正直怖い。ひい君たちは前回の作詞作曲でも曲を作っている。クラスの期待も凄い。そんな2人に私なんかが入ってもよかったのかな?でも今はそんなこと考えていられない。私は私の仕事に集中しなくちゃ。
ボーカルに私が選ばれたとき、本当に嬉しかった。また桜と2人でするんだろうと思っていたから、私は加太君のグループに入れてもらおうと思っていたからびっくりした。だからこそ、ひい君たちの期待に応えたい。私は大きく息を吸い、歌い始めた。
歌っている間の記憶はない。ただ、身体が覚えているのは楽しかったということ。2人とも私が歌いやすいように作ってくれていた。本当にありがとう。
「お疲れ、いい声だったよ!」
「あの歌難しいのにスゴいね!」
教室までの帰り道、楓と音羽が声をかけてくれた。「『スゴい』のは私じゃなくてあの2人だから」なんて言えないけど、やっぱり『スゴい』と言って貰えて少し恥ずかしかった。
教室に戻ると窓側の席で2人は談笑していた。綺麗だと叫びたくなるほどの柔らかな笑顔で。
〇〇〇〇〇
私たちは、昨日までの勢いそのままで、曲を作ることになった。
「久志、あとどれくらい?」
「もうちょっと。」
私は久志のベットの上で漫画を呼んでいる。いつもの光景だ。今日はどんな曲が生まれるのかな、って思いながら、呼びかけられるのを待つ。少し眠くなってきたや。おやすみ…
「―くら、桜。」
いったい何分くらい寝てたのだろうか。見える位置に時計がないから分からない。
「桜、6時半だぞ。」
「へぇっ?」
私、2時間以上寝てたんだ。むくっと起き上がって、時計を確認する。本当に6時半だった。
「ごめん、久志。私が作りたいとか言ったくせに。」
「別にいいよ。3曲書けたから。」
久志は私にノートを渡す。『JASON』と『rainy』と『最後のサヨナラ』か。本当にこいつは、私を暇にさせてくれない。そういうところが楽しいんだけど。
「あとで作るね。もうこの時間だから、晩ご飯にしよ。」
「そうだな。」
私たちはリビングに降りて晩ご飯を作る。今晩作るのは素麺。久志も私も卵やハムを入れる文化がないから、キンキンに冷えた素麺を麺つゆにつけて啜る。シンプルだが、これが美味しい。
「なぁ、桜。」
「何?」
「今日の曲、いや、きいの声よかったな。」
「あの子歌、上手いもん。」
私の声では満足出来なかったのかな?
「桜の声は少し攻撃的なサウンドに合ってるけど、ちょっとしっとりした曲、今日みたいな曲はきいの声がマッチしてるって感じだな。」
「これからも歌ってもらうの?」
私は少し不安になった。きいはこの話にのってくれるのか。そして、私たちのこの時間を壊されてしまわないか。ズルい女だとは思うけど、この時間が大切だから、誰にも邪魔されたくない。最近はその感情がどんどん強くなっているのが分かる。私はこの久志が好きだ。恋愛感情じゃなくて、親友とかの好き。でも、他の友達への好きよりももっと強い。
「いや、これからも桜に歌ってほしい。だって、桜と2人で作っていくのが楽しいから。」
久志は顔をクシャっとして笑う。
「私も。」
胸の高鳴りのせいで、それぐらいしか返せなかった。