日曜日、私は気分転換がてら街へ買い物に出かけた。
目的のお店で欲しかった商品を手に入れ、満足して帰ろうと歩き出したその時、何かが私の視線を引き寄せた。
遠くから、なんだか異様な熱気をまとった10人くらいの団体がこちらへ向かってくるのが見えたからだ。
アニメキャラや美少女がプリントされたTシャツに、リュックを背負った中年男性たちだ。それだけならまだしも、話に夢中になりすぎて、まるで小学生の遠足のように声がでかい。
「いやいや、すごい集団だな……」
とりあえず視線を逸らしてそのままやり過ごそうとしたその瞬間――
その中の一人が、ふと目に入った。
ん?
その集団の中で妙に浮いている存在がいた。 黒髪の癖っ毛に、女の子みたいにきれいな顔立ちのイケメン。
……れんさん!?
いつもはスッとした大人っぽい雰囲気なのに、今日はどうしたんだ、れんさん。
黒髪の癖っ毛はそのままだけど、全身から謎の「中二病オーラ」が漂っている。
そして話しながら、謎のポーズを決めている。いや、いったいそのポーズは何なんだ? 何を意識してるんだ?ツッコミどころしかない、その姿に思わず目を奪われてしまう。
周りのオタクたちと全く同じテンションで盛り上がっているせいで、れんさんのイケメンオーラはすっかり消え去っていた。
普段なら「脱力系クールなイケメン」なのに、今日はどうしたことか、完全に「ちょっと痛々しい厨二病オタク」にしか見えない。
極めつけは、そのTシャツだった。
胸元には、誰もが一度は目にしたことがある名作絵本「もちもちの木」のイラストが、堂々とプリントされている。
なんでだろう、顔はいいはずなのに……この破壊力。
いや、たぶん「もちもちの木」のTシャツのせいだな、うん。
こちらがじっと見ていると、れんさんも気づいたのか、慌てて顔をバッと伏せた。
いや、隠し方が下手すぎるって。
「ん?
髪型は爆発的にボサボサ、目元には謎のメガネをかけ、Tシャツには「魔王降臨」って書かれてるし、さらに首元にはグリーンのチェーン。まさに、ただのオタクじゃない、何か一線を越えたオタク。
いや、冬なのに半袖ってどういうこと?寒くないの?
いやいや、待てよ……れんさんも半袖じゃん!何そのシンクロ感。チームのドレスコードか何か?
「いや、なんでも…」
れんさんは気まずそうに目線をそらす。いやいやいやいや、待って待って待って!
今、「
横で半袖のおじさんがドヤ顔してるのもじわじわくるし、なんなのこれ、シュールすぎて処理が追いつかないんだけど!?
ん?そういえば、れんさんが尊敬している「先輩たち」って…まさか、この人たち?
あまりにも衝撃すぎて、頭の中で一瞬、電流が走った。
思わず全員を見渡してしまう。
れんさん以外は、頭がツルツルだったり、妙に濃い髭を生やしていたり、「THE おじさん」な人たちばかりだ。しかも全員服装が…いや、もうツッコミどころしかない。
遠巻きに見ている通行人たちの「え、なにこの人たち?」という視線もすごい。
しかし、当の彼らは全く気にしていない。いやむしろ、楽しそうだ。
「いやいやいや……れんさん、大丈夫なの?」
思わず心の中で突っ込んでしまった。
だけど、なんだろう。楽しそうに盛り上がる姿を見ていたら、ちょっとだけ微笑ましく思えてきたのも事実だ。
まあ、れんさんが楽しそうなら、それでいいのかもしれない。
彼が心から楽しんでいるなら、周りのことなんて気にしなくてもいいよね、うん。