「熱でた」
昼休憩に入ると、れんさんから短いメッセージが届いた。
「大丈夫?」
すぐに返信すると、間を置かずに返事が返ってきた。
「大丈夫じゃないかも。きつい」
思わず心配になり、
「看病に行こうか?」
と送ると、既読はついたものの、次の返事が来るまで妙に時間がかかった。
(まあ、家に来るの嫌がるタイプだしな……)
そんなことを考えていると、ぶぶっと通知音が鳴る。どうせ「それはいい」とか断られるんだろう、と思いながら開くと、意外な言葉が並んでいた。
「食料買ってきてほしい」
頼りにされるのは悪い気がしない。仕事が終わるとすぐにコンビニに寄り、ゼリーや栄養ドリンク、冷えピタなどを買い揃え、彼が送ってきた住所へ向かった。
そこは駅近くの6階建てのマンション。周囲にはコンビニが3つもあり、スーパーまで揃う便利な立地だ。オートロックのインターホンを押すと、少し掠れたれんさんの声が聞こえ、ドアが開いた。
エレベーターで5階に上がり、彼の部屋の前に立つ。インターホンを押してしばらくすると、部屋の奥からドタドタと足音が響いてきた。
(熱でそんなに動いて大丈夫かな……)
そう思っているうちに扉が開いた。
「……」
そこには、ジャージ姿でメガネをかけたれんさんが立っていた。ぼさぼさの髪、無防備な表情、どこか力が抜けた雰囲気──まさに脱力系男子の完成形だった。
不覚にも心臓が跳ねる。顔に出てしまうのが恥ずかしくて、手で口元を隠した。
「はい、これ。食料とか……買ってきたよ」
袋を差し出すと、れんさんはほんのり赤い顔でじっとこちらを見つめながら、低く呟いた。
「ありがとう……」
その視線に耐えきれず、私は慌てて言った。
「じゃあ、私はこれで!」
早くこのドキドキから逃れようと踵を返した、その時だった。
「……入る?」
れんさんの声が、いつもより少しだけ弱々しく、でもどこか甘えるように響いた。
振り返ると、熱で頬を赤らめたままの彼が、こちらをじっと見つめている。
「えっ?」
驚く私に、小さな声で続ける。
「ちょっとだけ、……一人だと寂しいから」
胸がぎゅっと締めつけられるような感覚がして、私はそっと頷いた。