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第二十一章 関係が変わる時

第七十六話 発覚と暴露

 夏休みのうちの一日だけ大学に行かなければいけない日があって、颯大と一緒に歩いて登校していた。そうしたら、校門のところで玲人にバッタリ遭遇してしまう。


「お前ら、別れたの?」


 挨拶もなく、僕たちの顔を見るなり、玲人はいきなりそんなことを言い出した。


「会ってすぐにそれ?」


 相変わらず失礼すぎて、思わず顔をしかめてしまう。


 今日だって颯大と一緒に来てるのに、何で別れたなんて発想になるんだよ。もう少しまともな挨拶ができないのか。いくら颯大が好きだからって、それはないだろ。


「この前用事があって大学きたら、波留と亜樹が抱き合ってるとこ見ちゃったんだよなー。声かけようかと思ったけど、ただならぬ雰囲気だったからさ」


 玲人に見られてた……? あの時は、周りに誰もいないと思ったんだけどな。

 ということは、波留のケモ耳としっぽも見られてる? すぐ引っ込んでたし、ギリ大丈夫かな……。


 そもそも、玲人は前世の記憶があるのか? この前記憶が蘇ってから、最悪なことに玲人が僕の元番だったことも思い出してしまった。はっきりと覚えてはなさそうな感じだけど、どうなんだろ……。


「見間違いじゃない?」

「いやいや見間違いじゃないって! あれは確かに波留と亜樹だった。な? 亜樹」


 考え込んでいたら、ふいに玲人に話しかけられる。


「え、あ……」


 事実だけに否定できず、かといって肯定もできず。僕は『そうだ』とも『違う』とも答えられなかった。


 僕の態度で、玲人の言っていることが本当だと察したらしい。颯大の表情が一瞬でなくなり、しばらくしてから僕の方に顔を向けた。


「どういうこと?」


 やばい……。

 波留のしっぽやケモ耳が周りの人に見られてないかだけ気にしてたけど、抱き合ってたことが颯大にバレたのも十分ヤバいよな。むしろそっちの方がヤバいかも……。


「もしかして、俺まずいこと言っちゃった?」


 めずらく空気を読んだのか、玲人が僕の顔色を窺うようにこっちを見てきた。


 もしかしなくても、思いっきりまずいこと言ってるよ。

 玲人をにらんでから、すぐに視線を背ける。


 いや、玲人を責めるのは違うな。正直玲人に責任転嫁したいくらいだけど、今回のことに限っては明らかに僕の自業自得だ。


「あとで、ちゃんと説明する」


 険しい表情で僕を見てくる颯大に対し、ひとまずはそういうほかなかった。


 ◇


「さっきの話、どうなってるんだよ。玲人の冗談って雰囲気ではなさそうだったけど」


 大学から家に戻り、すぐに話を切り出したのは、颯大の方だった。とりあえず座ろうとうながし、フローリングの上に腰を下ろし、話し始める。


「玲人の言ってたことは本当だよ。だけど、波留とは何もない」

「何もなくて抱き合ってたんだ?」


 それを言われると、言い訳のしようもない。

 何て説明しようか迷っていたら、颯大がさらに続けた。


「俺も亜樹を信じたい。だけど、正直今回のことがなくても、怪しいと思う時がたくさんあるんだよ。波留と浮気してるの?」

「違う」


 波留を好きかと聞かれたら、否定できなかったかもしれない。だけど、颯大の質問の答えは明確にノーだったから、きっぱりと否定する。


「たしかに僕と波留との間には、全く何もないわけじゃない。でも、颯大が考えているようなことは絶対ないよ」

「どういう意味?」


 颯大は眉を寄せ、訳が分からないって顔をしてる。

 そういう反応が自然だよな。僕も自分で言ってて、何言ってるのか分からなくなってきたし。


 うーん……。こうなったら、波留との関係も全部言ってしまった方が良いのかもしれないな。もし引かれたら、……もうそれはそれで仕方ない。


「全部話すよ」


 何が最善かも分からないまま、波留との前世のことを話し始めた。

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