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第五十四話 友達のような彼氏とのデート

 翌日、地元から電車で一時間ほどかけて、僕と颯大はテーマパークまで足を運んだ。


 中央の展望タワーが目印のテーマパークには、動物園、植物園、遊園地があり、夏にはプールにも入れる。小学生の頃は颯大のところも含めて家族ぐるみでよく来たけど、中学に上がってからはそういうこともなくなった。颯大含めた友達とたまに行ったくらいかな。でもここ一年は受験でずっと来てないから、ずいぶん久しぶりだ。


 午前中は植物園動物園を軽く回って、午後からは遊園地で遊んだ。乗り放題パスを買って、順番に乗っていたところで、颯大はジェットコースターの前で足を止める。


「乗る?」

「亜樹はこういうの苦手だっけ」


 ちょうど子どもの悲鳴が聞こえてきた乗り物をじっと見つめ、颯大は真顔で言った。


「? 僕は別に平気だけど」


 連続回転するものとか、真っ逆さまに急降下するものとか。ここにはもっと過激な絶叫系があるのに、今僕たちが近くにいるのは、ファミリー向けのジェットコースター。このぐらいなら全然平気だし、そもそも過激な絶叫系も乗れなくはない。颯大がそれを知らないはずはないけどな。


 不思議に思っていたら、ふいに颯大と視線が合った。そして、颯大がニヤリと笑う。


「乗る前はそう言ってても、いざ乗ったら怖い怖いって大騒ぎしてたじゃん」


 ああ……。たぶん颯大が言っているのは小学生、しかも一年生とか二年生ぐらいの小さい時の話だ。


「何年前の話してるんだよ。もう平気だから」


 忘れていた黒歴史を掘り起こされ、嫌な言い方になってしまった。そっちがその気なら、僕だってネタはたくさん持ってるんだからな。


「颯大も昔お化け屋敷で泣いてたよな」

「今すぐ忘れて」


 颯大はため息をつき、片手で顔を覆う。


「幼なじみをからかうとこうなるんだよ」

「すみませんでした」


 自分から仕掛けてきたのに素直に謝ってきたので、ちょっと笑ってしまった。


「で? どうするんだよ」

「どっちも行く」

「だよな」


 目線を合わせ、笑い合う。

 二人で軽口を叩きながら、嫌な思い出のあるジェットコースターとお化け屋敷へ。


 考えてみたら、颯大と二人きりでここに来たのは初めてかもしれない。でも、家族や友達と来た時と同じぐらい楽しいし、やっぱり颯大が一番心を許せる友達な気がする。


 ――友達じゃなくて、彼氏か。もう三年以上付き合ってるのに、いまだに颯大が彼氏だっていうことをたまに忘れてしまう。だって、こうやって過ごしてると、ほとんど友達と変わらないもんな。


 アトラクションを全部制覇した頃には、だいぶ日も落ちて、すっかり暗くなっていた。


「どうする? そろそろ帰る?」

「そうだな。あんまり遅くなると、親にも心配されるし」


 颯大は腕時計に視線を落とし、頷く。

 それから、少しだけ緊張したように言った。


「最後に展望タワー登らない?」

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