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第十九章 微妙な関係

第六十七話 会いたくない人

 翌朝、颯大と一緒に登校していたら、校門のところで玲人に会った。目を合わせないようにしてたのに、気づかれてしまったらしく、ニヤけ顔で近寄ってくる。


「うぃー」


 また、朝から嫌なテンションだな。

 返事をするのも面倒だったので、ため息だけ返しておく。


「ういっす」


 けれど、颯大は嫌な顔一つせず、笑顔で対応していた。

 ただでさえノリがうざいのに、よく朝から玲人みたいなやつと会話できるよな。


「来週の金曜、どうすんの?」

「ああ、アレか。亜樹も一緒でいい?」

「おっけ、おっけ、三人でいこーぜ」


 二人にしか分からない会話を始めたと思ったら、いつのまにか僕まで巻き込まれていた。


「僕は行かない」


 どこに行くのか知らないけど、大学の外でまで玲人と一緒にいるなんてお断りだ。詳細を聞く前に、先に断っておく。


「颯大と二人きりになっていいの? 襲っちゃうかもよ?」


 玲人が身体を寄せ、わざとらしく目配せしてくる。


 はぁ……。こいつのこういうテンション、本気でついていけない。颯大は爆笑してるだけだし、おかしいのは僕なの?


 ひとしきり笑いが落ち着いたらしい颯大が、こちらに視線を向ける。


「メシ行こうかって話になってたんだけど、来週の金曜なにかあるの? バイト?」

「何もなくても、玲人とは出かけない」


 バイトが入ってるかどうかを確かめようともせず、即答した。玲人と会話するのは、大学だけで十分だ。それ以外は、本気で無理。


「たまにはいいじゃん。じっくり語り合おうぜ」

「話すことないから」

「さすがに失礼すぎない?」


 玲人からの誘いを頑なに拒否していたら、颯大に咎められる。僕だって、玲人以外の人にはこんな失礼な態度取らないよ。でも、玲人だけは別だ。


「この前言っただろ。こいつにはこれぐらいでいいんだよ。遠慮というものを知らないんだから」


 玲人は友だちの彼氏を狙ってるようなヤツなんだから、普通に相手してたらダメなんだよ。

 颯大にその話をしても、冗談だと思ったのか、笑い飛ばしただけで、全く本気にしてなかったし。僕だけが気にしてるのが、またストレスが溜まる。颯大は玲人を友だちとしか思ってなさそうだけど、そもそも玲人と友だちなのがだいぶしんどいんだよな。


「しっかり線を引いておかないと、そのうち僕らの部屋に入り浸って、そのままいついて帰らなくなる」


 目を細め、玲人を人差し指で指す。

 最大限に嫌悪感を表したつもりだったのに、玲人はニッと笑いかけてきた。


「部屋行っていいん? 今度行くわ」

「今の会話の流れで、どこをどう読み取ったら、部屋に招待されたと思ったんだよ」


 宇宙人か? お互い日本語を話してるはずなのに、全く会話が成り立ってない。もうため息しか出てこないよ。


「な? 今の聞いてただろ? 玲人はこういうやつなんだよ。図々しくて、遠慮を知らない」

「マジで玲人ってウケるよな」

「は?」


 颯大は楽しそうに笑いながら、玲人と親しげに話し始める。


 颯大は、昔からこうなんだ。誰も嫌わないし、誰にも嫌われない。

 颯大が敵視してるのは、唯一波留さんぐらいか。

 波留さんにつっかかるのは、まぁ、僕が原因だよな……。ここのところずっと引っかかっていることを思い出してしまって、また気分が重くなる。


 会話に入る気になれなかったので、二人から少し離れて歩いた。




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