「終わった……? 終わったよな、今度こそ終わったよな? 分裂して襲いかかってくる、なんて事はないよな?」
トレジャーゴーレムのコアを一刀両断した後、俺は確認の意味を込めて、何度も繰り返しそう聞いていた。
炎の四天王の事がこの間あったから、こういう宝石のコアを持つ敵に対しては全く安心出来なくなっていた。しかし……
「……ええ、大丈夫よ! 地図に敵性反応は無し! 完全に沈黙してるわ! 私達の勝利よ! やったわ!」
「──よっしゃあああああああぁぁぁぁつかれたあああああぁぁァァ!!!」
シルフィのその言葉を聞いて、俺は残心を解いて喜びの雄叫びを上げていた。
そのまま流れで愚痴に映りながら、背中から倒れている。
「いやあ、大決戦だったねえ」
「スッゲー楽しかったぜ!!」
Dr.ケミカも白衣の袖で額の汗を拭い、ショー君も両拳を握りながら興奮した様子を隠せないでいた。
「もーマジで疲れた!! 炎の四天王の時よりは遥かにマシだけど!! 一発クリアできた俺自身を褒めてやりたい!!」
そう、よくよく考えてみれば、炎の四天王の時は50回以上俺はセーブポイントを利用してリトライしていた。
あの時は文字通り死んでも抗い続けていたが、あれはユウカの命、いや心が死にかけていたからそれを救うために頑張っていたわけで。
対して今回は、家の修理費用を稼ぐという比較的どうでもいい理由。
事前にする覚悟の差が大きかった。
要は、油断している時にボス戦やってくるな、が正直な感想だった。
「いや、確かに元々ボス戦のつもりだったけどさあ……ユウカがワンショット決めてくれたから、終わったと思うじゃん普通。それがボスと全然違う動物でしたなんて……上げて落とすのやめて欲しいよマジでー」
「よく分からないけど、大変お疲れの様だねえ」
大の字で倒れながら愚痴を吐き続ける俺に対して、Dr.ケミカが覗き込む様な姿勢から声をかけてくる。
まあ、結局トレジャーゴーレムと戦う事を決めたのは俺自身だけどさ。
だからあまり文句は言えないんだけどさあ……
「けど、おかげでお宝ザックザクだぜカイトの兄ちゃん! これでオレ達お金持ち……」
「ああああああああぁぁぁぁぁぁッ??!!!」
「っどうした?!!」
シルフィの叫ぶ様な声に、俺は飛び上がる様に起きる。
まさか、やっぱりまだ倒し切れていなかったのか!?
そう警戒すると……
「お宝が……あれだけあった“金銀財宝の大半が溶けてる”ーッ?!」
「へ?」
その言葉に、あたりを見渡してみると……うっわ、本当だ?! 金らしき溶けた金属が大量だ!?
「あー、これ、多分イフリートドラゴンとやらの攻撃のせいだねえ。さっき炎が大量の財宝を貫通していただろう?」
「ご、ごめんだぜ……手加減できる状況じゃなかったから、つい……」
「どーしてくれるのよ!? 9割くらい溶けちゃってるじゃない!?」
シルフィの叫ぶ様な言葉に、ショー君はしゅんと縮こまって頭を下げていた。
まあ、ショー君の言う通りあの状況じゃ仕方なかった。
シルフィの気持ちもよくわかるけど……俺は落ち着かせるために声を掛ける。
「落ち着けってシルフィ。ほら、入り口を塞いでいた方の財宝は無傷だろ? そっちだけでも十分な量はあるだろ」
「っ!! そうね、そっちを忘れていたわ!! ボスを倒した事だしもう自由に撮れるはず! よーし、せっせと回収……」
そうして、シルフィが気持ちを切り替えて入り口の宝の山に向かおうとして……
「シャイニング・レイ────ッ!!!」
……微かに聞こえる、聞き覚えのある声。
それと同時に、入り口の宝を吹っ飛ばす光線。
「…………ああああああァァァァァ────??!!!」
「入り口側の宝も大半壊されちゃったねえ……」
2度目のショッキングな悲鳴を上げるシルフィの横で、そう呑気にDr.ケミカが状況説明し。
「カイト!! みんな、無事かい?!」
開いた入り口から、ユウカが急いで入って来る。
剣を構えており、いつでも臨戦出来る状態だった。
「ユウカ!!」
「ごめん! 小型の獣たちが沢山やって来ていて、なんとか足止めと反撃をしていたんだけど、いつの間にかカイト達の入っていた部屋の入り口が塞がれている事に気づいて! 急いで壊して入って来たんだけど、大丈夫かい!?」
そう言ったユウカの姿をよく見ると、あちこち返り血やら傷やらでボロボロだ。
向こうは向こうでよっぽど大変だったんだろう。
「それで、状況は……」
「あんた、何してくれてんのよあんたぁッ!?」
「え? いや、え? ど、どうしたんだい?」
が、んな事知ったこっちゃねえとばかりに、シルフィがユウカに掴みかかる。
あちゃあ、どっちの気持ちもわかるから責められねえ……
シルフィはあれだけの激闘で得た宝を壊された事。
ユウカは俺たちを心配して急いで来てくれた事。
うん、どっちの気持ちもよく分かる。
そんなシルフィにDr.ケミカが慰めの声を掛ける。
「まあまあ、溶けたり壊れたりとは言え、金は金だ。それなりの価値は残っているだろう? それで十分じゃ無いかい?」
「そうだけど、そうだけど!! けど宝として歴史的背景とか、美術品とか、そういう付加価値が付いてるものなのよ!! それが無くなればガクンと根が下がるの!! あれだけの財宝が9.5割方安くなるって、すごいショックじゃん! 本来の取り分から考えると尚更!!」
「アウアウ……」
ユウカをガクンガクンと揺らしながら、Dr.ケミカの言葉にシルフィはそう反論していた。
それを聞いてDr.ケミカはあー……と声を漏らす。
まあ、せっかく手に入れたものの価値が下がった、と言われたら普通にショックか……
まあ正直、残った分だけでも俺にとっては十分な額になるだろうから、俺はそこまで気にして無いんだけど……借金してるシルフィに取っては、死活問題か。
「けどまあ、いろいろ言いたい事はあるだろうけど、とりあえず一旦帰ってセーブしようぜ。どうせ一気にお宝持って帰れないんだし、セーブしてから出直そうぜ」
「っ!! そうよ、セーブよ!」
「アウッ?」
するとシルフィが、何かに気づいた様にユウカの肩を手放す。
どうした?
「確か“ロード”って機能があったのよね!? それ使ってやり直しましょう! 今度はお宝を無傷で倒すの!?」
「はあ!? つまりさっきの戦いをやり直せって事!?」
「そう、いいでしょ!?」
シルフィは両手を広げてキラキラした目で訴えてくるが……
「いやです、疲れました」
「正直、同感だねえ。急に2度目は……」
「連続はちょっときついぜ……」
俺達は全員手をバッテンにして、その案を否定した。
せっかくノーコンティニューでクリア出来たんだ、ただでさえ洒落にならない激闘だったのに、やり直しなんて勿体ない事出来るか。
「そんなあぁぁぁ?!」
「いや、次はボクも参戦するから、今より楽に……」
「あんた来ても、どうせどの道お宝ごと吹っ飛ばすでしょーが!?」
「あうっ……」
うん。多分ユウカがいても、ボス部屋外からの完全詠唱二回目をやっても、宝の被害は甚大だろう。
不意打ちせずにボス部屋入ったとしても、どの道得意技で宝ごと吹っ飛ばすのは想像に固く無い。
というわけで、やっぱりやり直しはしたく無いわけで。
「ほら、いったん帰るぞー」
「いーやー!? 私のお宝ー!?」
こうして、俺達は泣き喚くシルフィを引きずりながら、俺の家に帰って行ったのだった……