のようになった。
大量の宝が、台風の渦に混ざって飛んでいる!!
「おい待て!? 宝の中には“刃物類”もあるんだぞ?!」
「どうやら、ここら一体一層するつもりらしいねえ!!」
「ちょっと!? 逃げ場がなくなるじゃない!?」
「くっそお! クリーチャーを一体召喚! それを捧げて! “ギガ・ロックドラゴン”を召喚!!」
『GYaaOOOOOOOOOOOO────!!』
俺達が混乱する中、ショー君が今までで一番大きめのドラゴンを召喚してくれる。
「さらに装備カード・“メタル化”を発動!! “ギガ・ロックドラゴン”をメタル化する!!」
『GYaaOOOOOOOOOOOO────!!』
その言葉で、召喚したドラゴンがカチカチの鋼鉄に!!
「全員、隠れるんだぜ!!」
「うわああああああ!!」
俺達は、ドラゴンの巨体に包まれるように隠れた。
ドラゴンの体に、“宝の台風”がやってくる!!
ガキィッ! ガキィガキィッ! ガキキキキキキィッ!
「くっそ! これじゃあ近づけない!」
「く、10分しかクリーチャーは召喚を維持できないぜ!」
「どうしよう、このままじゃやられるわよ!」
「……ちょっといいかい?」
俺達が慌てる中、Dr.ケミカが冷静な表情で話し出す。
「何だ、どうした!?」
「──ちょっと静かにしてくれないかい?」
「はあ!? この状況で何を言って……!?」
「いや、そうではなくて」
「──“ちょっと、しばらく音自体を立てないようにして欲しいんだ。身動きしないでね”」