横浜の街を行く、自動車。砂煙が舞い、がたがたと揺れる。広い大通りを馬車を後ろ目に進む
「最近輸入したばかりのフォードの自動車だ。こんなのが大量に町にあふれれば、魔法少女が空を飛ぶ必要もなくなるな」
「すざくは、車は初めてか?」
無言でうなずくすざく。馬車は乗ったことはあるが、このような文明の利器は初めてであった。
「やさかさん、東京から走りっぱなしでつかれませんか?」
思わず、すざくは口にする。ふっ、と微笑む
「べつに、やさかがペダルを漕いでいるわけではないからね。ガソリンという燃料を内燃機関で燃焼して回転運動を生み出す。まあ、専門知識がないと理解できないという点では魔法とさして変わらないかも。科学も魔法も、紙一重」
そんな
そんなことを考えていると、車は町を出て埠頭へと向かう。いくつもの倉庫が並び、引込線の上を蒸気機関車が走る。都市、というよりはまるで工場の中のような佇まいである。
一つの倉庫の前に車をとめるやさか。足早に、後部座席のドアを開く。
地面に二人が降り立つ。レンガ造りの足元が、まるで絨毯の上にでもいるように感じられた。
「さて」
制服姿の
「ユーリは多分、この何処かにいるはずだが」
やさかが無言で一枚の書類を差し出す。それにすらっと目を通す
「英語......」
あまりすざくは英語が得意ではない。そこにはいくつもの船の名前らしき単語が箇条書きにされていた。
「この数日中に横浜港を出る予定の船舶です。すべてロシアのナホトカ行きで」
「こんなにあると、絞り込むのに困るな。もう目鼻はついているんだろ、やさか」
やさかはうなずく。
「魔法少女は変身しなくても、その発する熱量は尋常ではありません」
やさかはそういいながら、なにやら日本語ならぬ言葉を詠唱する。
目を閉じたやさかの方からたちのぼる、青い光。
その光はある方向を示していた。
埠頭に横付けされた一隻の貨物船。
それが――