【──攻撃・中断】
『GuuuOOOOOOOO────……』
そのコアからの音声により、トレジャーゴーレムは大人しくなった。
“宝の台風”の攻撃をしばらく続けた後、トレジャーゴーレムのコアは確認作業に入る。
コアのこれまでの戦闘経験データによれば、この攻撃で侵入者は95%葬り去っている経験となっていた。
攻撃を中断し、浮遊している宝を静止させる。
トレジャーゴーレムによる音の発生を、一時的に中断させていた。
【──音響・確認中】
『────────……』
そして、周囲の物音を探索するモードになると、しばらく集音して……
物音一つ、経っていない事を確認した。
【──敵性反応・確認無し】
『────────……』
【目視による確認に、移行します】
そうして、コアの周囲を覆っていた宝が離れていき、“赤い宝石がむき出しに──”
「──今だねえ!!」
☆★☆
──俺達は、Dr.ケミカに言われた事を思い返していた。
『あのゴーレム、ちょっと気になる事があるんだ』
『気になること?』
『なぜあの防御形態を、初めから維持しないのか、と言う疑問だねえ』
“宝の台風”の攻撃を防御してる中、Dr.ケミカはそのように疑問を溢す。
長い袖を口元まで寄せて、考えるような仕草になっている。
『だって普通に考えてそうじゃないか。あれが壊されたら終わりだと言うなら、もっと隠すべきだよ。普通のゴーレムだってそうだ。もっと体の奥深く、頭部むき出しじゃなくそれこそ胴体の中心にでも見えないように入れておけば、もっと安全だろうに』
『言われてみれば、まあ……』
確かにそれは俺も思っていた疑問だ。
何で最初からやらないんだろうと思っていたが……
『なんか、そうしなきゃいけない理由があるんじゃないかだぜ?』
『鋭いねえ、ショー君。そこだよ、私が注目したのは。きっと何らかの理由があるはずさ』
『考えられるのは、レーザーの発射じゃないの? あの技、強力だから使えなくなるのはかなり痛いんじゃないかしら?』
確かに。あのレーザーの発車は赤い宝石からだった。
だとしたら、隠すとせっかくのレーザーが使えなくなるだろう。
しかしDr.ケミカは、その答えに満足してないようで。
『……おそらく、それだけじゃないねえ。きっかけは、あのモードになってから私たちが逃げた時だよ。あの時、あの腕の振り下ろす精度がわずかに下がっていた』
Dr.ケミカが鋭い目つきとなって、俺達に説明する。
ニヤリと笑って……
『つまり、あの赤い宝石にはもう一つ役割がある。私の予想だと、それは……』
☆★☆
「──“周囲を見渡すレンズ”!! それが赤い宝石の役割だ!!」
それがコアであり、レーザーの射出口であり、周囲を見渡すセンサーでもある、赤い宝石の真の役割だった。
Dr.ケミカが音を立てないでいろと言ったのはそれが理由。
レンズが隠れた状態で、周囲から音が聞こえなくなったなら、確認の為に黙示する必要があるはず。
そのために、防御形態が一時解除される筈だと。
【──! 敵性反応・確認】
『GuuuOOOOOOOO────ッ!!』
その予想は、大当たりだった!!
今のあいつは、むき出しだ──!!
「全員、総攻撃だ!!」
「クリーチャー二体を生贄に捧げ!! “イフリート・ドラゴン”を生贄召喚だ!!」
『GYaaOOOOOOOOOOOO────ッッッ!!』
俺たちの目の前に、ショー君の切り札が召喚される。
しかし、確かこいつは生贄なしで召喚出来てなかったっけ?
今回は、わざわざ生贄を必要としている?
「生贄召喚に成功した“イフリート・ドラゴン”の真の効果!! それは墓地にいる、他のドラゴン族クリーチャーの数だけ、攻撃力300ずつアップ!!」
『GYaaOOOOOOOOOOOO────ッッッ!!』
「墓地にいるドラゴン族クリーチャーは、10体! 3000の攻撃力アップで、合計攻撃力5500だ!!」
その宣言と共に、“イフリート・ドラゴン”の身体に赤い光が包まれていく!
さらにショー君は、それだけじゃない!
「イベントカード・“イフリートフレイム!!” イフリート・ドラゴンの攻撃力を、一回だけ二倍にする!! 現在攻撃力は5500! それの二倍、11000だあッ!! いっけえええええええええええッ!!!」
──そのブレスは、もはやレーザーと言っても過言では無かった。
イフリート・ドラゴンから放たれたそれは、相手のレーザーより遥かに太く、強力な光線と見紛う程の威力だった。
もしかしたら、ユウカの詠唱光線に匹敵するかもしれない────いや、やっぱまだユウカの方が上かも。
それはともかく、その威力のブレスが相手の赤い宝石に直撃する──!!
【全力防御・開始】
『GuuuOOOOOOOO────ッ!!』
しかし、赤い宝石に着弾する前に、ありったけの宝が壁となって阻まった!!
ブレスのスピードが少しだけ減少し、それでも宝を全て焼き尽くす勢いで突き進んでいき──
【緊急回避・撤退】
『GuuuOOOOOOOO────ッ!?』
“赤い宝石だけが、更に浮かび上がる”
ブレスが赤い宝石のいた所の真下を通り抜けてしまう。
躱された──
「逃さないねえ!!」
──その逃げた先に、Dr.ケミカの“爆発薬”が投げ込まれていた。
イフリート・ドラゴンの攻撃と共に、既に投げていたのだ。
“筋力増強薬”で得た投合力で、赤い宝石に一瞬で近づいた。
更に──
「使わせてもらうねえ! 私もイベントカード・“ビックリビック”を発動!! 対象、“爆発薬”さ!!」
その宣言と共に、投げ入れた“爆発薬”のフラスコが巨大化する!!
中身の液体も、その分増えていた!!
直後、フラスコと赤い宝石が接触し──
──大爆発を起こす。
周囲一帯に、轟音が鳴り響いた。
赤い宝石は、いや、複数のコアで出来た巨大なコアは、全てバラバラに飛び散っていた。
「破壊出来た!?」
「いや、コア同士がバラバラになっただけだねえ! 本体は……!!」
「──! 見て、あの“青い”宝石!!」
シルフィの指差した先には、赤い宝石達の中で、一つだけ“青い宝石”が輝いていた。
本体は一個だけ、つまりあの唯一の色違いが本体か!?
「よっしゃ! あれを切り落とせば……!!」
「カイトのにいちゃん!? あれ!!」
【緊急合体・開始】
『GuuuOOOOOOOO────ッ!!』
と、思っていたら、すぐに青い宝石を包むように、赤い宝石が周囲に巻きついた!!
ウッソだろ、はえーよ?!!
「むう。ショー君、もう一度“ビックリビック”のカードを……」
「悪い! サポート系のカードは2枚ずつしか入れてなかったぜ!!」
「くっそ! ここまで来て……!!」
「──いいえ。任せなさい」
その言葉と共に、シルフィが一歩前に出た。
その頭には、いつの間にか“ゴーグル”が付けられていて。
「まさか、宝箱のトラップ解除以外で使うことになるとは思わなかったけど!! “ステルス・ゴーグル!!”」
その言葉と共に、ゴーグルを額から降ろして付けた。
トレジャーゴーレムの赤い宝石に視線を向けて……
「“青い”宝石だと言う事が分かれば、あとは簡単よ! これで透視してみれば……見つけた!! 本体!!」
そう言って、シルフィが腕を構えた。
「“ワイヤー・ショット”、発射ぁ!!」
そして、フックの付いたワイヤーが射出される!!
本体に付けるつもりか? でも、それだと途中の宝や赤い宝石に阻まれる!!
すると、シルフィはもう片方の手でカードを取り出した!
「私も! イベントカード・“貫通付与”を発動!! 対象、“ワイヤー・ショット”!!」
その宣言と共に、ワイヤーが光に包まれていく!
その先のフックが、宝や赤い宝石を文字通り貫通していく!
「どうよ!! よっし、手応えあり!! 捕まえたアアアッ!!!」
そうして、ワイヤーが一瞬止まり。巻き取りが高速で開始される。
赤い宝石の中から、“青い”宝石だけがフックに引っかかって引っ張り出される!
急速な巻き取りで、俺たちの目の前に“青い”宝石が落ちてきた!!
「よっしゃあ!! “勇者のナイフ”!!」
「“筋力増加薬”も追加だねえ!!」
【危険・逃走開──】
俺の攻撃準備の前に、“青い”宝石が逃げ出そうとする。
が──その“青い”宝石本体に、“手錠ががっしりと嵌め込まれる”
「トラップカード・“不自由の鉄球”だ!! 今度は逃さねえぜ!!」
「ナイスだねえ、ショー君!!」
「私のフックも引っ掛かったままよ!!」
“青い”宝石が激しく揺れるが、一切外れる様子はない!
完全に捕まえた!!
「これで、今度こそ終わりだああああああああぁぁ────ッ!!!!」
【危険・危険・危険──】
その叫びと共に、俺は“勇者のナイフ”を振り下ろし。
【危、険──。──…………】
青い宝石は、真っ二つに別れ。
浮かび上がっていたそれは、地面に落下し。
今度こそ、完璧に。
活動を、停止したのだった──