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第102話 ネームド

 ──一方、その頃。


「メタルマンさん! お疲れ様です!」

「ああ」


 私はメタルマン。

 とある呼び出しがあり、私の上司にあたる長官の元に向かっているところだ。

 私に声を掛けてきたのは、私のような戦闘員にサポートをしてくれるスタッフの一人。

 直接戦闘は出来なくとも、現場の我々にとって無くてはならない支えの一つとなっている。


「この先に、長官さんが待っております! 今扉を開きます!」

「ああ」


 そうして、スタッフの一人が開けた扉の中に、私は入り込んでいく。

 背後で扉が閉まり、ブリッジのような部屋に入ると、目的の男は背を向けて立っていた。


「──来たか」

「ああ」

「……相変わらずぶっきらぼうな男だなお前は。以前からそうだったが、最近は特に無愛想さに身が増して来たか?」

「ああ」

「……お前、何か不機嫌なのか? 何があった」

「ああ。早く話せ」


 私は本題以外の話を適当に流し、すぐに説明に入るよう長官に促す。

 そりゃあ、ぶっきらぼうにもなるさ。

 “何回同じ話をしたと思っている”。

 ……長官にとっては初めての会話だろうけどな。こっちは言う内容を既に分かっているんだ。

 正直、何回か無視して直接現場に行った時もあったが……結局は失敗続きで、ここに顔を出した方が比較的マシそうと言うのが現状だっただけだ。


「……まあ良い。本題に入ろう。このところ、インベーダーの襲撃回数が多くなったのは知ってるな?」

「ああ」

「今はギリ対応出来ているが、それもいつまで保つかは分からん。……お前が私物から支給してくれた装備もあるが、残念ながらそれだけでは十分に対応し切れていないと言うのが現状だ」


 知っている。前にも何回か話している。

 多少怪しまれる事を承知した上で、装備を一般兵士にも譲渡したのだ。

 しかし、それでも“このループを抜け出せない”。


「一体なぜ、そんな急に襲撃回数が多くなったのか。検討がつかんが……」

「長官」

「ん? なんだ」


「──近々、“ネームド”が襲いかかって来るとしたら、どうする」

「──“ネームド”だと!?」


 私の言葉に、長官は目を見開いた。

 “ネームド”。言葉の通り、名前付き。

 インベーダーの中で、特に強い戦闘力を持つ個体の事を差す。

 “ネームド”には、その機体のどこかに個体識別名が元から刻まれている。

 名前は様々。“コバルト・ナイツ”、“レッド・ランチャー”、“イエロー・パラディン”と、色の付いた名前をしている事が多い。

 かつて歴史上何回か確認された事はあったが、その情報が得られるのは大抵、“戦艦が撃破され掛けた時に発信されたもの”だった。


 つまり、“ネームド”によって空中戦艦が滅ぼされる事が多かった、と言う証拠になる。


「確かな、情報なのか?」

「……私の勘だ」

「──正直、ふざけるなと言いたいが……貴様の事だ。詳しく言えないルートで得られた情報、と言ったところなのだろう?」

「ああ」


 それはそうだ。私は知っている。

 “ネームド”と、既に散々やりあっている。この先の未来で。

 それも、遠く無い内に、もう直ぐにでも。


「……とうとう、この船にも“ネームド”と遭遇か」

「ああ」

「……対策案は、あるか?」

「いくつかある。私の指示通りに采配を頼めるか」

「考慮しよう」


 これも、何度もやったループの一部。

 違うのは、指示する采配をループ毎に少しずつずらして行ってるだけ。

 思いついた案を、片っ端から試しているのだ。

 今回も失敗するかもしれない。けれど、それでも進歩が欲しい。

 “凡人”の私には、これしか出来ない。

 一つでも、“ネームド”の襲来に対抗出来るような方法を知れば……


 そうして、今回のループの序盤の準備をいつも通りに進めて行く──


「すみません、ちょっと報告よろしいでしょうか」

「……は?」


 ──が、今回はいつものループとは違った。

 私たちのブリーフィングの最中、スタッフの一人が入って来たのだ。

 どう言う事だ? 私は作戦はともかく、序盤のこの行動は変えていない。

 このタイミングで、スタッフが入って来ることなどループ中今まで一度も無かった筈だが……


「なんだ! 今重要会議中だ、後にしろ!」

「いや、聞こう。なんだ」

「む。どうしたメタルマン、いつもは貴様が寧ろ否定するだろう? どう言う風の吹き回しだ?」

「別に。この警戒時だからこそ、些細な事にも気になっただけだ」


 しかし実際、特に気になる。

 今までのループで無かった出来事だ。

 何か俺の行動変わったか? 見逃した条件があったか?

 ひとまず、なんでも良いからこの状況の突破口が欲しい。

 そう思って、話を聞こうとしたのだが……


「はい。F-86区域にて、破損が発生致しました」

「破損? そんな情報をわざわざ……インベーダー関連か? だとしても、ここ最近の襲撃でそんなのあちこちで起こっているだろう」


 内容は、ここまでは特に気になる点は無い。

 報告内容より、どうしてわざわざ報告して来た、と言うのが気になるな……


「はい。ですが、その……インベーダー関連では無いようでして」

「……インベーダー関連じゃ無い?」


 その言葉に、私たちは予想外と言った声を上げた。

 寧ろ襲撃で壊れた訳じゃ無いというのが、逆に珍しい。


「どうした? もしや経年劣化か? だとしても、今報告に来る内容では無いが……」

「いえ、違います」

「じゃあなんだ。はっきりせんか」

「……おそらく、“ミュータント”関連です。それも未確認の」

「「……は?」」


 未確認の、ミュータントだって?

 ミュータントなら、何人か知っている。

 今まさに、この艦にいる私の知っているミュータントを、適切な位置に配置させようとしていたところだったからだ。

 その私が、知らないミュータント? 


 なんだこれは、いつものループとは明らかに違う!!

 一体何が起こっている……!!


 混乱する頭とは裏腹に、私は内心高揚していた。

 少なくとも、この停滞した状況を打破できる可能性が生まれた事に、僅かながら希望を持ち始めた。


「確かなのか?」

「はい。少なくとも、我々の把握しているミュータントでは無いようです。別の艦からの不法侵入かもしれません」

「こんな時に……!! そいつが壊したのか? 特徴は?」

「はい。その……えっと……格好なのですが……」


 すると、報告に来たスタッフが何やら言いずらそうな様子を出していた。

 なんだ?


「どうした? 格好など、ミュータントには変わった姿がいくらでもいるだろう? 全身タイツとか、露出魔とか」

「そ、そうですね。えっとですね。確認出来たのは……



 ──“魔法少女”のような姿をしていたらしくて」



 ────? …………? …………?? …………! …………?! …………!??


 私の頭は一瞬疑問が走り、困惑し、思考し……そして、“心当たり”に思い至る。


「はあ? また変わった格好だな? そんな奴がいたか……おい、メタルマン。どうした?」

「────────────────は、あ」


 私は、片手を額に当てて、天を見上げた。

 ……私が行動変える以外で変わった、ループ内の挙動。


 よくよく考えれば、それが変わる要因など、一つしか思い至らない。

 この“世界のループ外からの影響”。……つまりは、異世界だ。

 そして、私の知ってる要員で、魔法少女は一人しか思い至らない。


 ────────何勝手に来てんだ、アイツ


 何故にあいつ、マホが私の世界に……私とあいつに、そこまで深い関係は無いだろう?

 ……いや待て。だからこそだ。あいつだけ一人か?

 マホ一人で来るなどと言うのが、考えづらい。

 と言う事は、私の心当たりのメンバー、まさか全員来ているんじゃ……


 ……いや、来るな絶対。


「──長官。状況が変わった。先に内部の不法侵入者共を確認したほうがよさそうだ」

「は? 何故だ、“ネームド”対策の方が優先だろう。……貴様の知り合いか?」

「………………………大変。大っ変、遺憾ながら、その可能性が……」


 私はものっ凄く言いづらそうに、一応言った。

 まだ確定じゃ無い。確定では無い、が……


「……悪いが、先に“ネームド”対策案が先だ。ひと段落してから、そっちの対応を頼みたい」

「ッチ。……分かった」


 ひとまず私は、あいつらの事は後回しにする。

 仮に放っておいても、直ぐにウチの部隊に見つかって連れて来られるだろう。

 その時に話すのでも遅くは無いか。


 ──もしそうなら、勝手に私の世界に来た事、思う存分問い詰めてやる。


 私はそう、内心固く誓っていた……



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