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第42話 期末④

 うちの学校では、3学期期末は日曜日を挟む。これがありがたいんだか、ありがたくないんだか。


 そして、杏の行っている中学校も、3学期期末は日曜日を挟む。これもありがたいんだか、ありがたくないんだか。


 故に、今、俺の隣にいるのは杏だ。


「バカ兄、ここ教えて。」

「別にいいけどよ、範囲違うからこっちの勉強もやりたいんだよな。」

「復習はやればやるほど伸びる。やんな?」

「やな。しょうがない。可愛い妹の頼みだ。」

「兄さん、キモイ。」

「うっ、、、」


ねぇ、この子、こういう時だけ兄さん呼びするのやめてくれないかしら。悪い気はしてないんやけど。


 杏の出す、絶対零度の吐息にぶつかる、俺の火の息。って厨二病発言は今は置いといて、


「それで、どこなんだ?」

「ここなんだけど…」


杏が見せてきたのは、数学の発展問題。数学が苦手な俺にとっちゃ、結構難しい問題だ。


「ええと、ちょっと待っとけ。」


久しぶりに頼られたのが嬉しかったからか、少し頑張ってみようとペンを持った。そんなことも束の間。


―ピポパピポパピポパパパパン…


俺のスマホが揺れる。表示されているのは奏だった。


『頼む!家庭教えてくれ!』

「あぁ、ちょっと後ならいいけどよ。」

『ん?何か用事か?』

「いや、実はな―」


奏に、杏が詰まっていることを相談する。すると、返ってきたのは意外な答えだった。


『テレビ電話にしてくれ。』

「お、おう。」


そう言われて、テレビ電話に変える。杏が見えるように向きを変えた。


『杏ちゃん、おっひさ〜!』

「どうもです。加太さん。」


若干の温度差が心地よい。


『それで、どの問題だっけ。』

「これなんですが…」


杏はインカメからカメラに変えて、問題を映す。俺がスマホを持ってやることになった。


『それなら、同じようなやつ見たことあるわ。楓、ちょっと持ってて。』

『いいけど、後でアイスね。』

『はいよ。』


向こうは向こうで仲良さそう。今日も、2人で勉強か。


『それで、解き方なんだが―』


 10分ほどかけて丁寧に説明する。だからといって先に答えを示さず、あくまで理解出来ているか確認しながら。はっきり言って、分かりやすすぎる。


『―てな感じなんだけど、理解出来た?』

「はい!バカ兄の100倍ほど分かりやすいです。」

「おい、杏!」

『ハハッ!それなら良かった。またなんかあったら訊いてくれ!Qを通してでもいいし、直接でも。』

「ありがとうございます!」

『ほなな!』


そう言って、奏は電話を切った。再び、沈黙が訪れる。その静寂を切り裂いたのは、杏だった。


「バカ兄って、春休みどうするの?」

「どうするも何も…」


分かってる。去年は完全に放浪してたからな。その間、杏には寂しい思いをさせたわけだし。


「今年は家におるわ。」

「なら、みんなで楽しめそうだね。」


その顔は、少し悲しそうだった。


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