「番になろう、波留」
僕よりも背の高い波留の首に手を回し、これまで何度もお願いしてきたことを改めて伝える。今まではダメ元で言ってた部分もあったけど、今回こそは受け入れてほしい。
「波留が生まれ変わった僕を見つけて、前世の記憶も全部忘れていた僕まで愛してくれたように、僕だってそうだよ。波留も僕を好きでいてくれるなら、僕の番になって」
「いいんですか……?」
こっちからお願いしてるのに、『いいんですか』って。
僕を見つめる波留の瞳はゆらゆら揺れていて、不安げだ。しっかりと目を合わせたまま、力強く頷く。
「親への挨拶とか、向こうでの生活とか。そういうことは後で考えるとして、今は波留と番いたい」
順番が逆だって言われても、焦りすぎて痛いやつって誰かに思われたとしても、もう待てない。波留も本当は番になりたかったんだって分かったら、すぐにでも結ばれたくなった。だって、ずっとそうしたかったんだよ。
「前世からずっとずっと波留の番になりたかった。今世こそは番になりたいんだ。一緒にいよう、波留」
今時番になることにこだわなくても生きていけるし、番番ってそればっかり言い続けるのも古いのかもしれない。
でも、やっぱり前世からずっと願っていたことを叶えたい。それに、いつの時代だって、大好きな人ともっと近づける方法があるのなら、望んでしまうのはおかしくないと思うんだ。
「ずっと番になりたいって言われてたのに、今まで拒否しててごめんなさい。番いたくなかったわけじゃないんです」
「うん、大丈夫。波留の気持ちは分かってるよ」
つい数時間前までは波留が分からなくなっていたけど、事情が分かった今は、もう全部分かる。波留が番になることを拒否してたのは、僕を想ってくれてたからこその行動だったことも。本当に拒否したくて、そうしてたわけじゃないことも。
「なりたくないどころか、オレだって亜樹と番になりたかった。でも……今のオレの身体じゃ……なれないと思ってた。もし番になったら、後で亜樹を余計に悲しませるだけだって……」
絞り出すように吐き出して、波留は目を伏せる。
「もっと早く本当のことを打ち明けるべきでしたね。ごめんなさい」
「本当だよ。打ち明けるのが遅すぎる」
思わず文句を言ってやったら、波留がクスリと笑う。それにつられて、僕も少し笑ってしまった。
けれど、波留はすぐに表情を引き締め、僕も視線を合わせた。
「一度でも番になったら後戻りできませんが、後悔しませんか? 全部捨てても、オレを選んでくれますか……」
最初の方はしっかりとした口調だったのに、後半の方の波留の声はかなり掠れていた。でも、僕の耳にはちゃんと全部届いたよ。
「何も捨ててないよ。波留がいる」
震えている波留の手をぎゅっと握って、『大丈夫だよ』と伝える。
「まだ心配?」
「いえ。……でも、一つだけ言わせてください」
波留は僕の手を握り返し、呼吸を整えてから、僕の目を見据えた。
「愛してる」
「……っ」
波留はいつも愛をたくさん伝えてくれて、その度に嬉しい気持ちになる。
でも、今のは、これまでのどの『愛してる』よりも心に響いた。一瞬息が出来なくなって、すぐに返事が出来なかった。
やっとの思いで、『僕もだよ』と言いかけたのに。キスで唇を塞がれ、そのままベッドに押し倒される。
性急に行為に及んで、繋がってしばらくしてから、チョーカーを外される。波留からもらったチョーカーにずっと守られていたソコは、傷一つついていない。波留はそれを確認するみたいに指で辿って、自分の歯を押し当てる。
「あ……」
波留の鋭い歯の感触を感じて、それだけでゾクゾクした。その歯がさらに深く食い込んでいき、とっくに忘れていた甘い痛みに襲われる。
「はる……っ」
小さく波留の名前を呼んだら、答えるみたいにキスをされた。
やっと、やっと波留と番になれたんだ。
波留とは番になれないんだと自分に言い聞かせ、何度も何度も諦めた。前世も、それから今世だって。
だけど、ようやく番になれた。
なんだか現実味がなくて、夢なんじゃないかと思ってしまう。だけど、首筋に残る甘い痺れも、僕の中にいる波留の熱も確かに本物。
これは、たしかに現実なんだ。僕は、波留と番になった。もちろんこれで終わりじゃないし、大変なのはここからだ。
だけど、今だけは――ただ波留だけを感じたい。
波留のキスに応えながら、モフモフの耳としっぽを生やしっぱなしの彼にすがりついた。