今日は、1週間ぶりにれんさんと会う日。
おうちデートの予定だ。
久々の再会に胸が弾む一方で、少し緊張もしていた。どんな顔で迎えようか、何を話そうかと考えるだけでそわそわしてしまう。
そして、彼が夜に来る予定だったので、昼のうちから気合いを入れて夜ご飯の準備に取りかかった。
「料理は愛情だもん!」
自分にそう言い聞かせながら、ネットでレシピを検索したり、知恵袋でアイデアを探したり。最終的に作ることに決めたのは「肉じゃが」。家庭の味で、心も胃袋も掴める気がしたからだ。
煮込み始めると、キッチンに広がる優しい香りに気分も高まり、「これで喜んでくれるかな?」なんて想像するたび、自然と顔が緩んだ。
れんさんはメッセージの返信が苦手なタイプ。短文で、しかも遅い。こちらから質問しないと既読無視が続くこともある。わかってる、わかってるけど、たまには少し気の利いた返信が欲しい…そう思わずにはいられない。
「何時くらいになりそう?」とメッセージを送ったあと、「雨だから気をつけてきてね」と付け加えてみた。少しでも優しい言葉を添えたほうが、彼も返しやすいだろうと考えたからだ。
しばらくして届いたのは、たった一言の「雨すごいね」。
その返事を見た瞬間、胸に小さな不安が広がった。
「何時に来るの?」という質問には答えがなく、ただ雨の話題だけ。
もしかして、本当は会いたくない? 雨だから面倒くさくなっちゃったの?
考えたくない想像が次々に浮かんでしまう。
少し冷静になりたくて、「夜ご飯作って待ってるよ」と再度メッセージを送った。けれど返ってきたのは、予想外の言葉だった。
「雨降ってたから今日はいいかなと思ってたけど。」
目の前が真っ白になった。
「え…私はすごく楽しみにしてたのに。」
声にならない本音が心に響く。
雨が理由で会うのをやめようと思うなんて、私には理解できなかった。ただ会いたかった。今日は一緒に過ごしたかった。それだけだったのに。
しばらくして再び届いたメッセージに、「夜ご飯作ってくれてるなら行く」と書いてあった。少しだけ安堵したものの、どこか引っかかる気持ちは消えないまま。
れんさんが家に到着するまでの時間が、とても長く感じられた。
煮込まれていく肉じゃがをじっと見つめながら、私は心の中にぽっかりと穴が空いたような寂しさを感じていた。
30分くらいで到着した彼は、少しの罪悪感も見せず、平然とした表情でこう言った。
「雨って苦手なんだよね」
その言葉に、胸の中でまた小さな疑問が芽生える。
――私は彼にとって、ただの遊びなんじゃないだろうか?
都合のいい女になり下がっている気がしてならない。
「…おいしそう」
用意しておいた夜ご飯を見て、彼の目が一瞬輝いた。
少しテンションを上げた彼は、肉じゃがを3杯もおかわりしてこう言った。
「めっちゃうまいわ」
その夜も、彼は私に手を出すことなく、ただ一緒に眠るだけだった。
――私って、れんさんにとって何なんだろう?
言葉にするには少し怖いその疑問が、再び胸の中に湧き上がる。
寂しさに耐えきれず、れんさんの隣にそっと寄り添った。
寝ているのか、起きているのか、その境界が曖昧な彼が、ふいに私を優しく抱き寄せてくる。
その瞬間、張り詰めていた何かが静かに崩れて、目元から熱いものがひと筋、頬を伝った。
れんさんの温もりを感じながら、私はそのまま静かに目を閉じたのだった。