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第3話 DAY1③

 部屋の中が暗くなってきた。時計を見ればもう8時前。杏には悪いが晩御飯は任せよう。


「そっち終わった?」

「あとちょっと…今キリついた。」

「下降りようか。」

「そうだな。」


リビングに降りると案の定、杏が晩御飯を作ってくれていた。匂いからして鰤の照り焼きだろうか。


「あっバカ兄達、お疲れ様!晩御飯もうちょっとでできるから待っててね。」

「おう、悪いな。任せちまって。」

「いいってことよ、たまにはこういうこともしないとね。」


杏はまたコンロの方を向いて、作業している。俺たちは、皿を並べたり、箸を並べたりと、ちょっと手伝って、テレビをつけた。日曜日の夜なので10チャンネルを押せばバラエティ番組になると思ったが、今日はスペシャルらしく、農作業をやっていた。


「田植えしてるな。」

「今年の米は上手くいくといいね。」


最近、アイドルから社長に変わったタレントが慣れた手つきで苗を刺していく。まったく、元アイドルとは思えない光景だ。まあこんなに長いことやっていたら見慣れてくるものだが。


「できたよー。」

「「おう。ありがと。」」


杏に呼ばれて食卓につく。予想通り、鰤の照り焼き。やはり、この家では杏が1番料理が上手い。付け合せの料理を見ても、どれも美味しそうでヨダレが止まらない。


「「「いただきます。」」」


俺たちはがっつくように貪り食い、まんまと平らげてしまった。


 今日の予定の所まで進んだので、俺たちはソファでくつろいでいた。


「ねぇ久志、最近曲書いてる?」

「そういや、書いてないな。」

「今書いてよ。」

「え〜っ、しょうがねえな。」


俺はそこら辺にあったメモとペンを手に取り、テキトーにリズムを作って書き始める、書き始める、書き始め…ダメだ全く思い浮かばない。


「珍しいね。どうしたの?」

「ただ何も思い浮かばないだけさ。よくあることよ。」

「じゃあ、私をイメージして書いてみたら?」

「何でだ?」

「ほら、前好きな人を思い浮かべるとか言ってたじゃん。だから、少なくとも大切な人とか、自分で言うのもなんだけど、ずっと一緒にいるし。」

「確かにそうだな。うーん…思いつきそうで思いつかない。」

「え〜っ、なんかヒドい。」

「怒んなって。ほら、もう時間も時間だし寝るぞ。明日はきいが来るから余計疲れるしな。」


俺はそう言って立ち上がった。風呂にはもう入ったから、歯を磨いて寝るだけ。少し辛めのミントの味が口の中いっぱいに広がって、冷たくなる。ゆすいで吐き出し、トイレに入った。ルーティーンのようなこの作業も、全ては快眠のため。


「おやすみ。」


俺は寝惚けている2人にそう言って、自分の部屋に入った。明日、必要になりそうな物を準備してから、布団に入る。何かを考える暇もなく、眠りについた。

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