朝から私は機嫌が良かった。
こんなに幸せな気持ちで出勤するのは、今まであっただろうか。
電車の中で、れんさんと肩を並べて揺られている。
彼とは途中の駅まで一緒で、その間に30分ほど一緒にいられるのがも嬉しい。
満員電車の中、れんさんはさりげなく私を守るようにしてくれる。
混雑で押し寄せる人々の波から、そっと身体を庇うような動き。
……なんだろう、この人。普段はクールなのに、時折こうして大胆になる。
少女漫画のような胸キュン展開が、昨日から立て続けに起きていて、正直、頭が追いついていない。
そして、別れ際には甘く囁くように「頑張ってね」と言ってくれた。
その声が優しくて、私の背中をそっと押す。
――彼は遊びじゃない。
そう思える理由はいくつもある。
昨日、家に招いても、彼は私に無理をさせなかった。
夜が明けた朝も、変わらず穏やかな表情で「またね」と優しく送り出してくれた。
もし彼がただの遊びなら、昨夜のうちにその本性が見えていたはずだし、朝には急に冷たくなるか、最悪、姿を消していただろう。
でも、そんなそぶりは一切なかった。
だから、彼は本気だ――そう確信してもいいはずだ。
そう思うと嬉しさが込み上げてきて、思わずLINEを開いた。
「れんさん、お仕事頑張ってね❤️」
カフェで撮ったツーショットの写真も添えて、ハートマークを付けて送信する。
……送信ボタンを押した瞬間、ふと不安がよぎる。
「重くない?私、大丈夫?」
画面を見つめる手が止まる。
だが、すでに既読が付いていた。
だが、数秒、数分と経つが、れんさんからの返信は来ない。
「きっと、仕事中で後でゆっくり返信しようと思ってるんだよね」
そう自分に言い聞かせながらも、胸の奥で小さなモヤモヤが膨らむ。
その日、れんさんからの返信は、とうとう来なかった。