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第86話 ただいまー

「うう……“セーブする”」

「よし。じゃあ俺も“セーブ”っと……」


 家に帰った俺たちは、さっそくセーブクリスタルに手をつけてセーブ機能を実行していた。

 シルフィがゴネにごねていたが、なんとか説得して今に至る。


「うう〜っ、絶対勿体ないわよ! あれだけあれば借金はおろか、一生遊んで暮らせるだけの額になってたかもしれないのに!!」

「まだ言うかこいつ。何度も言ったけど、さすがに俺たちも休みたいんだ。お前一人やり直してもいいけど、その場合お前が一人であのボス倒すんだからな? 後、その場合俺の家の金庫の中盗もうとしたお詫びは別で支払ってもらうから」

「おにー!?」


 人間です。シルフィは自分だけセーブをしない選択も考えていた様だが、やり直した場合の手間と、セーブせずに待機している間に、あの部屋の宝を誰かに持ってかれる可能性を指摘すると、ようやく諦めてくれた。


「お疲れ様ー。どうだった?」


 そうしていると、ソラがリビングに入ってきた。

 どうやら二階にいたらしい、そこから降りてきたっぽい。


「おお、ソラ。とりあえず、割と大成功といった所だ。十分宝は手に入ったぜ」

「本当ー? それはラッキーね! 新しいお洋服買えるかしら?」

「その前にリビングの修復が先だ先」


 キラキラとした目をし出したソラに、俺は冷静に優先順位を指摘する。

 まあ、実際は換金の手間が色々めんどくさそうだけど……まあ、“俺の知り合い”に頼めばなんとかなるだろ。

 そんな事を考えていると、ユウカもセーブクリスタルに手を出そうとする。


「それじゃあ、ボク達もセーブを……」

「ふむ。“ロードする”」

「……え?」


 すると、Dr.ケミカがセーブではなく、ロードを実行していた。

 それが予想外だったのかユウカは呆けた声を上げるが……


「うん? 何を驚いているんだい? セーブが必要なのは、シルフィ君と、一応カイト君くらいだろう? 我々は別に、わざわざ自分の世界の時間が進んだ状態でセーブする必要は無いし、アイテムも消耗しまくっているから“むしろロードした方が得”だろう?」

「……ああ!?」


 その説明にユウカは驚きの声を上げていた。俺自身も見落としていた。

 そっか、異世界に助っ人に行った組は、よくよく考えるとセーブの必要無いのか!?

 むしろ消耗したこと考えると、ロード一択!

 って事は、うわー!? この間の炎の四天王戦の後、全員でセーブさせちまった!?

 あちゃー、今度マホとメタルマンにもこの事教えておこう……


「それじゃあ、オレも“ロードする”だぜ! ……うわー!? 本当に消耗したカードのインターバルが戻ってるぜ!?」

「ふむ。私もこの通り、消費した薬品が復活してるねえ」

「じゃ、じゃあボクもロードを……うん、直ったね」


 ショー君がデッキを確認しながら驚きの声を上げ、Dr.ケミカは白衣の裏側を見せながらそう呟いていた。

 ユウカも自分の装備を見て頷いている。

 それを見てシルフィは羨んで……


「ちょっとずるいわよ!? 私もロードを……」

「いや、君はむしろしちゃダメだろう? 手遅れだし、進んだ盤面なんだから保存しないと」


 見当違いの妬みに対し、Dr.ケミカは冷静に指摘する。

 それに対し言い返せずにうーっと唸っていた。


 とりあえず、これで俺とシルフィを除いた3人は元気いっぱいだ。

 いいなー……俺も元気一杯になりたいんだけど、ソラに警告されてるんだよなあ。

 俺がロードする場合、“ユウカ達含めて状況戻る”から、あまりやっちゃわないで、って。

 つまり、ユウカ達の記憶も戻ってしまう。

 まあ、せっかくみんなと過ごした記憶がみんなから消えるのは嫌だから、仕方ないか。うん。


 するとソラが、俺達に声をかけてくる。


「とりあえず、今日のところは休みましょう? そっちの3人はロードしたとは言え、精神的な疲れはあるでしょ? もう直ぐお昼の時間だし、ご飯食べましょう!」

「あ、そっか。朝シルフィの世界に行って、それからボス戦だけして帰ってきたから、まだ2時間とちょっとくらいしか経ってないのか」


 あれだけ密度の濃い激戦をしたにも関わらず、それだけしか時間が経ってない。

 正直、1日は経っているだろうと勘違いしてしまっていた。

 あれがたったの2時間の出来事だったとはとても思えないや。

 すると、ソラが盛り上げる様に声を出した。


「それじゃあ、みんな疲れているだろうから、私がお昼を作って上げましょう!」

「はあ!? マジか、お前料理出来たっけ? 手伝いくらいならあったけど」

「舐めないでくれる? ──さあ、この中から好きなものを選びなさい!」

「“全部カップラーメン”じゃねーかっ!?」


 そんな最後にちょっとしたツッコミがありながらも、俺たちはようやく一息をつけたのだった……


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