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第99話 疑いの眼差し

「何者、って……どういう事?」


 さっき言われた言葉に、俺は一瞬固くなりながらも、なんとか声を絞り出した。


「とぼけんな。……つっても、俺もどう指摘していけばいいか分かんねーだけどよう」


 そう言って、頭をボリボリ掻きながら、マックスは一つずつ言葉を話して行った。


「まず、あんたが別の艦から来たって話。“これは嘘”だよな?」

「……なんで?」


 いきなり言い当てられた事に内心ビックリしながら、俺は話の続きを促した。

 嘘だろ、すぐバレる? そんなに不自然だったか俺?

 その理由は、すぐに説明された。


「今この艦は、厳戒態勢中でな。“別の艦とのワープゲートが一時封鎖中”されている。その直前に、関係者は全員戻している。つまり、他の艦の人間がこの場に居るはずないんだよ」


 あちゃー、と俺は内心つぶやいた。

 適当にごまかした部分だったけど、あれ要はブラフだったのかよ。

 こっちの正体を探るために。けど……


「ちょっと待った。悪いけど、俺はそれを断言した覚えは無いぜ。ただ、そんな所、って行っただけだ」

「ほう? 確かに、言われてみればそうだな。だが、どちらにせよ俺はあんたの顔を今まで見たこと無いし、元々この船に居なかったって言い張るなら、それはそれで不法侵入した可能性が出てくるんだが」


 あ、だめだ。ちょっと抗って見たけど、どの道駄目だった。


「そもそも、厳戒態勢中一般人はよっぽどの理由がない限り外出禁止中だし、それ事態を知らなさそうっていうのがおかしい。この船に少しでもいたなら、それに気付いたはずだ。なのにそれを知らないっていうのは、明らかに不自然だ」


 止めてー、指摘しないで。

 俺の甘く見てた部分が浮き彫りになっちゃう。

 そんな事を思っていても、次の指摘に移ってしまった。


「次に、素材の件についてだ」

「素材?」

「さっき言ってたよな。メタルマンに素材を上げてるって」

「そうだな。それがどうした? 言っておくけど、これは嘘じゃ無いぞ」

「“量が異常”なんだよ。メタルマンの装備の新調ペースが早すぎる。あれだけに必要な素材量、どう考えても個人で用意するのは難しい。こんな船の上ならなおさらな」


 なるほど、確かにここは空中。

 大陸じゃ無い以上、金属素材の補充は殆どないか……


「けど、それならメタルマンはどうやって素材を手に入れた? 実際に装備を新調した以上、素材をどこからか手に入れたって事は確定だよな」


 しかもマックス曰く、以前何回か余った部品で作ったとか言って、新造した武装をいくつかみんなに分けて貰ったことがあったらしい。

 あの時は危機的状況だったから、深く追求しなかったらしいが、よくよく考えればおかしかった、との事。


「だからこそ、怪しいあんたから手に入れたって言うのは、嘘じゃなさそうなんだよな。……けど、それはそれでさっきの個人で用意できるのがおかしいって話につながる」


 最後に……と、マイケルが俺の足元を指さした。


「そのブーツ。メタルマンからもらったっていうのが信じられない。さっきも言ったが、あいつがそれを上げるくらい仲がいいって言うのが、どうも信じ切れない。俺達ですら、そこまでの仲になるまで時間掛かったってのに……」

「けど、実際に本人からもらったしなあ」


 これは嘘じゃ無いから、誤魔化しも何も無い。

 実際普段迷惑掛けてるプレゼントとして貰ったものなんだから。

 戦闘の時は大変役に立っております。


「そうなんだよな……仮に盗まれたとしても、あいつがそんなミスするとは思いづらいんだよな。仮にそうなっても、“自爆機能”とかで、技術の流出を防ぐような奴だし」


 こっわ、メタルマン自爆機能なんかつけてたの!?

 でも確かにあの用心深さなら納得できるけども! イメージ付きやすいけども!!

 まさかこれも!? このブーツもか!?

 なんつー危険なもんを渡してんだアイツ!?

 俺は自分の履いているブーツが一気に危ないものになった事に冷や汗を掻いた。


「というわけで、結論。あんたの事は、“嘘をつくめっちゃ怪しそうな奴なんだけど、だからこそ状況証拠から逆算すると、メタルマンと知り合いっていうのが本当そう”っていう、めちゃくちゃ不自然な人物になるんだよ」

「あー……」


 なるほど、こうしてあげられると、確かに信じづらいけど、変に裏どりが出来るからそれがむしろ違和感になっていると。

 俺傍から見ると、こんなに怪しかったの? 全然ごまかせてねーじゃねーか!?


「今ここで、手っ取り早くメタルマンに連絡を取って確認しても良いけど……今アイツ、クッソ忙しいんだよ。と言うわけで、俺の方でなんとか出来るなら俺だけでアンタを対処したい」


 あ、やっぱりメタルマン忙しいんだ。

 メタルマンに連絡されないのは、良かったのか、それともこの状況だとよく無いのか……


「というわけで、改めてさっきの質問だ……“お前は何者だ、答えろ”」


 そうして俺は、マックスに問い詰められる。

 今度は嘘やごまかしが効きそうに無い……


 だから、俺は……


「ごめん……


 ──俺、本当は“異世界人”なんだ」


「…………………………は?」


 俺の言葉に、マックスは鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になっていた。よし。


「家も異世界にあるし、そこから来たからこっちの世界の事何も知らないんだ。騙そうとしてごめんなさい」


 そうして、俺はペコリと頭を下げた。


 ──正直に言おう。ぶっちゃけこのループは諦めた。

 ここまで怪しまれている以上、追加の嘘をついても見破られるだろう。

 下手をすると、このまま通報か何かで俺が捕まる可能性もある。

 だったら、もう正直に言って後でループしちゃおうって開き直った。

 そう考えれば、俺の正体を聞いて、仮に信じられなかったとしても、そのまま捕まったとしても、これ以上状況悪化しても大してかわんねーな、と割り切れるからだ。


 だからぶっちゃけた、もうどーにでもなーれ。


「…………………………はっ」


 しばらく黙っていたマイケルが、ふとそんな言葉を漏らし……


「──アーッハッハッハッハハハハハハ!??」


 もの凄い笑い声をあげたのだった。あちゃー。


「い、異世界人だって!? 追々、ごまかすにしても、もっとこう、あるだろ!? どんな適当な言い訳? ナイスジョーク! アーッハッハッハ!!」


 マックスは、それはもう文字通り抱腹絶倒だった。

 上半身が地面に水平になるくらい腰を曲げて、両腕でお腹を抱えている。

 顔が地面に向けられたまま、ヒーヒー、アハハと笑い続けていて、呼吸困難な状態にさえなっていた。


「ヒー、ヒー……あー、笑った笑った」


 そうして、マイケルはやっと体を起こしたら、こっちを見て来た。

 その顔は、さっきまでの警戒するような表情じゃなくなっている。


「OKOK、カイト。とりあえずあんたにも事情はありそうってのは分かった。ひとまず、あんたの事を異世界人……ププッ、扱いって事でいいか?」

「あ、うん。それでいいよ」


 お、ちょっと予想外。

 流石に異世界人って事は信じ切れてなさそうだけど、それを前提として扱ってくれるっていうのは凄い助かる。


「よし。それじゃあ、ようこそ異世界人。【ユニオン・バース 第13番艦】へ」


 そうして、マックスは両手を広げて俺を歓迎してくれて……


「……それじゃあ、異世界人だから“どの道不法侵入として捕まえる”な」

「やっぱりー?」


 にっこりとした表情のまま、はっきりとそう言った。

 ちっくしょー、やっぱだめかあ。

 まあ、異世界越しでも不法侵入なのは確かに否定出来ないしなあ、そこ突かれると痛いよなあ……


「というわけで、まあお前を勾留所まで連れて行くから、ついて来てくれ。言っておくけど、逃げようとするなよ。その瞬間、俺よりもっと問答無用な奴らがお前を捕まえに来るからな」

「はいはい、分かったよ」


 まあ、捕まる事はもう予想の範疇だったからいいや。

 もうロードは確定だろうし、できる限り情報集める事に切り替えよう。

 あ、そうだ。


「ところで、さっきも言ったように俺は異世界人だから、こっちの世界の事を何も知らないんだ。だから移動の時、いろいろ教えてくれない? 軽い歴史とか、世間話程度のものでもいいから」

「まだ成り切ったままなのか。まあいいや、俺がそのつもりで扱うって言ったしな。了解、なんでも聞いてくれ」


 こうして俺は、マックスに連行されながら、この世界の事について説明されて行くのだった……


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