「……まいったなあ」
ボクはユウカ。今まさに途方に暮れている所だった。
というのも……
「まさか、“崖に転移されられる”とは……」
そう、ボクは今、まさに鉄製の崖にいた。
しかも、崖っ淵どころか“落ちた位置”にいる状態だ。
ワープ直後、ボクは空中に投げ出されていた。
そして自由落下しそうなところを、ボクは鉄製の崖に聖剣を突き刺して、なんとかそれにぶら下がっている状態なのだ。
「真下は海だし、こういう状況じゃなきゃ綺麗だなーって思えたのにな……」
しかも、“海面が離れている”。よく見ると、自分が突き刺した崖が海面まで付いておらず、全体がよく見えないが浮いているように見える。
さらによく見ると、“海が移動している”ようにも見える。
つまり、今捕まっている箇所が海の上に浮いて移動しているのだろう。
というか、さっきから鉄製の崖って呼んでいるけれど、それ自体もこの表現で合っているか怪しい。
シンプルにただ浮かんでいる鉄の壁なのだろうか?
「ここは、もしかして鉄の浮島か何かかな?」
そんなもの見た事ないけど。
ボクはそう転移した場所を見当づけた。
……後から知った事だけど、この場所は“浮遊する船”だったらしい。
ボクがいたのは、その船の側面下に当たる部分。
つまりボクは、船から落ち掛けていたのが真相だったのだ。
この事に当時のボクは気付いていなかったけど、とにかく現状をどうにかする事を考えていた。
「ひとまず、予備のナイフはあるし……“これと聖剣を突き刺しながら、上に上がって行くしかない”か」
全く。ボクは崖登りなんて、ほとんど経験したことは無いっていうのに。
旅の途中で険しい道を歩いたことはあったけど、ここまで険しい状況、いやむしろ、鉄製だから表面がツルツルしていてさらに難しい状況は初めてだ。
「全く、メタルマン。とんでもない罠を仕掛けてくれたね。後で文句でも言おうかな」
もちろん、勝手に入った僕たちにそんな資格は無いと分かっているけれど。
けど、ちょっと位良いよね。
ボクはそんな多少の恨みを抱えながら、黙々と崖を登って行くのだった……
「♢────────────────♢」
──そんなボクを、見ている“ナニカ”がいるとも知らずに。
☆★☆
「うう、どうしましょう……」
私はマホ。今とっても困っています。
というのも……
ヒュウウウゥ〜〜〜〜…………←(風通しの良くなった天井)
「まさか空中から落下して、“地面をぶち抜く”なんて……」
私は自分が穴を開けた天井を見上げながら、そう呟きました。
というか、外から見た時地面のように見えたからそう称しましたけど、実際は人工物の建物っぽいですね。
今私がいる場所、何か通路みたいな感じですし、多分地下の建物でしょうか?
そこまで貫通しちゃったっぽいですね。
……後から知ったことですが、私がぶち抜いたのはいわゆる甲板で、ここはもう船内だったらしいです。
「うう〜、防御魔法重ねがけしたら、こんな事になるなんて……」
メタルマンさんの家から、空中に転移させられてしまい、私はそのまま自由落下する事になりました。
残念ながら、私は空中を飛べる系の魔法少女では無いため、唯一出来ることは得意の防御魔法の重ねがけくらいでした。
それで落下のダメージ自体は完璧に防げたんですけど、ぶつかった地面へのダメージが予想以上に大きく、そのまま大穴開けてビックリです。
多分防御魔法を固めていたから、上から人間大の塊が落石してきたみたいな状態だったんでしょうね……
「私は無事なのは良かったんですけど、これだと……」
ウーッ!! ウーッ!!
すると、分かりやすいサイレンの音が鳴り響きました。
『F-86にて、破損発生。F-86にて、破損発生。インベーダーの侵入の疑いあり。直ちに確認せよ。繰り返す……』
「やっぱりー!? 騒ぎになっちゃってますー!!」
タイミング的に、どう考えても私ですもんね!?
それ以外考えられませんもんね!?
「うわーん! とりあえずごめんなさーいっ!!」
私はとにかく謝りながら、ひとまずその場から逃げる事を選択してしまいました……
☆★☆
「嘘でしょ……」
私はソラ。今とても絶望していた。
というのも……
ギッチリ ←(壁から上半身を生やしているソラ)
「まさか、“壁の中に転移”とか、信じられないんだけど!? どこのよくあるゲームネタ!?」
そう。私は壁の中に下半身が埋まっていた。
壁の裏側で足は自由に動かせるから、いわゆる“壁尻”と呼ばれる状態なのだろう。
「嘘でしょねえ、こんなことある!?」
気付いたら、こんな状態だ。
メタルマンの家のワープ装置が起動したら、私はこんな事になっていた。
装置に気付いてユウカちゃんに破壊してもらったのは良いんだけど、中途半端に破壊しちゃったから多分こうなっちゃったんだと思う。
「誰かー!? ヘルプミーッ!!」
私はそう肺の底から叫んだんだけど、付近に誰もいない。
多分どこかの路地裏。もともと人通りが少なそうな場所で、発見は絶望的だ。
「嘘でしょ、“私ロード機能自分から使えない”んだけど!?」
そう、実は私自身に、ロードを実行する権限が無い。
私はあくまで“分神”であり、一度に持てる能力に限りがあったため、他の能力を優先するため泣く泣くロード機能を却下したのだ。
最悪この自分が死んでも、本体が記憶を引き継いだ新しい分神を作ってくれるだろうから、そこまで自身の命を大切にする必要も無かったから。
それはそれとして、自死すら中々出来ない状況は大変困っているのだが。
それはともかく、通常ロードの代わりに“クイック・ロード”が使えるのだが、それはあくまでその場で体の状態を元に戻すスキルだ。
壁尻状態を抜けられる技じゃなかった。
つまり私は、誰かが助けてくれるか、カイトがロードして世界をやり直すまでこのまま……
「あーもう!! カイト早くロードしてえっ!!」
私はそう、遠くまで聞こえるようにヤケになって叫ぶのだった……
☆★☆
「……ん?」
「どうした?」
「……いや、なんでも無い」
俺はカイト。なんか誰かに呼ばれたような気がしたけど、気のせいか。
俺はそう思って、マックスの案内について行く事を続けていた……