翌日、地元から電車で一時間ほどかけて、僕と颯大はテーマパークまで足を運んだ。
中央の展望タワーが目印のテーマパークには、動物園、植物園、遊園地があり、夏にはプールにも入れる。小学生の頃は颯大のところも含めて家族ぐるみでよく来たけど、中学に上がってからはそういうこともなくなった。颯大含めた友達とたまに行ったくらいかな。でもここ一年は受験でずっと来てないから、ずいぶん久しぶりだ。
午前中は植物園動物園を軽く回って、午後からは遊園地で遊んだ。乗り放題パスを買って、順番に乗っていたところで、颯大はジェットコースターの前で足を止める。
「乗る?」
「亜樹はこういうの苦手だっけ」
ちょうど子どもの悲鳴が聞こえてきた乗り物をじっと見つめ、颯大は真顔で言った。
「? 僕は別に平気だけど」
連続回転するものとか、真っ逆さまに急降下するものとか。ここにはもっと過激な絶叫系があるのに、今僕たちが近くにいるのは、ファミリー向けのジェットコースター。このぐらいなら全然平気だし、そもそも過激な絶叫系も乗れなくはない。颯大がそれを知らないはずはないけどな。
不思議に思っていたら、ふいに颯大と視線が合った。そして、颯大がニヤリと笑う。
「乗る前はそう言ってても、いざ乗ったら怖い怖いって大騒ぎしてたじゃん」
ああ……。たぶん颯大が言っているのは小学生、しかも一年生とか二年生ぐらいの小さい時の話だ。
「何年前の話してるんだよ。もう平気だから」
忘れていた黒歴史を掘り起こされ、嫌な言い方になってしまった。そっちがその気なら、僕だってネタはたくさん持ってるんだからな。
「颯大も昔お化け屋敷で泣いてたよな」
「今すぐ忘れて」
颯大はため息をつき、片手で顔を覆う。
「幼なじみをからかうとこうなるんだよ」
「すみませんでした」
自分から仕掛けてきたのに素直に謝ってきたので、ちょっと笑ってしまった。
「で? どうするんだよ」
「どっちも行く」
「だよな」
目線を合わせ、笑い合う。
二人で軽口を叩きながら、嫌な思い出のあるジェットコースターとお化け屋敷へ。
考えてみたら、颯大と二人きりでここに来たのは初めてかもしれない。でも、家族や友達と来た時と同じぐらい楽しいし、やっぱり颯大が一番心を許せる友達な気がする。
――友達じゃなくて、彼氏か。もう三年以上付き合ってるのに、いまだに颯大が彼氏だっていうことをたまに忘れてしまう。だって、こうやって過ごしてると、ほとんど友達と変わらないもんな。
アトラクションを全部制覇した頃には、だいぶ日も落ちて、すっかり暗くなっていた。
「どうする? そろそろ帰る?」
「そうだな。あんまり遅くなると、親にも心配されるし」
颯大は腕時計に視線を落とし、頷く。
それから、少しだけ緊張したように言った。
「最後に展望タワー登らない?」