「どのくらい時間かかりますか?」
「申し訳ございません…。正確な時間はお伝えできないのですが、現在10組お待ちですので、2時間以上は見ていただければと思います。」
「そんなにかかるの?じゃあ、もういいわ。」
お客さまが顔をしかめて立ち去る。
少し胸が痛むけれど、立ち止まっている余裕なんてない。接客にラッピングに、手も口も一瞬たりとも止められない。
店の外では、長蛇の列になったお客さまたちがこちらに冷たい視線を投げかけている。
クリスマスやイベントシーズンは毎年こんな感じだ。一日に150人ほどが来店し、私含めてスタッフ3人で回さなければならない。
今日だけでも50人以上を接客し、すでに目が回りそうだ。
何回「申し訳ございません」と口にしただろう。次第に思考が鈍り、忙しさに押しつぶされそうになる。
ほんの一瞬、ふらりと視界が揺れた。頭が真っ白になりそうになるのを必死にこらえる。
もともと地味で人見知りな自分を変えたくて、この華やかな場所でたくさんの人と関わる仕事を選んだ。
でも、どこかで気付いていた。この仕事は自分に向いていないかもしれないと。
だって、プライベートでは人混みも騒がしい場所も苦手だ。それなのに、こんな百貨店のど真ん中で働いているなんて。毎日がストレスの連続だ。
それでも、頑張らなくちゃ。
この自分を変えたくて、選んだ仕事なんだから。
「ありがとうございました。」
私は無理に笑顔を作りながら商品を手渡した。お客さまは不機嫌そうに袋を受け取ると、足早に去っていく。
「ねえ…」
その瞬間、肩を叩かれる感触がした。振り向くと、先輩が驚いた顔で私を見ている。
「今の商品、私のお客さまのじゃなかった?」
「…え?」
耳元で先輩の言葉が反響する。
その瞬間、全身から血の気が引いていった。
まさか――私は、大きなミスをしてしまったのだ。