『このヒートテック、置いといてもいい?』
「うん、そこの棚に直しといて」
あれから、れんさんは頻繁にお泊まりに来るようになった。そのたびに、彼の私物が少しずつ増えていく。
最初に彼が私物を置いていったのは、2回目のお泊まりのときだった。
『ここに置いとくから』
そんな何気ない一言に、私はこっそり胸を弾ませていた。
私物が増えるたびに思う。
(また来てくれるつもりなんだな)
その事実が、ただただ嬉しかった。
あれから何度かキスはしたけれど、私たちはまだピュアなままだ。
告白もしていないのに、恋人のような関係が続いている。
この距離感って、何て言うんだろう?
もし体の関係があれば、間違いなく
“セ○レ”なんだろうけど、そうじゃない。
『俺の歯ブラシどこ?』
「えっと、友達が来たから下の棚に隠しといた。ごめん」
そう言いながら私は、どこかカップルみたいなやりとりをしている自分たちに気づく。
だけど、彼の存在を友達にどう説明すればいいのかわからなくて、つい隠してしまう。
なんだか曖昧なこの関係。複雑な気持ちが顔に出てしまったのか、れんさんがすぐに察して私に声をかけてきた。
『ちょっとこっち来て』
手招きする彼に促されて、ベッドに腰を下ろす。
「なに?」
不思議そうに彼を見上げると、れんさんは無言で両腕を広げた。
「え……?」
戸惑う私を見て、れんさんは『ほら、早く』と言い、片手を軽く動かして促してきた。
言われるがまま、そっと彼の腕の中に収まると、ぎゅっと強く抱きしめられた。
彼の手が私の頭を優しく撫でるたび、胸の奥がじんわりと温かくなっていく。
れんさんが耳元で、ふいにドラえもんの歌を口ずさみ始めた。
やっぱりこの人、どこか不思議でちょっと変わってる。
でも、その低くて落ち着いた声は、まるで子守唄みたいに心地よくて。
気づけば、私の心のモヤモヤをそっと溶かしていくのだった。
やっぱり好きだなぁ。
そんな実感が胸に広がっていく一方で、ふと思い出すのは――誰のせいでこんなに悩んでると思ってるの?という感情。
「むかつく……」
気づけば小さく呟いていた。
『ん?』
「……れんさんって、むかつく!」
少し困ったように天井を見上げるれんさんの横顔を眺めながら、私はふと考えた。
この人には、きっとこれからも振り回されるんだろうなぁ。
でも、それでもずっと一緒にいられるなら、まあいいか。
そう思った瞬間、気づけばれんさんの背中にそっと腕を回し、私はぎゅっと抱きしめ返していた。
ああ、この人のこと、私、すごく好きなんだなぁ…。