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第二十二章 伝えたかった気持ち

第八十話 友達から恋人に

 ホテルの駐車場に行くと、シルバーの乗用車の前に波留が立っていた。波留は何か言いたそうな、でも何とも言えない表情で僕を見つめている。


 すぐに飛んできてくれて嬉しい。今すぐに波留を抱きしめたい。正直なところ、そうしたい気持ちもある。だけど、それはさすがに颯大に申し訳ない気がして、出来なかった。


「波留……。あの……」


 波留に対しても、どこから説明すればいいのか分からなくて、口ごもってしまう。


 波留は何も言わず、ただ僕の言葉を待っていた。


「別れたって、本当なんですか?」


 でも、長い間僕が黙り込んでいたら、波留の方からそう切り出した。うつむいたまま、僕はコクリと頷く。


「言いたくなかったら無理に言わなくてもいいんですけど、何があったか聞いてもいいですか?」

「本当は……颯大とちゃんと向き合おうとしたんだ……。でも、出来なくて……。僕が中途半端だったから、余計に颯大を傷つけた……」


 いきなり脈絡もなくこんなことを言っても、何が言いたいのか全く伝わらないと思う。でも、上手く説明出来なくて、こんなことしか言えない。


「……。とりあえず乗ってください」


 波留に促され、助手席に座る。後部座席には、コナツも待機していた。


「コナツもいたんだ」


 コナツを軽く撫でていたら、波留もすぐに運転席に乗ってきて、無言で車を発進させた。


 それからしばらく、僕たちはどちらも一言もしゃべらなかった。頭の中がグチャグチャで、どこをどう走っているのかさえも分からない。


 けれど、しばらくして、波留が前を向いたまま、話しかけてきた。


「さっきの話の続きなんですけど、颯大さんと向き合えなかった理由って……。いや、やっぱりいいです。ごめんなさい」


 僕をチラリと見て、波留は最後まで言うのをやめてしまう。


 僕が何も言わなかったら、波留との関係も変わらないままなのかな。それって、もしかしたら、波留にも、辛いのに僕の背中を押してくれた颯大にも失礼なのかもしれない……。


 言うべきか言わないべきか悩んで、結局僕は口を開く。


「何度も忘れようと思ったんだ。颯大と付き合ってるんだし、波留との前世は過去のことだからって」


 自分の拳をぎゅっと握り、大きく息を吐く。


「でもさ、やっぱり無理だった。前世とか関係なしに、波留が好きだ。波留と一緒にいたい」


 心の中で何度も何度も颯大に謝りながら、ありのままの気持ちを口をした。そうしたら、運転席から片方の手だけが伸びてきて、僕の手の上にソレを重ねられる。


「オレも、亜樹と一緒にいたいです」


 颯大への申し訳なさと波留への愛しさが混ざり合って、乾いたはずの涙がまた溢れる。波留の言葉に何も返せなくて、ただその温かい手を握り返した。

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