「ねぇねぇ次、あれ乗ろうよ!」
海南さんが指差したのは横にあるスライダー。さっきから「キャー」と声が聞こえてきていたから気になっていたのだろう。
「いいな、それ。じゃあ俺は普通の方で。」
「私と楓ちゃんは渓谷の方に行こうかな?」
「いいねそれ!早く並ぼ!」
きいと海南さんが走り出す。しばらくして「いてっ」と聞こえてきたからコケたのだろう。自業自得だ。
「私は少ない方。」
フラフラと歩き出した熊野さんが消えていく。プールの中を見れば、もう誰もいない。奏はもう行ったらしい。
「桜はどうする?」
「私、こういうの苦手なんだけど、多分下集合よね。階段降りるのは面倒臭いし。久志、一緒に滑らない?」
「別にいいけど。」
「じゃ、行こ!」
桜は俺の手を引いて、いや、拘束して列に並ぶ。長さを見る限り15分ほどだろうか。少し前にきいたちが見えて、向こうもこちらに気づいたのか、手を振ってきた。もちろん手を振り返す。あと、薄々気づいていたが、さっきから周りの野郎どもの視線が痛い。俺たちのグループが美男美女揃いだからだろうか。俺以外は。
「「ギイャアァァァ〜!」」
聞き馴染みのある声が聞こえてくる。多分きいたちが今滑っているのだろう。見たところあと数組で俺たちの番だ。
「どっちが前に座る?」
「久志、前で。前の方が多分怖いから。」
「そうだな、じゃあ前乗るぞ。」
自分たちの番になって、2人乗りであることを伝える。体重制限があるが、俺も桜も細いので問題なくパスした。俺が前で桜が後ろになるように座る。係員の合図で滑り始めた。
「キャーーーー!」
後ろで桜が叫んでいるのが聞こえる。左右に大きく揺れるタイプなので、スピードこそ出ないが、それでもかなりの速度は出ている。正直少し怖い。だけど、楽しさの方が勝っているからか、いつの間にか笑っていた。
下にたどり着く。浮き輪を置いて、他のみんなを探す。売店の近くにいた。
「遅ぇぞ、ほら、アイス!」
「悪ぃな、奏。何円した?」
「あとでいいから。それより時間やばくねぇか?」
近くの時計を見れば12時前。確かにやばいかもしれない。
「じゃあ、着替えて入り口前集合な。」
「後でね〜。」
シャワーを浴びてまた解散。ササッと着替えて、ロッカーに預けていた荷物を取り出し、入り口前で待つ。夏の日差しがジリジリと照りつけてきて、俺の体を蝕んでいく。入り口の方を眺めていると桜たちが出てきて、こちらに手を振っている。俺たちは小さく振り返して、荷物を取り出すのを待った。
「おまたせ!お昼はどうするの?」
「ここじゃ高いから、移動してからだな。公開後すぐだからできる限り早く行かないと、席が埋まっちまう。」
最寄りの枚方公園駅に急いで移動して、丁度入ってきた準急淀屋橋行きに乗り込む。昼間だから車内は閑散としていて、俺たちは横並びに座った。
「何時からの見る?」
「今行ってすぐのやつは、多分席空いていないから、この16:15からのやつかな?」
「じゃあ、まだ時間あるね。とりあえず大日着いてから、チケット買って、お昼ご飯食べよ。もうお腹ペコペコだよぉ。」
話しながら乗っていると、萱島に着いたので乗り換え。各停に乗って、門真市駅で降りる。今から乗る大阪モノレールまでは連絡通路があって、行き交う人は多い。はぐれないようにしながら改札を通り、ホームに上がる。3分ほど待って、モノレールが入ってきた。始発駅なのでもちろん人はいない。また横並びに座り、発車を待つ。ここから大日までは1駅。同じ側のドアが開いて下車する。目的のアオンモールは目と鼻の先にあるので、正面の入り口から入った。
「確か、シネマは1番奥のところにあるから。」
近くのエスカレーターで4階まで上がり、また奥の方に歩く。連絡橋を渡って目的のアオンシネマに着いた。
「チケットは…ここか。ワンピの…6人の。席は横並びの方がいいよな。」
「モチロン!」
「じゃあ、1番後ろの席で。みんな高校生でいいよな?」
「当たり前だ!」
「じゃ、高校生と。非会員の現金払いで…皆の衆、英世を出せぇい!」
全員から1000円を徴収。精算機に入れて発券されるのを待つ。
「空いてて良かったね。」
「これで空いてなかったら、私の家で過ごすことになったかも。そしたらカレンが来て…あぁ良かった。」
熊野さんが何やら肩を撫で下ろしている。
「あれ、音羽ちゃんやないの!こんなとこで何してるん?」
えっと…誰だ?