深夜、携帯が鳴った。
こんな時間に誰だろうと画面を見ると、れんさんの名前が表示されている。
慌てて電話を取ると、何の音も聞こえない。
「れんさん?どうしたの?」
少し間を置いて、返ってきたのはぽつりとした一言だった。
『……なんとなく』
その声はいつになく弱々しく、どこか寂しげだ。
「本当に、なんとなく?」
『……うん』
普段は冷静で落ち着いているれんさんが、こんな風に弱気な様子を見せるのは珍しい。
『……親ともめた』
短く吐き出されたその言葉に、思わず私はうなずいた。
「そうだったんだね……」
今日のれんさんは、いつもより近く感じる。
こうして弱音を聞かせてくれるなんて、少し嬉しい気持ちさえした。
れんさんは親とあまり仲が良くないらしい。
そういえば、前に私の家に来ていた時のことを思い出した。
くつろいでいたれんさんが急に「電話きた」と慌てて外に飛び出していったのが、不思議でならなかった。
そっと玄関のドア越しに覗いてみると、れんさんの声が怒りで震えていた。
「だから!母さん、勝手なことすんなよ!」
その言葉と険しい表情が、今でも頭に焼き付いている。
あの時と同じような問題が、また起こったのかもしれない。
「れんさん、気が落ち着くまでこのまま話そう?」
『……うん』
れんさんの声が心に残り、そばに寄り添いたい気持ちが募った。
こうして私は、その日ずっと憧れていた“寝落ち電話”を初めて経験することになったのだった。