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第45話 DAY36①

 朝、少し早めに目が覚めてしまった。時間は5時前。起きている人も少ないから静かにしておこう。


 お湯を沸かして朝の1杯。ステンレス製のコップに甘酒の乾燥したやつを入れて、湯を注ぐ。スプーンでかき混ぜて完成だ。


「みんな何時ぐらいに起きるかな?」


自分の椅子に座って呟く。気温は涼しいと感じるけど、温かいものを飲むと少し暑いと感じるほど。少しずつ見えてくる太陽を眺めながら1口。理想が叶った。


「おう、桜。起きてたのか。」

「久志こそ早いね。」

「枕が変わるとあんまり寝れなくてな。ふわぁぁ。」

「私もそんな感じ。あんまり寝れてないな。何か飲む?」

「チャイを頼む。」


私はスティックのチャイ・オレを箱から取り出して、ステンレスのコップに入れる。お湯を注いで、これもかき混ぜるだけで完成だ。


「はい、どうぞ。」

「ありがとう。あぁ、染みるぅぅ!」


久志はフーフーしながら少しずつ飲んでいく。少なくとも、このチャイが無くなるまでは2人で話せるな。


「久志ってこういうの初めてだよね。楽しかった?」

「まぁな。知らねぇこともいっぱいだし、まだ人付き合いも手探りだけど、楽しいな。」

「そう。それならよかった。」


私の脳裏には1つの光景が浮かぶ。


『アンタといても何にも楽しくない。』


ダメだ、私。こんなに楽しいのに、この記憶を思い出しちゃ。私は変わったんだから。


「桜?」

「何にもないよ。ちょっと考え事してただけ。」

「それならよかった。」


顔を覗き込んできた久志にそうとだけ答えて、私は甘酒を飲む。少し恥ずかしい。


「桜って、弱いところ見せないよな。」

「そ、そうかな?」

「そうだな。別に素を見せてくれてもいいのに。」

「そ、そう。」


正直言って少し怖い。だって、私の素を見せたらみんな離れていくんだから。このメンバーとそんなので離れるのは絶対に嫌だから。そういう人たちじゃないってのは分かってるんだけど、どうしてもできない。


「もし、私の素がみんなが思っていたのと違うかったとして、離れていかないよね。」

「当たり前だろ。友達だから。」

「友達だもんね。」


そうか。友達か。本当にそう思ってくれてるんだったら嬉しいな。


「おはよ!」

「おはよう、きい。」


まずはきいが出てくる。続いて楓と音羽が出てきて、最後に奏っちが出てきた。


「Q、朝飯頼んだ。」

「しょうがねぇな。ホットサンド作るけど、何挟みたい?」

「Qに任せる。」

「私も。」

「私はハムと卵がいいかな。」

「私はチーズマシマシのハムで!よろしくね、ひい君。」

「俺はテキトーでいいわ。」


久志はバウルーにバターを塗って、パンをしく。具材を挟んで、焚き火の上に置いた。たまに焦げてないか確認しながら、きつね色になるまで焼き続ける。1回あたり、だいたい3分ずつぐらいだから、全員分焼くのにだいたい20分。焼けた分から食べてもらう。ちなみに大好評だった。


 焚き火の火を鎮めながら、軽く片付けを始める。テントの中なら荷物を出して、ブルーシートに乗せていく。さっき楓のお母さんから連絡があったから、あと1時間ぐらいで迎えに来てくれるだろう。タープを畳んで、テントを解体し、残るはそれぞれの椅子だけ。消えていく火を椅子で囲んで眺めながら、楓のお母さんが来るのを待った。


 火が消える。夏の終わりを暗示しているようで、少し哀しい。それでも、学校でまた会えるから、今はセンチな気分にはならないでおこう。


『この夏がずっと終わらなければいいのに』


なんて考えないでおこう。

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