うちの学校では、3学期期末は日曜日を挟む。これがありがたいんだか、ありがたくないんだか。
そして、杏の行っている中学校も、3学期期末は日曜日を挟む。これもありがたいんだか、ありがたくないんだか。
故に、今、俺の隣にいるのは杏だ。
「バカ兄、ここ教えて。」
「別にいいけどよ、範囲違うからこっちの勉強もやりたいんだよな。」
「復習はやればやるほど伸びる。やんな?」
「やな。しょうがない。可愛い妹の頼みだ。」
「兄さん、キモイ。」
「うっ、、、」
ねぇ、この子、こういう時だけ兄さん呼びするのやめてくれないかしら。悪い気はしてないんやけど。
杏の出す、絶対零度の吐息にぶつかる、俺の火の息。って厨二病発言は今は置いといて、
「それで、どこなんだ?」
「ここなんだけど…」
杏が見せてきたのは、数学の発展問題。数学が苦手な俺にとっちゃ、結構難しい問題だ。
「ええと、ちょっと待っとけ。」
久しぶりに頼られたのが嬉しかったからか、少し頑張ってみようとペンを持った。そんなことも束の間。
―ピポパピポパピポパパパパン…
俺のスマホが揺れる。表示されているのは奏だった。
『頼む!家庭教えてくれ!』
「あぁ、ちょっと後ならいいけどよ。」
『ん?何か用事か?』
「いや、実はな―」
奏に、杏が詰まっていることを相談する。すると、返ってきたのは意外な答えだった。
『テレビ電話にしてくれ。』
「お、おう。」
そう言われて、テレビ電話に変える。杏が見えるように向きを変えた。
『杏ちゃん、おっひさ〜!』
「どうもです。加太さん。」
若干の温度差が心地よい。
『それで、どの問題だっけ。』
「これなんですが…」
杏はインカメからカメラに変えて、問題を映す。俺がスマホを持ってやることになった。
『それなら、同じようなやつ見たことあるわ。楓、ちょっと持ってて。』
『いいけど、後でアイスね。』
『はいよ。』
向こうは向こうで仲良さそう。今日も、2人で勉強か。
『それで、解き方なんだが―』
10分ほどかけて丁寧に説明する。だからといって先に答えを示さず、あくまで理解出来ているか確認しながら。はっきり言って、分かりやすすぎる。
『―てな感じなんだけど、理解出来た?』
「はい!バカ兄の100倍ほど分かりやすいです。」
「おい、杏!」
『ハハッ!それなら良かった。またなんかあったら訊いてくれ!Qを通してでもいいし、直接でも。』
「ありがとうございます!」
『ほなな!』
そう言って、奏は電話を切った。再び、沈黙が訪れる。その静寂を切り裂いたのは、杏だった。
「バカ兄って、春休みどうするの?」
「どうするも何も…」
分かってる。去年は完全に放浪してたからな。その間、杏には寂しい思いをさせたわけだし。
「今年は家におるわ。」
「なら、みんなで楽しめそうだね。」
その顔は、少し悲しそうだった。