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第26話 言葉③

 はぁ、随分いい夢を見たな。


「奏、奏!」


3年間聞きなれた声。あぁもうすぐ、4年間か。


「奏、起きてるんでしょ?」

「そうと言ったら?」

「起きて!」


ゲシゲシと腰を蹴られる。コイツも元々水泳をしていたからな。なかなか強いんだわ。


「痛えって。おはよう、楓。」

「おはよう、奏。」


笑顔でそう言ってくる。この笑顔はおそらく「漫画貸して」か「暇やからどっか遊びに行かん?」だろうな。漫画はこの前貸したばっかりだから、答えはおそらく後者か。


「ちょっと待っとけ。準備してくる。」

「ブブ〜!正解は、暇だけど寒いから家でゴロゴロしてたいでした!」

「やっばり変な答えじゃねぇか。」

「彼女のお願いを変ってどゆこと?」

「最近は2回に1回は当たるようになってきたけどよ、めっちゃ難しいぞこれ。なんなら楓もやってみるか?今俺が思ってることは?」


うーんと楓は少し考える。今俺が思ってることかー。どんなことして楽しませようかなとかかな。


「どんなことして楽しませよう?とか?」


えっ、コイツ、エスパーなの?なんでほぼ一言一句間違わずに答えんねん。


「それで、正解は?」

「正解。どんなことして楽しませようかな〜って。」

「意外と簡単やん。」


ふふんと胸を叩いて自慢げな様子。楽しそうで何よりだ。あっ、そうだ。そろそろ起きないとな。楓との時間も無くなるし。


 体を起こしてリビングまで手を繋いで歩く。繋ぎ慣れたというのはおかしいが、幾度となく繋いだ手はいつまで経っても変わらない感触。いつも通り一緒に朝食を食べて、片付けする。時々手が当たったりするが、もうそんなことでオドオドすることはない。4年も一緒にいるからな。


「フフッ。奏って最初は朝、ベッドに忍び込んだ私にビクビクしてたのにね。」

「こんなことを慣れたくはなかったな。」

「そんなのいずれ一緒に寝るんだから言ってられへんで。」


楓は少し顔を赤らめながらニヒヒと笑う。俺の体温も少し高くなった気がする。


「そういや、朝来るのは久しぶりだな。」

「なんとなく来たくなってね。」

「なんとなく?」

「そう、なんとなく。」


〇〇〇〇〇


 夢で、昔いっぱい遊びに来てたのを思い出して、あの頃のようにやってみたけど、色々覚えた私には少しハードルが高かったかな。


 朝食の片付けを終えた私たちはテレビの前のソファに腰掛ける。奏が足を広げて座ったので、私がそこに座る形で。


 溜まっているアニメを見る。まあ、いつも通りの光景だ。オープニングが終わったとき、後ろから締め付けられる感触があった。腰には奏の手。


「どうしたの?」

「特別な人には特別なことをしないとな。」

「誰のセリフのパクリよ。」

「さぁて、誰のだっけな。」


なんでこういう時だけ全問正解なのよ。

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