誰かがインターホンを押して目が覚める。OFFくらい、ゆっくり寝させてくれよ。応答のボタンを押したら、聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
『おーい、起きてるか?今日、そっちで過ごしていい?』
「あぁ?別に構わねぇけどよ、まだ9時だぞ。もうちょっと寝させろ。」
『ダメだ。起きろ。』
「高くつくぞ。鍵開けるから待っとけ。」
重い足で階段を降り、玄関の鍵を開ける。消えているリビングの電気を点けて、クーラーをつける。
「本当に今の今まで寝てたんだね。このノロマめ。」
「疲れてんだよ。着替えてくるから、テキトーにテレビでも見とけ。」
クローゼットの中から部屋着を取り出して、着る。顔を洗って、寝癖はやらなくていいか。歯を磨いて、眠い目をこすりながらワイドショーが流れているリビングで軽めの朝食を摂る。
「で、何するんだ?」
「何って宿題以外ないでしょ。後半はいっぱい遊ぶんでしょ?」
「まぁ、そうだけど、あれくらいちゃちゃっと終わるだろ。」
「答え見るくせに。」
「当たり前だろ。」
何にツボったのか分からないが、楓が笑う。つられて俺も笑う。
「はぁ、何やってんだろ。」
「俺のセリフだ。」
いつもの光景。いつも通りすぎて、最近はこいつがいるのが当たり前にすら思えてきた。何か嫌だ。
「めっちゃ失礼なこと考えてるでしょ。」
「違ぇし。」
「嘘つけ。」
楓は勉強道具を広げて、俺の向かいに座る。俺も現代文の問題集を広げて、座る。無言だけど心地よい時間が流れていく。
1区切りついたところで昼飯を作る。というか、作ってくれる。楓はいつも俺にお世話になるのが悪いとか理由をつけて、昼飯は作ってくれる。家のキッチンにもだんだん詳しくなっていって、たまに配置を変えたりしているが、楓が作り終わった後には元の配置に戻っていたりして、何かムカつく。
「調味料の場所変えたでしょ?戻しとくよ。」
「チッ。バレたか。」
「私が何回このキッチン使ってると思ってるのよ。覚えてくるわよ。」
昼飯は炒飯。インスタントの中華スープも作って、食卓を囲む。楓は料理上手だから何を作っても美味い。
「いつも通り美味いぞ。」
「それは良かった。またバリエーション増えたから試食してね。」
「まさか俺に毒味させてる訳じゃないよな?」
「バレたか。」
昼飯の後もまた勉強。ときに教えながら、自分の課題を終わらせていく。水泳部は夏が本番。だからOFFが少ないのは予想通りだが、まさかお盆休みが無いとは思いもしなかった。8月末に固まってOFFがあるが、ここはQ達と遊びに行くので、宿題はできない。よって今終わらせておくのに越したことはない。ちょっとぐらい無理をしてでも、やっぱり遊びたいしな。
この日、楓が帰ったのは、11時を過ぎた頃だった。