「こ…これは…!」
目の前に広がったのは、想像以上の光景だった。床に散乱する書類の山、洋服が無造作に積まれた部屋。なんて、散らかっているんだろう…。
「な…なにこの部屋…」思わず声が漏れた。
私の驚きをよそに、れんさんは何も言わずに黙っていた。その姿を見て、ようやく気づいた。れんさんが部屋に呼びたくなかった理由、これで全部わかる…。
私が少し意味ありげに微笑んでいると、れんさんが苦笑いしながら、「だから部屋に呼びたくなかったんだよ…」と言い、頭をガシガシとかきあげた。
その言葉を聞いて、私は思わず胸がキュンとしてしまった。部屋は確かに散らかっていたけれど、れんさんのそんな素の部分が、どこか愛おしく感じられた。
「熱、どれくらいあったの?」
「38度…。朝まで40度近かったよ。」
れんさんは私の方に無言で近づき、抱きついてきた。まるで子供みたいに、無防備に。「よしよし」と、私はそっとその頭を撫でた。
「きつかった…」その声は、まるで甘えるように私の膝に頭をうずめてきて、心がきゅっと締め付けられる。
冷静で感情をあまり見せないれんさんが、こんなにも素直に甘えてくる姿が新鮮で、私はそのまま、弱った彼を優しく撫で続けた。
しばらくして、れんさんの熱は急激に上がり、40度近くまで達してしまった。
ベッドに横たわるれんさんの顔は、苦しそうに歪んでいる。
どうしても何かしたくて、必死に看病するけれど、熱は上がるばかり。ただ見守るしかできない自分が情けなかった。
「れんさん…早く良くなってね」
少しでも熱が下がるようにと冷たい手をぴったりと顔に押し当て、そっと唇を重ねた。ほっぺたにキスするたび、温かい肌の温もりが少しずつ冷たくなることを願って、心の中で祈った。
お母さんが私を看病してくれた時、「できたらお母さんが代わってあげたい」って言っていた意味が、今、痛いほどよく分かる。
私は何もかも忘れてただひたすらに看病を続けた。
その日は一晩中、れんさんのそばを離れず、「早く元気になってほしい」と心から祈るばかりだった。