床に倒れる水夫をまたいで、軍服姿のやさかは歩みをすすめる。その後に女学校の制服をまとう少女が二人。暗く船の廊下。なんとも場違いな三人ではあったが、息はあっていた。
「ヴァイマール共和国、つまりドイツ船籍の――『アインザメ・ゼーユングファー』日本語では『孤独な人魚』ですね」
すざくがそういいながら、壁にかかった地図を懐中電灯で照らす。
「積み荷は衣類。中国の天津に二日後に出発する予定なのですが」
「行き先は多分、ナホトカ。ロシアだな」
はい、と
「喫水線があまりにも低い。満載しているものは衣服ではないだろうね」
やさかはつきあたりの貨物室の扉を指し示す。
小さな詠唱、そして扉が音もなく開く。
「この箱は」
貨物室の中の箱を一つやさかはとりだし、床に転がす。釘が外れ、中から溢れ出す――鉄塊。それは明らかに――
「武器か」
「本来はシベリア戦線の我が軍に送るはずだった武器だな。どこかで横流しされたのか。当然これを手に入れるのは――赤軍。『故に智将を務めて敵に食む。敵の一鍾を食むは、吾が二十鍾に当る』、敵の武器を奪ってそれを自分のものに出来れば一石二鳥、孫子の策というわけだ」
「この船にたぶんユーリヤどのは乗ってきたのでしょうね。だから、同じように変えることができると考えたのでしょう」
はあ、と
「ユーリは――どうも自分の気持を教えてくれない。まあ、精神年齢がほぼ幼児に近いからね」
(あんな、見た目大人なのに?!)とすざくは心のなかで叫ぶ。
「ユーリヤどのが日本にこの船で渡ったのも、そして突然姿を消したのも誰かの策なのでしょうね。多分それは――『魔法少女』の」
魔法少女、という言葉に反応するすざく。今目の前にいる二人、
ゆっくりと貨物室の暗い部屋に分け入る三人。
こつこつと三人の足音だけがこだまする。
山のように積まれた木箱。この中身がすべて武器だとするならば、この船だけで一個連隊の数週間分の補給が間に合いそうな感じである。
奥まったところに人影が見える。
それは――人間の姿、そして少女が横たわる姿――
すざくはじっと目を凝らす。
それは明らかにユーリの姿であった。