「彼女」
その響きが、胸の奥をじんわりと温める。
まだ実感は湧かないけど、この人は私のことが好きなんだ。
私と同じ気持ちでいてくれるんだ――そう思うだけで、幸せがじわりと押し寄せてくる。
れんさんの顔を見つめるたび、心がふわふわと浮き上がるような気分になる。
両思いなんて、人生で初めてだった。
(好きな人が同じ気持ちを持ってくれる確率って、いったい何パーセントなんだろう?)
そんなことを考えながら、隣でスマホをいじるれんさんにそっと抱きついた。
『……ん?』
軽く顔をこちらに向けたれんさんは、一見無表情のまま、そっと私の頭に手を伸ばし、優しく撫でてくれる。
その手の温かさが、胸の奥まで染み込んでいくようだった。
彼女になった今でも、れんさんのことはまだ全然わからないことばかり。
彼がどんな気持ちで、何を考えているのか、時々謎に思うこともある。
でも――そんなことどうでもいい。
今、この瞬間の喜びを、ただ噛み締めていたい。
『そういえば、頑張ってたね』
ふいにれんさんがぽつりと口を開いた。
「えっ?なにが?」
私は首をかしげる。
『制服、似合ってた』
「え、職場に来てくれたの?いつ?なんで声かけてくれなかったの!」
驚きのあまりガバッと体を起こし、れんさんの肩を両手で掴んで揺さぶる。
れんさんは小さく笑いながら、視線をそらした。
『……恥ずかしくて、声かけられなかった』
その一言に、胸がぎゅっと締め付けられるようだった。
こんな風に不器用で、言葉足らずなところがある人だけど、
ちゃんと私のことを見ていてくれる。
その事実がたまらなく嬉しくて、思わず微笑みがこぼれる。
「ふふっ、ありがとう」
少し照れながら笑いかけると、れんさんは視線を戻して、そっと頭を撫でてくれた。
それだけで、また心がときめいてしまうのだから、私は本当に単純だと思う。
だけど、それが今の私の幸せだった。