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第11話 そしてキツい課題は再び出された②

 まったく、イソジンは突拍子もないことを言うから本当に困る。はぁ、歌詞か。Bメロ、どうしようかな?


「「ただいまぁ。」」

「お邪魔しまーす。」

「おかえり2人とも、ときい姉!どうしたの?」

「課題を3人でやらないとアカンから。」


俺と桜はそれぞれ部屋着に着替えて、俺の部屋に集合する。きいは俺のベットに座り、桜はローテーブルを挟んで俺の目の前に。俺は引き出しの奥から『作詞ノート2』と書かれたノートを取り出す。もちろん、中はまだ何も書いていない。


「ノート変えたんだ。」

「前のノート使い切ったから。」

「あと1曲書いたんだ。見せてよ。」

「探せるもんなら探してみろ。」


桜は部屋を物色し始める。が、見つかるわけが無い。なぜなら、あのノートは今学校にあるからだ。残念だが桜、無意味な行動だな。


 さてと、作詞か。この文化祭では初めてのことが結構あった。初めて他の女子と喋れたし、初めて接客が楽しいと思った。初めて文化祭が楽しいと思えたし、初めて来年の文化祭が楽しみだと思えた。これを曲に出来たらいいんだけどな。



『去りゆく人波の流れに逆らい

 閑散とした教室を眺めるだけ

 消えゆく賑わいの足跡はそこに

 散らばったコルク弾が伝えるだけ


 言葉じゃなくて 記憶じゃなくても

 確かにそこに 走り抜いた跡がある

 独りじゃなくて みんながいるからさ

 心のどこかで諦めていた僕の願いが叶う


 もう少しだけ もう少しだけ

 曖昧なままの日々を見ててもいいかな

 もう少しだけ もう少しだけ

 本当に忘れられなくしてもいいかな

 また出会ったときに分かち合いたいから



 溶けてく思い出のメモリはすぐに

 完璧なほどに冷まそう消えないように

 冷えてく教室の空気は明日に

 残っているだろうか そう呟くだけ


 本当じゃなくて 真実(まこと)じゃなくても

 確かにそこに 掴み取った今がある

 マトモじゃなくて 今日だけ許すから

 心の奥で隠し続けた僕の願いが叶う


 もう少しだけ もう少しだけ

 理想とは違う僕を見せてもいいかな

 もう少しだけ もう少しだけ

 残念な本当の僕を見せてもいいかな

 完璧に偽った仮面取っていいかな



 もう少しだけ もう少しだけ

 来年のこの時間を期待しようかな

 もう少しだけ もう少しだけ

 ハジメテに出会う僕を夢見ていいかな

 もう少しだけ もう少しだけ

 君と出会ったあの日覚えてていいかな

 もう少しだけ もう少しだけ

 本当の気持ちだけは閉じ込めていいかな

 夕焼けの空高くこの願いよ届け


 もう少しだけ もう少しだけ…

 もう少しだけ もう少しだけ…』


「書けたぞ。」

「今日は早いね。なんて曲?」

「『もう少し』とかにしようと思うんだけど。」

「まぁ、学校の分だし、そんなもんでいいんちゃう。」


メモとボイスレコーダーに吹き込んだ声を桜に送って、俺の仕事は終わった。少し、横になろう。


「きい、どけ。寝る。」

「おつかれ!歌詞読んでいい?」

「いいぞ、ほれ。」


きいにスマホを渡して俺は寝転ぶ。ちょっとダッシュで作ったから結構疲れた。それでも寝れない。ググッと腰や肩を伸ばして、俺は座る。今回の曲はピアノ曲だから、何時間くらいで上げてくるかな?


「きい、勉強教えてやる。」

「やったー!」


少し時間を潰しておこう。


 7時になった頃。俺のスマホが震えた。桜からだ。


『明日以降になりそう』


そのあとに『ごめん』と書かれたスタンプが送られてくる。


「いいよ、いい曲にしろよ」


そう返して、俺は教えるのを再開した。


 次の日の放課後。また集まった俺たちは、桜が作った音源を聴く。見事に俺の要望通りに作られた曲だった。


「桜、スゲェな。」

「もっと褒めて!」

「桜以外と曲作るのなんか考えられない。」

「ありがとー!」


ちなみにきいは倒れていた。頑張れ、きい。

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