翌朝、颯大と一緒に登校していたら、校門のところで玲人に会った。目を合わせないようにしてたのに、気づかれてしまったらしく、ニヤけ顔で近寄ってくる。
「うぃー」
また、朝から嫌なテンションだな。
返事をするのも面倒だったので、ため息だけ返しておく。
「ういっす」
けれど、颯大は嫌な顔一つせず、笑顔で対応していた。
ただでさえノリがうざいのに、よく朝から玲人みたいなやつと会話できるよな。
「来週の金曜、どうすんの?」
「ああ、アレか。亜樹も一緒でいい?」
「おっけ、おっけ、三人でいこーぜ」
二人にしか分からない会話を始めたと思ったら、いつのまにか僕まで巻き込まれていた。
「僕は行かない」
どこに行くのか知らないけど、大学の外でまで玲人と一緒にいるなんてお断りだ。詳細を聞く前に、先に断っておく。
「颯大と二人きりになっていいの? 襲っちゃうかもよ?」
玲人が身体を寄せ、わざとらしく目配せしてくる。
はぁ……。こいつのこういうテンション、本気でついていけない。颯大は爆笑してるだけだし、おかしいのは僕なの?
ひとしきり笑いが落ち着いたらしい颯大が、こちらに視線を向ける。
「メシ行こうかって話になってたんだけど、来週の金曜なにかあるの? バイト?」
「何もなくても、玲人とは出かけない」
バイトが入ってるかどうかを確かめようともせず、即答した。玲人と会話するのは、大学だけで十分だ。それ以外は、本気で無理。
「たまにはいいじゃん。じっくり語り合おうぜ」
「話すことないから」
「さすがに失礼すぎない?」
玲人からの誘いを頑なに拒否していたら、颯大に咎められる。僕だって、玲人以外の人にはこんな失礼な態度取らないよ。でも、玲人だけは別だ。
「この前言っただろ。こいつにはこれぐらいでいいんだよ。遠慮というものを知らないんだから」
玲人は友だちの彼氏を狙ってるようなヤツなんだから、普通に相手してたらダメなんだよ。
颯大にその話をしても、冗談だと思ったのか、笑い飛ばしただけで、全く本気にしてなかったし。僕だけが気にしてるのが、またストレスが溜まる。颯大は玲人を友だちとしか思ってなさそうだけど、そもそも玲人と友だちなのがだいぶしんどいんだよな。
「しっかり線を引いておかないと、そのうち僕らの部屋に入り浸って、そのままいついて帰らなくなる」
目を細め、玲人を人差し指で指す。
最大限に嫌悪感を表したつもりだったのに、玲人はニッと笑いかけてきた。
「部屋行っていいん? 今度行くわ」
「今の会話の流れで、どこをどう読み取ったら、部屋に招待されたと思ったんだよ」
宇宙人か? お互い日本語を話してるはずなのに、全く会話が成り立ってない。もうため息しか出てこないよ。
「な? 今の聞いてただろ? 玲人はこういうやつなんだよ。図々しくて、遠慮を知らない」
「マジで玲人ってウケるよな」
「は?」
颯大は楽しそうに笑いながら、玲人と親しげに話し始める。
颯大は、昔からこうなんだ。誰も嫌わないし、誰にも嫌われない。
颯大が敵視してるのは、唯一波留さんぐらいか。
波留さんにつっかかるのは、まぁ、僕が原因だよな……。ここのところずっと引っかかっていることを思い出してしまって、また気分が重くなる。
会話に入る気になれなかったので、二人から少し離れて歩いた。