──ふむ。不思議なこともあった物だねえ。
私は内心、そう思い込んでいた。
ゾンビだらけになった未来のない世界にいた私が、こんな平穏そのものの光景を見ることになろうとは。
望んでもない事だったねえ……まあ、平穏だけじゃないか。
勇者にドラゴンにエルフ、空想の存在でしかなかった者たちと実際に出会えて、しかも一緒に冒険する事になるなんて。
まさしく文字通りファンタジーな出来事じゃないか!!
いやはや、とんでも無く貴重で、面白い体験だったよ。
まさか……
──世界をゾンビだらけにしてしまった、原因の一人である私が、こんな体験を、ねえ……
はは……神様っていうのは、不公平なんだねえ。
なんで私を選んだんだろうね?
もっとこの平穏な光景を享受するべき罪のない人々がいただろうに……
まあ、今は心の隅に置いておこう。
こんな私でも、誰かの役に立てる事を教えてくれたんだ。
せいぜい、私の正体がバレるまでは、彼らに協力するとしよう。
いい夢を見させてくれるお礼に、ね……
☆★☆
──あーもう、勿体ない! けどまあ、大儲け出来たわ!!
私はそう、今回の出来事を振り返って思っていた。
今まで一人でしか冒険出来なかったダンジョン探索。
それを複数人で、しかも頼れる仲間として冒険出来たのはかなり得難い経験だった。
それに、初めてボスを倒すことも出来たしね!
今まで私は、リスクを取らない様にボス部屋で引き返すことしか出来なかった。
それが今回は、実際にボスを倒して、莫大なお宝を手に入れることが出来たんだから!
そりゃあ、確かにお宝が安くなっちゃったのはショックだったけど、ボスを倒せた達成感は半端ないわ!
──そうよ、元々はこの気持ちを求めて冒険に出たかったのよ。
私は借金漬けになる前は、純粋にロマンを求めて冒険者になりたかった。
だから故郷を飛び出したっていうのに。
騙されて、借金だらけになって、いつの間にか臆病になっちゃって。
利息だけを返す細々とした成果しか出せなくなっていた。
でも、今回はすっっっごく楽しかったわ!
またこの気持ちを味わえるなら、彼らに付き合ってもいいわね!
もしダンジョン探索以外でこの気持ちを味わえるなら、教えてほしいわね!
☆★☆
──あー、スッゲー楽しかったんだぜ!!
俺はそう思っているんだぜ!!
カードゲームとは違う、純粋な冒険! こんな体験、滅多にないぜ!!
まさか異世界なんてものがあるなんて……その異世界で、遊び相手が増えたことも嬉しいぜ!
ドラゴンたちも暴れられてスッキリしてるみたいだし、いい経験だったぜ!
それに、みんな優しかったんだぜ!
とても居心地の良い家で、満足なんだぜ!!
にしても、久しぶりにカードゲームのフリーバトルをやったんだぜ!
カイトのにーちゃんが対戦相手になってくれて、嬉しかったんだぜ!
そりゃあ、流石にカイトのにーちゃんは初心者だったんだけど、俺も久しぶりに別のデッキを使ってちょうど良い強さ同士で戦えて満足だったんだぜ!
勝ったり負けたり、良い勝負だったんだぜ!
──本当、負けても良い戦いなんて、いつぶりなんだろ。
ああ、勝つことだけを求められる、世界を掛けた戦い。
それが無い戦いなんて、本当に久々だ。
この日常が、本当に穏やかで、嬉しかったんだ。
だから、もう少しだけ休ませて欲しいんだぜ。
冒険もいいけど、勝敗が求められないバトルは、とっても楽しく出来るんだから。