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第9話 そして文化祭は始まった④

「それでは、コルク弾を装填してから、レバーを引いて、撃ってください。じゃあ、ご自分のいいタイミングで。」


仕事内容は撃ち方を説明して、不正がないように見るだけ。ではない。


 例えばこういうお客さんが来た時。


「おー可愛いね!何歳?」

「5!」


元気よく答える少女に思わず笑みがこぼれる。幼稚園くらいの少女は1番攻撃力が高い。正直、今のも危なかった。


「じゃあやり方は…」

「分かる!ここにこれを入れて、このレバーを引く、でしょ?」

「そうそう、あってる!じゃあやってみよう!」

「うん!」


少女はコルク弾を差し込んで、レバーに手をかける。


「ふん!ふん!ふんんんん!」

「お兄ちゃんがやろうか?」

「ん!」


銃を差し出してきたので、レバーを引いてあげる。準備完了。


「どれにする?」

「下の右のやつ!」

「じゃあ、よーく狙ってね。」


集中した顔で狙いを定め、撃つ。が、弾は少し上にズレて、当たらなかった。


「惜しいね〜。次はちょっと下の方を狙おうか。」

「うん!」


少女はまた弾を差し込み、レバーを引こうとする。やっぱり引ききれない。


「どうする?やってあげようか?」

「おねがーい!」

「はいはい。」


そのあとも2発目、3発目、4発目と的を外し、5発目。


「レバー自分でできた!」

「おお!よかったね!」


些細なことで喜んで褒めてもらえるのは小さい子の特権だろう。だって、喜ぶ姿が可愛いんだから。少女はさっきまでと同じ的を狙って撃つ。まっすぐ進んだ弾は的の少し上の方に当たり、倒れた。


「やった〜!」

「おめでとう!」


俺が拍手をすると後ろに並んでいた3年生も拍手し、教室が拍手に包まれた。その中で飛び跳ねて喜ぶ少女を見ていると、もう守ってあげたい気持ちになった。


「またね!」


少女が教室を出るとき、そう呼びかけられたので手を振って返す。この先会うことがないのがほぼ確実だろう。それでも、また会えたらいいなと思った。


 昼が過ぎ、少し空腹を覚え始めたころ。


「これにて、文化祭2日目を終了します。皆様ありがとうございました。」


放送が流れて、祭りは終了した。記念撮影と片付けを済ませ、帰路に着く。横には桜ときい。


「2人ともお疲れ様。」

「Qこそめっちゃ頑張ってたやん。」

「ひい君があの女の子の接客している時、めっちゃニコニコやったで。」

「マジかよ。」


俺は両手で、自分の頬をこねくり回す。何も変わったことは無い。


「いやぁ、大盛況だったね。」

「休憩する間もなかった。」

「普段運動していないから足が重い。」


ロータリーを抜けて、駅へ。風が少し涼しくて気持ちいい。俺たちは反対側のホームに集まる、名前も知らない生徒を眺めながら、ベンチに座った。


「自然すぎて気づいてなかったけど、桜、関西弁上手くなってね!?」

「私も思った!」

「そりゃあ、常日頃ベッタベタの関西弁に囲まれてるし。」

「なんかディスられてる気がするんだが。」

「気のせいだよ。」


何気ない会話が、夕焼けの空に消えていく。


「来年は一緒に回ろうね。」

「そうだな。6人で回れたらいいな。」


来年の文化祭が楽しみだなんて、初めて思った。

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