ピンポーンとインターホンがなる。
「はーい」
と返事して扉を開けるとカレンがいる。何か不服だけど、1人よりは少しマシに思えてくる。
「おはようさん!」
「おはよ、早く入って。」
「おじゃましまーす。」
なぜか料理を教えることになった私。あの時の自分を少し恨みたい。
一応、前の時よりは部屋は片付けたつもりだ。昨日の晩、ゴキブリが出た時は大変だった。叫びそうになりながら、隣のカレンに悟られないように退治しないといけないのが、なんというか面倒くさかった。何でこいつなんかに気を遣わないといけないのよ。
「んで、何から教えてくれるん?」
「まずはアンタ、何を作れるの?」
「ご飯は炊けるし、お湯は沸かせる。あとは鍋とか。プッチンってするやつ。」
「ほぼできてるやつじゃないの?まずは卵を焼いてみるか。」
カレンに卵を1つ手渡す。コンコンと机の角でヒビを入れて…グシャ。
「マジか!?」
「クソッ、今回はいけると思ったのにな。」
「どこがよ!?いい、ちゃんと見ててね。卵ってのは机で軽くヒビを入れてそこに親指を当てるか入れるかして開く!」
パカッ
「いい?ちゃんとできるまで教えてあげるから、2個目!」
カレンに2個目を渡す。机の角で軽くヒビを入れて、親指を当てて…グシャ。
「あーもう!なんでそうなるの?」
「まさかこれが、イッ、イッ、イップスってやつか?」
「知らないわよ!どんな力で握ってるのよ!はい、次!」
3個目。同じように机の角でヒビを入れて、ヒビを入れて、ヒビを入れて…
「怖がりすぎよ!」
「だって力弱くしたらヒビ入らないし。」
「さっきまでと同じ力でやったらいいの!」
次はしっかりヒビが入る。親指を軽く入れて…グチャ。
「んもおぉぉぉ!何でそうなるの?」
「だって…」
「だってじゃない!」
こんなんだったら、巨乳の黒リボンのロングヘアに『おに』って書いたハチマキでもつけてやる!
卵割りの訓練は日が傾くまで続いた。黄身が少し崩れるくらいになっていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。あのモンスターだった頃に比べたらマシじゃない?」
「まだ、まだだ。この黄身の形も崩れないところまでやりたい。」
「今なら卵焼きくらい作れるでしょ?」
「違うんだ。俺の予想では…目玉焼きの方が簡単なんだ!」
「そりゃあ、フライパンに油しいて、卵落とすだけだからね。」
「少しでも簡単に作りたいだろ。」
「もしかして、私の時間気にしてくれてる?」
「いいや、一切。」
思わず、カレンの右脇腹にストレートをぶち込む。呻き声を上げながら割った卵は、黄身の形も崩れることなく、パカッと割れた。
「やった!割れた!ちゃんと割れた!」
「これでとりあえず、今日は終わりね。」
「じゃあ、これを焼いてみるわ。」
「えっ!?」
結果、まっくろーーーーーー!
「次は、卵焼きを教えてくれ。」
「あ、あ、あ、う、あ、え、あ、う。ギイャーーーー!」