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第27話_未来干渉

#1_連鎖する悪夢



「またか…」


未来調整官fuは、投影されたホログラムニュースに頭を抱えた。2023年11月2日、中東の火薬庫は、凄まじい勢いで連鎖爆発を起こしていた。イスラエルとパレスチナの衝突は激化し、イスラエル軍はガザ地区への攻撃を強め、多数の死傷者が出ている。さらにレバノンからの攻撃、イスラエル政府によるパレスチナ自治政府への税金送金停止と、事態は悪化の一途を辿っていた。このままでは世界を巻き込む大戦争に発展しかねない。


「いったい、どこをどう修正すれば…」


溜息をつきながら、fuは操作パネルに触れる。未来予測システムが弾き出した分岐点は無数にあり、それぞれが複雑に絡み合っている。安易に介入すれば、別の悲劇を生む可能性も高い。完璧な未来調整など存在しない。綱渡りの作業だ。


「税金の送金停止ね。これを覆せば、とりあえず最悪の事態は避けられるかもしれないけど…」


過去補填官paが冷静に分析する。だが、fuは首を振った。


「そんな単純な話じゃない。イスラエルの強硬姿勢は根深い。税金問題だけが原因じゃないんだ。」


「民族問題、宗教問題、土地問題…根っこは深いわ。でも、今は火に油を注がないようにするしかない。」


paの言葉に、fuは苦渋の決断を下す。まずは税金問題の介入を最優先とし、並行してイスラエル内部の強硬派を弱体化させる工作を進める。時間がない。



#2_見えない手



イスラエル財務省のサーバーに、fuは巧みに侵入した。目標は税金送金停止を決定した電子文書の改竄だ。だが、防壁は想像以上に堅牢だった。突破にはかなりの時間を要する。焦りが募る。


「まずいわ、fu。イスラエル軍がガザへの攻撃をさらに激化させている。市民の犠牲者が増え続けているわ。」


paからの報告に、fuは歯噛みする。一刻も早く税金問題に目途をつけ、別の介入策を講じなければ。その時、システムに予期せぬアラートが鳴り響いた。外部からのハッキングだ。


「誰だ?!」


驚愕するfuの前に、イスラエル政府とは別の勢力がサーバーにアクセスしてきた。高度な技術、見覚えのあるコード…これは、彼らのライバル組織「クロノス」の仕業だ。


「クロノスがなぜここに…? 目的はなんだ?」


クロノスの介入によって、fuの作業はさらに困難になった。彼らの目的が読めない。このままではサーバーへの侵入すら失敗しかねない。


「時間がないのよ、fu! 早く手を打たないと!」


paの催促に、fuは焦燥感を募らせながらも冷静に思考を巡らせる。そして、ある決断を下した。


「pa、クロノスを泳がせる。奴らの動きを利用するんだ。」


「何を考えているの? 危険すぎるわ!」


「賭けだ。だが、他に方法はない。」


クロノスとイスラエル政府、両方の隙を突く。危険な賭けだが、この混乱を利用するしかない。



#3_影の協力者



fuは、クロノスが仕掛けたハッキングを利用し、イスラエル政府のサーバーに擬態した偽のデータを流し込んだ。税金送金停止を決定した電子文書を、送金継続に書き換える。しかし、クロノスの真の目的が分からない以上、彼らがいつ裏切るか分からない。


一方、paはイスラエル国内の情報を収集していた。強硬派を弱体化させるため、彼らのスキャンダルを探し出し、世論を誘導する必要がある。


「見つけたわ、fu。ネタニヤフ首相の息子に、不正献金の疑いがある。」


「よくやった、pa! それを表に出せ。」


しかし、情報操作には危険が伴う。証拠が捏造だとバレれば、全てが水の泡になる。paは慎重に情報をリークし、世論の反発を煽る。


そんな中、fuはクロノスの不可解な動きに気づいた。彼らはサーバーの情報を改竄するだけでなく、何か別のデータを抜き取っているように見える。一体何を…?


その時、イスラエル政府から正式な発表があった。税金送金停止の撤回。fuの作戦が成功したのだ。しかし、喜びは束の間だった。同時に、ネタニヤフ首相の息子の不正疑惑も報じられ、イスラエル国内は混乱に陥る。


「クロノスがやったのね。私たちが手を下す前に…」


paの声には戸惑いが滲んでいた。fuもまた、クロノスの行動に疑問を抱いていた。彼らは一体何者なのか? なぜ未来調整に干渉する?



#4_戻す力



税金問題は解決した。だが、ガザへの攻撃は止まらない。民族間の憎悪は深く、簡単に消えるものではない。fuは疲労困憊しながらも、次の一手を模索する。


その時、奇妙な感覚に襲われた。世界が歪み、時間が逆流するような…気づけば状況が変化していた。イスラエル軍の攻撃は鈍化し、パレスチナ側との停戦交渉が始まっている。


「これは…?」


状況の変化に戸惑うfuに、paが報告する。


「イスラエル軍の内部で、攻撃中止を求める声が強くなったみたい。強硬派の勢いが弱まってる。」


未来予測システムを確認すると、事態は確かに収束に向かっていた。なぜ、突然…? fuは、これまで行ってきた未来調整を振り返る。税金問題への介入、ネタニヤフ首相の息子の不正疑惑…確かに効果はあっただろう。だが、それだけでは説明がつかない。まるで、何者かが状況を「修正」しているように感じる。


「この感覚…どこかで…」


fuの脳裏に、過去の記憶が蘇る。かつて彼が修正したはずの未来が、何らかの力によって元に戻されたことがあった。あの時と同じ感覚だ。


「fu、どうしたの?」


paの問いかけに、fuは答える。


「何かがおかしい。この状況を収束させているのは、俺たちの力だけじゃない。まるで、世界が自ら…」


言いかけて、fuは言葉を止める。自ら修正する? そんなことがあり得るのか?


「”戻す力”…それが関係しているのかもしれない。」


fuは呟いた。これまで何度も未来調整を行ってきた結果、何らかの「戻す力」が世界に蓄積されているのではないか。それが今回の事態収束に関与している…?


確証はない。だが、もし「戻す力」が本当に存在するなら、それは未来調整の根幹を揺るがす大問題だ。もはや未来は、彼らの手だけではコントロールできないのかもしれない。



#5_謎の残響



中東情勢は沈静化に向かったが、fuの心には拭い去れない不安が残っていた。「戻す力」の正体は? そして、クロノスの真の目的は?


「pa、クロノスについて調べてくれ。奴らの目的が分からなければ、また同じようなことが起きる。」


「分かったわ。彼らは相当な技術力を持っている。簡単には尻尾を掴ませないでしょう。」


paの言葉通り、クロノスの痕跡はすぐに消え、その目的は謎に包まれたままだった。


一方、fuは「戻す力」の痕跡を探し続ける。未来予測システムを詳細に分析し、過去の調整記録を徹底的に検証する。明確な答えは見つからない。ただ一つ言えるのは、世界は彼らが思っているよりも複雑で、予測不可能な存在だということだ。


「まだ何か隠されている…」


fuは呟く。世界を操るつもりが、逆に世界に操られているのではないか? そんな疑念が頭をよぎる。


未来調整の仕事は続く。彼らは今日も、未来の破滅を防ぐために奔走する。見えない力に翻弄される不安は消えない。世界を「修正」しようとする彼ら自身が、世界に「修正」されているのかもしれない。


謎は解明されないまま、未来と過去、現実と虚構が交錯する世界で、fuとpaは答えを探し続ける。果たして「戻す力」の正体とは? 彼らの運命は…?

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