「……ていう事が、あったらしいのよねー」
「へー、大変だったんですねー、お兄さん達」
ダンジョン探索騒動が落ち着いて、しばらく経った後。
久しぶりに真帆がこの家にやって来て、ソラとそんな会話をしていた。
互いにテーブルの上に置いてあるお茶菓子をボリボリ食べている。
おいこら、食べかす零すな。
「あーもう、ボロボロこぼしてるじゃねーか。煎餅食べてるんだからもう少し気を付けろよ。たく……」
「はい、チリトリここに置いておくね。食べ終わったらきちんと自分達で片付けるんだよ」
俺はその光景を見て呆れている中、ユウカは掃除道具をソラ達の近くに置いていた。
こうして一緒に暮らしていて分かった事だが、ユウカは割と本人に責任を取らせるタイプらしい。
準備の手伝いくらいはするが、あくまでやるべき事は本人にやらせると。
「ちぇ、はーい」
「分かりましたー」
ソラがしかめっ面した状態で返事をする。マホも了承の声を出した。
ユウカがいてくれるおかげか、ソラは最近だいぶ素直に動いてくれる様になっていた。
おかげで俺はだいぶ色々楽だ楽。
っとと、やばいやばい。またユウカに頼り切りになる所だった。
家主として最低限の意識はしないとな。
「ところで、話を戻しますけど。だからリビングのあそこの一面だけ不自然にピッカピカになっていたんですね。あそこですよね、ドラゴンさんに燃やされたのって」
「ああ、そうだな。おかげさまでめっちゃピッカピカに修理してやったわ。大分値は張ったけど」
「そう言えば、緊急時以外は暫く来ないようにって言ってましたっけ」
マホが指差した先は、話題に出てた通り俺が修理業者を呼んで直してもらった所だった。
燃やされる前の時よりもしっかり綺麗になるように直してもらっていた。
まあ、修理業者の人があの惨状を見た時、「何があったんですか?」って言われた時、上手い言い訳をとっさに思いつけなくて……
『……知り合いに室内でキャンプファイアーやられました』
って、言っちゃったんだけど。
業者さんに流石に怪しまれたんだけど、そんな人とは縁切るべきですよ、って言われて話が終わって、ぎり誤魔化せたな。
「そう言えば、その新しい人たちって今日は来てないんですか?」
「ああ、とりあえず3人とも自分の世界で用事があったり、やる事があるからと言って今日はいねーや」
マホが口元を拭きながらそう問いかけて来て、俺はそう答えた。
確か、Dr.ケミカが拠点の引越し作業。
シルフィがギルドに宝の売買。
ショー君がカードの大会に出るとか。
「だからちょうど、マホとはすれ違いだな」
「そうだったんですね……是非今度お会いしたいですね!」
ところで……そう言ってマホはキョロキョロと辺りを見渡し始めた。
「“メタルマン”さんは今日はいないんですか? 最近見てないんですけど……」
「メタルマン? そう言えば見てないな?」
「ここ最近、ボクはカイトの家にずっといたけど、確かに彼あまり来てないね」
ユウカがテーブルの上を片付けながらそう呟く。
言われてみればメタルマン本当に全然見てねーな?
「そうねー。彼がここにいたら、せっかく“ファーストメンバー”が久しぶりに揃う事になったのに」
「なんだ、ファーストメンバーって」
ソラが急に聞き覚えのない言葉を言い出した。何それ?
「ユウカちゃん、メタルマン、マホちゃん。この3人が、最初にセーブポイントの利用者に選ばれたのよ。もちろん、カイトは除いてね。だから、“ファーストメンバー”。で、ケミカちゃん、シルフィちゃん、ショー君が後から来たから、“セカンドチーム”。どう? 中々良い分け方でしょ」
「メンバーかチームか統一しろよ」
そこを敢えて不一致なのが良いんでしょーが、とソラは指を立てて反論して来た。
正直よく分からん。
「けど、ちょっと心配ですね。ここまで顔を見せないなんて……」
「逆に順調って証拠じゃないかい? セーブポイントを使う必要も無いって事で」
マホの心配の声に対して、ユウカが別の見方ができるんじゃ無いかと指摘する。
確かにどっちの言い分も分かるけど……
「けど、あんまりセーブしに来ないのも不安だわ! それで死んじゃって大幅にやり直す事になったらどうするのよ! 大問題じゃない!!」
「普通は死ぬ事前提で、行動考えたく無いけどな……」
ソラの怒ったような文句に、俺はそう口をこぼす。
よくよく考えてみれば、セーブという行為を行える事自体が異常行為だ。
セーブポイントを使わず暮らしていくのが普通なのだ。
なのにソラは……
「しょうがないじゃない!! あなたたちにセーブポイント使わせないと、“その世界あっという間に詰み”よ!? 世界滅ぶの確定よ! 良いの!?」
「何か逆にいうと、私達に自分の世界の運命がかかっているようでプレッシャーが半端ないんですけどー!?」
「みたいじゃなく、実際そうよ」
「断言されましたー!?」
「分かるよ……ボクも同じ気持ちだったよ、うん」
いーやー!? と叫ぶ真帆に対して、ユウカが肩をポンっと触って慰めていた。
おい、じゃあ“ここに来るメンバー、全員苦しい逆境確定しています”って言われてるようなもんじゃねーか!?
「じゃあ、メタルマンもまたその内苦しくなるのかよ? 状況が……」
「僕の炎の四天王の時みたいにかい?」
「あれレベルでですか!? 私たち全員で戦ってやっとだったやつじゃないですか!?」
ユウカの詰みセーブの原因だったあの出来事は記憶に新しい。
一般人の俺ですら、必死に戦いに参加した上でやっと掴んだ勝利だった。
正直、あれレベルは暫くごめんこうむりたいが……
「まあ、メタルマンが困ったら言いにくるだろ。その時になってから、また考えようぜ」
「そうだね。ボクたちがここで今考えてもしょうがないか……」
「あのー、メタルマンさんより先に私が苦しい状況になる可能性も……」
「十分あり得るわね」
「やだー!?」
そう泣き喚いたマホを慰め、何かあったら必ず相談する事を取り決めて、その日は解散する事になったのだった。
まあ、暫くは大丈夫だろう、と根拠も無くそう思っていた。
実際問題は無かった。結構長い間。
……後から気づいたが、そりゃあそうだった。
──メタルマン、隠してやがった。