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第21話_現実に戻そうとする力

「また、か…」


未来調整官fuは、モニターに映し出される膨大な情報に辟易していた。パレスチナ保健省の発表、イスラエル軍の攻撃、国連総会の決議案…目まぐるしく変化する情勢は、一触即発の危機を孕んでいる。彼の任務は、この地域の緊張状態をエスカレートさせないこと。しかし、それは容易なことではなかった。


「ジェニンの衝突…民間人の死傷者が増え続けている。このままでは、全面戦争は避けられない…」


fuは、複雑に絡み合う情報を分析し、未来予測システムにアクセスした。システムは、数千の可能性を示し、そのほとんどが最悪のシナリオへと繋がっていた。


「突破口は…」


彼の脳裏に、一つの可能性が閃いた。それは、イスラエルとハマスの間に秘密裏に接触し、事態を収束へと導くというものだった。しかし、それは極めて危険な賭けだった。失敗すれば、彼の存在が露呈し、歴史改変の罪に問われることになる。


「やるしかない…」


覚悟を決めたfuは、まず、過去補填官paに連絡を取った。paは、歴史の流れを修正し、fuの活動をサポートする役割を担っている。


「pa、ジェニンの衝突を回避する必要がある。イスラエル軍とイスラム聖戦の接触を阻止できないか?」


「難しいわね。あの地域は、常に緊張状態にある。些細なきっかけで衝突は起こってしまう。」


「分かっている。だが、何としても防がなければならない」


「…分かった。やってみるわ」


paは、過去のデータにアクセスし、ジェニンでの衝突が発生する数時間前に、微細な干渉を加えることにした。イスラエル軍の巡回ルートを僅かに変更し、イスラム聖戦のメンバーが潜伏している場所から遠ざける。


「fu、修正は完了したわ。これで、衝突は回避できるはず」


「ありがとう、pa。助かった」


しかし、これで終わりではない。ガザ地区への攻撃、インターネットと電話回線の切断、国連総会の決議…様々な問題が山積していた。


「まずは、ガザ地区への攻撃を止めなければ…」


fuは、イスラエル軍の内部情報にアクセスしようと試みた。しかし、高度なセキュリティシステムが施されており、容易には侵入できない。そこで、彼は別の手段を用いることにした。


「偽情報だ」


fuは、イスラエル軍の通信システムにハッキングし、ハマスがガザ地区の病院に武器を隠匿しているという偽情報を流した。同時に、ハマスの通信システムにもハッキングし、イスラエル軍が病院を攻撃する計画があるという偽情報を流した。


「これで、双方とも攻撃を躊躇するはずだ」


彼の予想通り、イスラエル軍は攻撃を中止し、ハマスも病院から撤退した。


「よし、次は…」


fuは、インターネットと電話回線の復旧に取り掛かった。彼は、イスラエルの通信会社に偽の指令を送り、回線を復旧させた。さらに、国際社会に向けて、ガザ地区の惨状を訴える情報を流した。


「これで、国際世論の関心を高めることができる。イスラエルへの圧力も強まるはずだ」


国連総会では、アラブ諸国が主導したガザ地区の「人道的休戦」を求める決議案が採択された。イスラエルと米国は反対したが、賛成多数で可決された。


「ひとまず、最悪の事態は回避できた…」


fuは、安堵のため息をついた。しかし、彼の表情は晴れない。彼は知っていた。これは一時的な解決に過ぎないことを。根本的な問題が解決されない限り、同じような危機は何度も繰り返されるだろう。


「それに…」


彼は、かすかな違和感を感じていた。何かがおかしい。まるで、見えない力が働いているように。


「…気のせいか?」


その時、paから通信が入った。


「fu、ちょっとおかしいの」


「何がだ?」


「私が修正したはずの歴史が、元に戻ろうとしているみたい」


「どういうことだ?」


「分からない。でも、確かに何かが起こっている」


fuは、モニターに映し出される情報を確認した。そこには、修正前と同じ情報が表示されていた。ジェニンでの衝突、ガザ地区への攻撃、インターネットと電話回線の切断…


「まさか…」


彼の脳裏に、一つの可能性が浮かんだ。それは、彼らの活動を妨害しようとする「何か」が存在するという可能性だった。


「fu、どうする?」


paの問いかけに、fuは答えなかった。彼は、モニターに映し出される情報を見つめ続けていた。そこには、新たな情報が表示されていた。ニューヨークのグランド・セントラル駅で、ユダヤ人団体がイスラエルのガザ地区攻撃に抗議する座り込みを行ったというニュースだった。


「これは…」


fuは、このニュースに何か特別な意味を感じた。彼は、この抗議活動が、彼らの活動を妨害しようとする「何か」と関係しているのではないかと考え始めた。


「pa、ニューヨークの抗議活動について調べてくれ」


「分かったわ。」


fuは、再び未来予測システムにアクセスした。システムは、新たな可能性を示し始めていた。それは、彼らの知らない「何か」が、歴史を元に戻そうとしているという可能性だった。


「一体、何が起こっているんだ…?」


fuは、深い闇の中に落ちていくような感覚を覚えた。彼らの背後で、極めて微かに「元の現実に戻そうとする力」の侵食が広がりつつあることに、彼はまだ気づいていなかった。

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