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第44話 DAY35②

 肉の美味しそうな匂いが漂ってくる。脂の音と、薪の爆ぜる音のハーモニーが素晴らしい。さっきから肉を5枚ほど火の中に落としてしまっているが、みんなはただ笑うだけで、楽しい空間が広がっている。少なくとも、このタープの中だけは平和だ。


「Q、次豚焼いて!」

「桜こそいい加減手伝ってくれねぇか?」

「ごめん、私、今日誕生日だから。久志、よろしくね!」


そう。今日はKYUKA組でキャンプに来ているだけじゃない。桜の誕生日パーティーも兼ねている。ケーキこそないが、桜は今日は働かなくていい日なのだ。


「もうそろそろかな?」


奏が蒸らしていたご飯の蓋を開ける。見事な光沢と甘い香りに今にも倒れそうだ。肉と合わせると…美味しそう。焼いている鶏肉の皮がパリッとなってきたので裏返す。ここからは少し遠火にしてじっくりと。脂がポタポタと落ちていって、ジュワァァと音が響く。火が通ったのを確認して、皿に移して全員の真ん中に置いた。


『いただきます!』


本日何度目か分からない『いただきます』。楽しくなってきて、それだけでも笑ってしまう。1口目は肉だけで。噛めば噛むほど肉汁がブワァと広がってくる。薄めの塩味も肉本来の旨さを損なわないようになっている。美味い。次はご飯と一緒に。あぁもう最高だ!


「Q、次ロースがいい!」

「はいはい。」


やはりこれは火に1番近い人の仕事みたいだ。本当にゆっくり食べたい。


 夜は更けていって9時過ぎ。


「食ったー!」


海南さんがお腹をポンポンと叩く。結局、肉は全部食い切った。ご飯も空になったし、俺も結構食べたなって思う。今はきいと熊野さんが洗い物をしに行っている。さっきまであんなに大きかった火も少しずつ小さくなっていて、赤い光が夜の終わりを知らせようとしている。


「Q、オイルサーディン食べようぜ!」

「流石に自分で焼けよ。」

「チッ、まあしょうがねぇか。」


奏は、オイルサーディンの蓋を開けて、金網の上に乗せる。フランスパンも斜めにカットして同じく網の上に。少し火力を上げて、パンに焦げ目をつける。オイルサーディンはクツクツしてきたらテーブルの上に。箸で小さくカットしてパンの上に乗せて食べる。単純に美味い。ダメだ。語彙力がなくなってくる。それほど美味い。帰ってきたきいと熊野さんも「美味しい!」と言いながら食べたので、すぐになくなってしまった。夜はまだ長くなりそうだ。


 お湯が沸いたのでコーヒーを淹れる。


「マシュマロ食べる人?」


桜からの問いかけにもちろん全員挙手。マシュマロに串を刺して、火の周りに集まり、じっくり焼いていく。いい感じに焦げ目がついたらそのまま口の中へ。甘さが口の中で溶けていき、まとわりついていく。


「甘ーーーい!」


海南さん、さっき「食ったー!」って言ってなかったっけ?まぁ別腹とかいう都合のいい体質だろう。俺はコーヒーを流し込む。いつもより苦さを濃く感じて染み渡っていく。ふぅと息をついてトイレに行く。何か嫌な予感がする。


 戻ってみると、熊野さんが持ってきたトランプをくっていた。


「Qもジジ抜きするでしょ。」

「当たり前だろ。」


このグループはババ抜きよりもジジ抜き派の方が多い。少し珍しいかもしれないが。


 最初の枚数は俺が6枚、桜が7枚、きいが8枚、奏も8枚、熊野さんが9枚で海南さんが5枚。熊野さんのカードを奏が引くところから始まった。全員順調に枚数を減らしていく。俺の予想では3か7がジジ。俺は今のところ持っていないからある程度のところで抜けれるだろう。目の前で桜が1枚になって、それを俺が引いたので1位抜け。俺もペアを作って残り1枚になったので、海南さんにそれを引かせて2位抜け。次に熊野さん、そしてきいが抜けて、奏と海南さんの決勝戦となった。互いに1枚ずつ減らし、海南さんが2枚、奏が1枚に。3回ジジを引きあって、最後は…


「シャーーー!」

「アァァァァァァァ!」


奏の勝利で終わりました。


 寝袋に入る。冷たさと気持ちよさですぐに寝れそうだ。


「なあQ。疲れてねぇか?」

「何でだ?奏。」

「今までモブのお前がこんなに関わって、疲れねぇのかなって思ってな。」

「別にそんなことねぇよ。楽しけりゃ、疲れも感じない、だろ。」

「だな。」


意識が遠のいていく片隅に「ありがとう」と聞こえた気がした。

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