最近、れんさんに対して、どうしても拭えない疑惑が浮かび上がってきた。
付き合ってもう1ヶ月になるのに、れんさんの名前と年齢以外、何ひとつ知らないことに気づいたのだ。
れんさん自身、「自分は秘密主義だから、友達にもあまり自分のことを話さない」と言っていたけど、それにしても知らなすぎる。
だって職業が謎なんだ。
「出勤する」と言いながら、いつも私服。ニートではないと思うけど…。
それに飲食店でちらっと見えたれんさんのクレジットカード――アメックスのゴールドカードだった。どうやら財力はかなりあるらしい。
謎に包まれたれんさんのことを、もっと知りたいと思う。
名前と年齢だけじゃなく、れんさんがどんな人生を歩んできたのか、何を考え、何を大切にしているのか。
だけど、どんなに近づこうとしても、れんさんの心には見えない壁がある気がする。
その壁を越えたい。れんさんの本当の姿に触れたい。
でも、もしかしたら私が知りたいと思っているその先には、触れてはいけない秘密が隠されているのかもしれない――
なぜかと言うと、私が「れんさんの家に行ってみたい」と言ったとき、頑なに拒否されたのだ。
その瞬間、胸の奥で小さな警報が鳴り響いた。
言葉にできない違和感が静かに広がり、冷たい不安が心を締め付ける。
直感が告げる――このまま見過ごしてはいけない、と。
れんさんは私より5歳上の31歳。
結婚していてもおかしくない年齢だよね。
もしかして…既婚者?
そう思うと、これまでのれんさんの振る舞いがすべて怪しく見えてくる。
1ヶ月も一緒にいるのに、こんなに何も知らないのって、普通じゃないよね?
「ねえ、れんさん。家に行きたい」
『んー、家はダメ』
「なんで?」
『散らかってるから』
「全然いいよ!私、そういうの気にしないし!」
『俺が嫌』
――このやりとり、一体何回繰り返しただろう。
そのたびに、れんさんの頑なな態度に胸の中の不安が大きくなる。
どうして私には、こんなにも何も話してくれないんだろう。
私がただの都合のいい女だから?
それとも、深い関係になるのを避けたいから、個人情報を隠しているの?
れんさんの言葉の裏に隠れている「本当の理由」が知りたくて、でも踏み込む勇気もなくて、ただ募る疑念に押しつぶされそうになるのだった。