波留と交際して、一ヶ月が経った。
昼は大学に行って、夜はバイト。
それで帰ってからは、ほぼ毎晩のように波留とセックスする。さすがに毎日はやりすぎだろうと思いつつも、今まで離れていた時間を埋めるようにして、僕たちは求め合っていた。
◇
服を脱がし、下着さえも着ていない僕の全身に、波留がキスを落とす。僕が自分で買ってつけているチョーカーの上からも、首にキスをした。けれど、いつものようにチョーカーを外そうとはせず、すぐに別の場所へ移動しようとした。
「待って」
上半身だけを起こしてから、自分でチョーカーを外す。
それから、波留の首に手を回した。
「波留、噛んで」
波留はじっと僕を見つめ、唇にちゅっとキスをした。
何度かキスをしてから、口の中に舌を差し入れる。
「ん……っ」
力が抜けてしまい、波留の胸にもたれかかる。
キスをしながら、波留は僕を再びシーツに沈めた。
結局僕のうなじを噛まないまま、いつも通りのセックスを終えてしまった。いや、セックス自体はめちゃくちゃ良かったけど。満足してるけど。
そこじゃなくて、『噛んで』って言ったのに。
なんで? ごまかされた……?
なんでだよ。何で噛まないんだ。
前世の時は、僕がもう番を作れない身体だって分かってても、玲人の噛み跡の上から何度も噛んできたくせに。セックスの時は、波留は僕の首を噛むのがお約束のようになっていた。
それぐらい執着してたのに、今世では頑なに噛もうとしない。実はさっきねだったのが初めてじゃなくて、何回かそれとなく言ってみたんだ。それなのに、いつもごまかされる。本当に、何でだよ……。波留……。
「波留、愛してる」
ベッドの上で体勢を変え、隣にいた波留に抱きつく。
「オレも愛してます」
波留も僕を抱きしめ返し、同じ言葉を返してくれた。
それから、僕の髪を撫で、背中を優しく撫でる。
なんでこんな愛し合ってるのに、噛んでくれないんだ。どうしても納得できなくて、波留を抱きしめる腕に力を込める。
もちろん波留の気持ちは疑ってない。
言葉だけじゃなくて、僕を心から愛してくれてるのは理解してる。
だからこそ、余計にどうしてという気持ちが消えない。
あれだけのことがあって、散々ゴタゴタして、ようやく付き合うことになったんだ。早く番にしたい、自分だけのΩにしたいって、波留は思わないの? 僕はもう待てないんだけど……。
……あ、もしかしたら。
ふと思い当たり、波留からわずかに身体を離す。
「波留、僕、颯大と番ってないよ」
波留の茶色の瞳を見つめ、伝える。
だから、いつでも波留の番になれるよ、と。
「知ってます。噛み跡ないですもんね」
波留はツーっと僕のうなじをなぞり、最後にそこをつついた。颯大の番だと誤解してるのが番わない理由だと思ってたけど、これも違うのか……。
「危ないから、チョーカーつけときましょう」
波留は枕元に置いてあったチョーカーをとろうと、手を伸ばす。
「つけなくていい」
それをサッと取り上げ、自分の背中に隠す。
「ダメですよ。発情期を完全に抑える薬も市販されるようになりましたし、無理矢理Ωを番にするαたちが逮捕されるようになって、昔よりは安全になりました。それでも、Ωを狙っている犯罪者はいるんですから」
「波留の前ではつけなくても平気だよ」
そう伝えたら、波留は眉を下げ、困ったような顔をした。
「オレの前でも、つけといてください。我慢できなくなるかもしれないので」
波留は僕の手からチョーカーを奪い、首につけてしまった。
「我慢しなくていいのに」
つけられたチョーカーに指で触れ、唇を軽く尖らせる。
むしろ我慢するなよ。
今すぐにでも、僕は波留に噛んでほしいんだよ。
波留は顔を近づけ、尖らせた僕の唇と自分の唇を一瞬だけ合わせた。
「このチョーカーに飽きちゃったなら、新しいのをプレゼントしますよ」
「それは嬉しいけどさ……」
そうじゃないんだよなぁ……。
はぁとこっそりため息をつき、波留の胸に顔を埋める。
波留との交際は、順調だ。
けれど、一ヶ月経っても番にしてくれないことだけが引っかかる。
今の時代だったら、世間一般的には、交際一ヶ月で番は早い方かもしれない。でも、僕たちは前世のこともあるし、すぐに番ってもいいぐらいなのに……。