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第二十三章 たった一つの疑問

第八十二話 番になりたい

 波留と交際して、一ヶ月が経った。

 昼は大学に行って、夜はバイト。

 それで帰ってからは、ほぼ毎晩のように波留とセックスする。さすがに毎日はやりすぎだろうと思いつつも、今まで離れていた時間を埋めるようにして、僕たちは求め合っていた。


 ◇


 服を脱がし、下着さえも着ていない僕の全身に、波留がキスを落とす。僕が自分で買ってつけているチョーカーの上からも、首にキスをした。けれど、いつものようにチョーカーを外そうとはせず、すぐに別の場所へ移動しようとした。


「待って」


 上半身だけを起こしてから、自分でチョーカーを外す。

 それから、波留の首に手を回した。


「波留、噛んで」


 波留はじっと僕を見つめ、唇にちゅっとキスをした。

 何度かキスをしてから、口の中に舌を差し入れる。


「ん……っ」


 力が抜けてしまい、波留の胸にもたれかかる。

 キスをしながら、波留は僕を再びシーツに沈めた。


 結局僕のうなじを噛まないまま、いつも通りのセックスを終えてしまった。いや、セックス自体はめちゃくちゃ良かったけど。満足してるけど。


 そこじゃなくて、『噛んで』って言ったのに。

 なんで? ごまかされた……?


 なんでだよ。何で噛まないんだ。

 前世の時は、僕がもう番を作れない身体だって分かってても、玲人の噛み跡の上から何度も噛んできたくせに。セックスの時は、波留は僕の首を噛むのがお約束のようになっていた。


 それぐらい執着してたのに、今世では頑なに噛もうとしない。実はさっきねだったのが初めてじゃなくて、何回かそれとなく言ってみたんだ。それなのに、いつもごまかされる。本当に、何でだよ……。波留……。


「波留、愛してる」


 ベッドの上で体勢を変え、隣にいた波留に抱きつく。


「オレも愛してます」


 波留も僕を抱きしめ返し、同じ言葉を返してくれた。

 それから、僕の髪を撫で、背中を優しく撫でる。


 なんでこんな愛し合ってるのに、噛んでくれないんだ。どうしても納得できなくて、波留を抱きしめる腕に力を込める。


 もちろん波留の気持ちは疑ってない。

 言葉だけじゃなくて、僕を心から愛してくれてるのは理解してる。


 だからこそ、余計にどうしてという気持ちが消えない。


 あれだけのことがあって、散々ゴタゴタして、ようやく付き合うことになったんだ。早く番にしたい、自分だけのΩにしたいって、波留は思わないの? 僕はもう待てないんだけど……。


 ……あ、もしかしたら。

 ふと思い当たり、波留からわずかに身体を離す。


「波留、僕、颯大と番ってないよ」


 波留の茶色の瞳を見つめ、伝える。

 だから、いつでも波留の番になれるよ、と。


「知ってます。噛み跡ないですもんね」


 波留はツーっと僕のうなじをなぞり、最後にそこをつついた。颯大の番だと誤解してるのが番わない理由だと思ってたけど、これも違うのか……。


「危ないから、チョーカーつけときましょう」


 波留は枕元に置いてあったチョーカーをとろうと、手を伸ばす。


「つけなくていい」


 それをサッと取り上げ、自分の背中に隠す。


「ダメですよ。発情期を完全に抑える薬も市販されるようになりましたし、無理矢理Ωを番にするαたちが逮捕されるようになって、昔よりは安全になりました。それでも、Ωを狙っている犯罪者はいるんですから」

「波留の前ではつけなくても平気だよ」


 そう伝えたら、波留は眉を下げ、困ったような顔をした。


「オレの前でも、つけといてください。我慢できなくなるかもしれないので」


 波留は僕の手からチョーカーを奪い、首につけてしまった。


「我慢しなくていいのに」


 つけられたチョーカーに指で触れ、唇を軽く尖らせる。


 むしろ我慢するなよ。

 今すぐにでも、僕は波留に噛んでほしいんだよ。


 波留は顔を近づけ、尖らせた僕の唇と自分の唇を一瞬だけ合わせた。


「このチョーカーに飽きちゃったなら、新しいのをプレゼントしますよ」

「それは嬉しいけどさ……」


 そうじゃないんだよなぁ……。

 はぁとこっそりため息をつき、波留の胸に顔を埋める。


 波留との交際は、順調だ。

 けれど、一ヶ月経っても番にしてくれないことだけが引っかかる。


 今の時代だったら、世間一般的には、交際一ヶ月で番は早い方かもしれない。でも、僕たちは前世のこともあるし、すぐに番ってもいいぐらいなのに……。







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