『熱、下がった。看病してくれてありがとうね』
それ以来、れんさんとはなんだか急に距離が近くなった気がする。彼はよく私を部屋に招くようになり、悩みや考えごと、時にはどうでもいい話まで打ち明けてくれるようになった。
そして、私は気づいてしまった。
れんさん、今まで私の前でめっちゃ無理してたんだな、と。
今日も私の目の前で、彼はあぐらをかいて「遊戯王カード」をシャッフルしている。その手つきは高速すぎて、もはや何かの修行に見える。
部屋を見渡せば、美少女フィギュアに壁いっぱいのポスター、そしてカードの山。どう見ても完全にオタクワールドが展開されている。
既婚者疑惑は撤回。そもそも、こんな雰囲気で妻子持ちなんてありえないだろう。
「れんさんって、オタクだったんだね」とつい言ってしまう私。
すると彼は慌てて、『オタクとか言うなよ!』と否定。
いやいや、どの口が言うの、それ? クールキャラはどこ行った?
でも正直、こんな一面もかわいい。
『そういえばさ、今週末ちょっと忙しいかも。LINEの返信とか遅れるわ』と、スマホをいじりながら彼が言った。
「忙しい?れんさん、運動とかしてたっけ?社会人サークル?」
『いや、カードの大会』
「……カードの大会?」
突然のその言葉に、「大会」と「カード」というワードが私の脳内で激しく交錯する。カードって、そんな競技的な要素があるものだったっけ?
『そう、俺の尊敬する先輩たちも来るんだ。すごい人たちとチーム組むから、最近ちょっと緊張しててさ』
「チーム?」
カードゲームって団体戦あるんだ?新情報だ。
「その先輩たちって、どうすごいの?」と私が聞くと、れんさんは少し得意げに語り出した。
『俺の先輩たちは全国大会で優勝してて、めっちゃ強いんだよ。デッキ構築も戦略も神レベル。あの人たちと並んで試合するなんて、俺まだまだって思うけど、同時にめちゃくちゃ燃える!』
れんさんてこんなキャラだったの…?
なんかめちゃ子供みたいにはしゃいで可愛いじゃんとも思ってしまう。
不意に、彼が一枚のカードを顔の前に差し出してきた。持ち出したキラキラ光るカードを見てみると、なんかドラゴンっぽいモンスターが描かれていた。そのカードを掲げる彼は、まるでスポットライトを浴びた選手のようにキメ顔で言う。
『俺の【真紅眼の黒竜】で勝負を決めてくるから、応援よろしくな』
「う、うん、がんばって……?」
なんだか分からないけど、れんさんが楽しそうだからそれでいいか、と納得する私だった。