「っ!??」
バッと、俺は声を掛けられた方向に振り向いた。
そこには、機械の整備士みたいな格好をしていた人物が立っていた。
工具箱を片手に持って話しかけてくる。
「あんた、今空を飛んでいただろ? どうやって飛んでいたんだ? ていうか、こんなところで何してんだ?」
純粋に質問して来ているような雰囲気に対し、俺は一時固まっていた。
──この男は、ウチに来るメタルマン達以外で、初めての現地異世界人。
つまり、初めての現地人との交流だったからだ。
今まで俺が異世界に行った時、ユウカの世界では炎の四天王という人外。
シルフィの世界では獣やゴーレムといった動物無機物。
純粋な現地人との遭遇はこれが初めてだ。
だからこそ、なんて答えれば良いか一瞬詰まる。
「ん? どうした?」
まさか、馬鹿正直にあなたから見たい世界人です、なんて言えるわけも無く。
あまり目立ちたく無い以上、当たり障りのない会話をするしかないのだが、どう答えれば良いかわからない。
いつも我が家に見知らぬ異世界人が来た場合は、ソラが対応して説明してくれていたが、これは状況が違う。
どうしよう……
「……いや、なんでもない。ただちょっと辺りを見渡したかったから、空から見てただけだ」
とりあえず、本当のことを言う。
下手に嘘をついて挙動不審になるよりは、遥かにマシだろう。
敬語で話した方がいいかと一瞬悩むが、相手もタメ口だったからそれに合わせておこう。俺はそう思った。
「それで、空を飛んでいた方法は、このブーツのおかげなんだけど……」
「あ──ッ?!」
突然の大声に、俺はビックリする。
目の前の男が俺の足元を見て声を上げたらしい。
「その靴、メタルマンが作ったやつじゃないか!? それを持ってるって事は、あんたもしかしてメタルマンの知り合いか!?」
「え? ああ、うん。そうだけど……という事は、もしかしてあなたも?」
「おう! 俺の名前は“マックス”って言うんだ! よろしくな!」
自分を指差して自己紹介するマックス。
まさかメタルマンを知ってる人といきなり遭遇するとは。
メタルマンの世界とは言え、すごい偶然だ。
「あんたの名前は?」
「ああ、俺の名前はカイト。よろしく」
「カイトか、いい名前だな。よろしくな!」
そうして、俺達は互いに握手を交わした。
最初はどうなるかと思ったけど、割とやっていけそうか?
俺はそう思って内心少しホッとした。だが……
「いやー、まさかメタルマンの知り合いがいるとはな! あいつあんな性格だから、仕事仲間としてはともかく、親しい奴があんまり出来ねえんだよなあ」
「あはは、まあ確かに」
マックスの言葉に俺は軽く同意する。
あいつ、知り合いからも同じように思われてたのかよ。
それがちょっと笑ってしまって。
「あんたはどうやってメタルマンと仲良くなったんだ? 正直興味深いぜ」
「えーっと……」
さて、また答えづらい質問だ。どうしよう……
「……俺の家にメタルマンがやって来て」
「あいつから? マジか、なんで?」
「俺の家、金属とかいくつかあるから、それを素材としてメタルマンに上げているんだ」
「素材を!? そうか、通りでメタルマン、最近装備の新調が多いと思ってたんだ。なるほどな……」
マックスは、顎に手を当てて納得したように頷いていた。
よし、これも切り抜けたか……
「ところで、あんたはどこ住みだ? メタルマンと親しい割には、俺は見たこと無いし、ひょっとして別の艦住みか? ワープゲートで来たのか?」
「あー、まあそんな所」
少なくとも、俺の家はここの艦の上じゃ無い。
ある意味、言う事は間違っていないだろう。
それを聞くと、マックスははへ〜……と声を漏らし始め……
「なるほどなー……失礼、ちょっといいか?」
「うん?」
そう言って、マックスは懐から何か端末を取り出して、少し操作したかと思うと……俺の方に向けた。
するとその機械が、ピッと音を鳴らす。
「反応無し、と……はあ? じゃあますます分からねえな」
「どうした? というか、今何やった?」
「ああ、単純に“あんたがインベーダーなのかどうか調べていた”だけだよ」
「インベーダー?」
侵略者って意味? いやあれ、どっかで聞いたな?
確か……ああ、そうそう。メタルマンが初めて俺の家にやって来た時、なんかそんな事言ってたっけ。
確か、世界中に突如現れた、宇宙からの“機械生命体”だっけ?
それで陸を追われたとかなんとか、あーだんだん思い出して来た。
なるほどなるほど……ちょっと待て。それを俺に向けて確かめられたという事は……
「あー、まあいいや。もうまだるっこしいことは無しだ」
すると、急にマックスが頭をガシガシと掻きながらこっちを睨みつける。
その目は、さっきまでのお人好しのような柔らかさは消えていて……
「単刀直入に聞く。お前……何者だ?」
そうして、上手く行ってたと思っていた会話は、“大失敗”していたという事にようやく気づいたのだった。