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第29話:渡りに船ですわ!

「みなさん、本日の任務もお疲れ様でした」

「「「お疲れ様でした!」」」

「ニャッポリート」

「ではこれにて解散といたしますわ。各自、気を付けてお帰りくださいませ」

「「「はい!」」」

「ニャッポリート」


 ウム、良い返事ですわ。

 今日の任務も、特にこれといった問題もなく終えられて、何よりですわ。

 グスタフさんは例によって、「これから飲みに行くやつ手ぇ上げてー!」と、飲み仲間を集っています。

 本当に飲み会がお好きなのですわね。

 さて、と。

 わたくしはラース先生とレベッカさんに、おもむろに声を掛けます。


「ラース先生、レベッカさん、少しだけお時間よろしいでしょうか?」

「は、はい!」

「何でしょうかヴィクトリア隊長!? ヴィクトリア隊長の右腕であるこの私に、いったいどんな御用がッ!?」


 相変わらずレベッカさんは圧が強いですわね……。


「来月辺り、みなさん纏まった休みが取れそうですし、満を持して――トウエイ地方に、『ドッペルフォックス』を狩りに行こうと思うのですが、いかがでしょうか?」

「「――!」」


 最近はラース先生も【天使ノ衣エンゲル・クライドゥング】の使い方に大分慣れてきたようですし、そろそろ良い頃合いですわ。

 ラース先生の槍の素材である、『ドッペルフォックスの爪』をゲットしに参りましょう――。


「い、いいんですか!? そ、それって、ヴィクトリア隊長と一緒に旅行するってことですよね!?」

「あ、はい。そうなりますが」


 ラース先生は少年のように、目をキラキラさせております。

 ウフフ、そんなに旅行が楽しみなのですわね?

 相変わらず、ラース先生はお可愛いですわぁ。


「ウボァー!!!! お泊まりイベントキタアアアアアアア!!!!」

「レベッカさん!?!?」


 レベッカさんが噴水のように、鼻血を吹き出しました。

 今のどこに、鼻血を出す要素が????


「えー、トウエイ地方羨ましいにゃあ。ボクも行ってみたいにゃあ」


 レベッカさんの隣に立っているボニャルくんが、猫耳をぴょこぴょこさせながらそう言います。

 ウフフ。


「ではボニャルくんも一緒に参りますか? ただし、今回の獲物は伝説の魔獣ですわ。相当危険な旅になる可能性が高いですが、それでもよろしいですか?」

「はいにゃ! ボクだって王立騎士団第三部隊の一員だにゃ! お役に立って見せますにゃ!」


 ボニャルくんは敬礼しながら、尻尾をピンと立てます。

 ウム、良い返事ですわ。

 確かに第三部隊に入ってからのボニャルくんは、医療班として八面六臂の活躍を見せておりますわ。

 しかもボニャルくんは回復魔法だけでなく、各種補助魔法の扱いにも長けておりますので、きっと今回の旅でも、わたくしたちを適切にサポートしてくださることでしょう。


「よろしい。ではボニャルくんも旅のメンバーですわね」

「やったにゃあ! 楽しみだにゃあ!」

「よかったね、ボニャルくん!」


 ボニャルくんとレベッカさんがキャッキャウフフしています。

 てぇてぇですわぁ。


「ニャッポリート」


 ニャッポがわたくしの頬をペロリと舐めます。


「ええ、もちろんニャッポも一緒ですわよ」

「ニャッポリート」

「ではこの五人で、ドッペルフォックス狩りの旅に、参りますわ!」


 わたくしは右の拳を天高く掲げます。


「「「オー!」」」

「ニャッポリート」


 みなさんとニャッポも、わたくし同様右の拳と右の前足を掲げました。

 さあて、腕が鳴りますわね――。




 ――そして迎えた旅行当日。


「フム、文字通り雲行きが怪しいですわね……」

「そうですね……」

「ニャッポリート」


 トウエイ地方行きの飛空艇乗り場に集合したわたくしたちですが、生憎天気は荒れ模様で、強風も吹き荒れておりますわ。

 このままでは、最悪飛空艇は飛ばないかもしれませんわね。

 困りましたわね……。

 せっかくの旅行初日が、このままでは無駄になってしまいますわ。

 ただでさえドッペルフォックスがどこに生息しているか、現地で調査するところから始めなければいけないというのに。


「オオ! これはこれは【武神令嬢ヴァルキュリア】。こんなところで奇遇でござるな」

「「「――!」」」


 その時でした。

 よく通る男性の声が、わたくしたちの鼓膜を震わせました。


「アラ、ジュウベエ隊長!」


 そこにいたのは、王立騎士団第四部隊の隊長である、ジュウベエ・ヤギリ隊長でした。

 いつものように、腰まであるサラサラの長い黒髪を、後頭部でポニーテールのように縛っています。


「何故ジュウベエ隊長がここに?」

「拙者は久しぶりに、トウエイに里帰りするところでござる」

「ああ、なるほど」


 ジュウベエ隊長はトウエイ出身ですものね。

 ジュウベエ隊長が普段から着ている、着物と呼ばれる薄手の生地の服も、トウエイの民族衣装ですし。

 左の腰に差している、刀という片刃の剣も、トウエイ産ですわ。


「でも、コタ副隊長のお姿が見えないようですが」


 ジュウベエ隊長と、第四部隊の副隊長であるコタ・フウマ副隊長は、同じトウエイ出身ということもあり、常に二人セットで行動している印象があるのですが。


「もちろんコタも一緒でござるよ。ホラ、コタならそこに」

「ニンニン、私はここです、ニンニン」

「「「――!?」」」


 なっ!?

 わたくしの背後から、ハスキーボイスの女性の声がしました。

 慌てて振り返ると、そこにはコタ副隊長が、腕を組んで立っていたのです。

 こ、このわたくしが、まったく気配に気付けなかったとは……。

 相変わらずコタ副隊長の気配を消す技術は、天下一品ですわね。

 コタ副隊長は、トウエイではしのびと呼ばれるスパイのような存在だったらしく、常に忍装束という真っ黒な服で、目の部分以外を全身覆っているので、誰も素顔を見たことはないそうですわ。

 目立たないためにこんな格好をしているのでしょうが、我が国では忍装束は珍しいうえ、コタ副隊長は大層ご立派なお胸をお持ちで、胸元がはち切れんばかりにばるんばるんしておりますので、むしろ却って目立ちます。

 この格好でスパイ活動は無理では?


「ニンニン、殿、お酒を買ってまいりました、ニンニン」

「オオ! かたじけないでござる!」


 ジュウベエ隊長はコタ副隊長から嬉々として酒瓶を受け取ると、その場でラッパ飲みしました。

 ジュウベエ隊長はお酒が大好きですからね……。


「かぁ~、美味いでござる! やっぱ旅には、酒は欠かせないでござるなぁ」


 ジュウベエ隊長は、任務中も飲酒してるらしいですけどね。

 それでも仕事はキッチリこなされてるので、半ば黙認されてますが。


「ああ、そういえば、【武神令嬢ヴァルキュリア】はなぜここに?」

「その名で呼ぶのはやめてくださいまし。わたくしの名前はヴィクトリアですわ」

「まあまあそう謙遜せずとも。武人にとって【武神令嬢ヴァルキュリア】という二つ名は、この上ない誉れではござらんか」


 わたくしは武人ではなく、淑女なのですが……。

 まあ、ここで押し問答するのも詮無き事ですし、今回はスルーいたしましょう。


「わたくしたちも、ちょうどトウエイに旅行するところだったのですわ。ドッペルフォックスという伝説の魔獣を狩るのが目的なのですが」

「ドッペルフォックス!? オオ、『九尾の狐』のことでござるな!」

「九尾の狐? トウエイではそういう名前で呼ばれているのですか?」

「左様。大変凶悪な魔獣で、その姿を見た者は最後、必ずや死んでしまうと言い伝えられているでござる」


 なるほど、以前レベッカさんから聞いたお話と同じですわね。

 これは、改めて気を引き締めてまいりませんとね。


「くううぅぅ、いいでござるな九尾の狐ッ! 拙者も一度斬ってみたかったんでござるッ!」


 ジュウベエ隊長は刀を握ってうずうずされています。

 この方も大概狂戦士バーサーカーですからね……。

 【刀神タケミカヅチ】の二つ名を持つだけありますわ。

 つくづく王立騎士団の隊長は、わたくし以外は変人だらけですわね。


「決めたでござる! 拙者とコタも九尾の狐狩りに、ご一緒するでござるよ!」

「ニンニン」

「「「――!」」」


 な、何と!


「それは渡りに船ですわ。ジュウベエ隊長とコタ副隊長が手助けしてくだされば、狩りはグッと楽になるでしょうし」


 地元民のお二人がガイドしてくだされば、道にも迷いませんしね!


「アッハッハ! お任せあれ! 必ずや、お役に立ってみせるでござる!」

「ニンニン」

「みなさんもそれでよろしいですか?」

「あ……はい」

「ま、まあ、ヴィクトリア隊長がそう仰るなら……」

「もちろんだにゃ!」

「ニャッポリート」


 おや?

 ラース先生とレベッカさんは、若干不服そうですわね?

 意外と人見知りなのでしょうか?


「えー、トウエイ地方行きの便をお待ちのお客様にご連絡します。大変恐縮ではございますが、本日は強風のため、欠航とさせていただきます」

「「「――!」」」


 その時でした。

 何とも無残なアナウンスが……。

 まあ、致し方ないですわね。


「どういたしましょう、ジュウベエ隊長? 本日は一度解散して、また明日改めて集合いたしましょうか?」

「う~ん、残念だが、それしかないでござるなぁ」

「ニャッポリート」

「ん? ニャッポ?」


 ニャッポがパタパタと羽を羽ばたかせて、東のほうに飛んで行ってしまいました。

 ど、どうしたというのですか、ニャッポ!?


「お待ちになってくださいまし、ニャッポ!」

「ニャッポ様ぁ! 待ってくださいにゃあ!」


 わたくしたちはみんなで、ニャッポの後を追いました。




「ニャッポリート」


 暫く走ると、ニャッポは人気のない、開けた場所にふわりと下りました。


「急にどうしたのですかニャッポ? ここに何かあるのですか?」

「ニャッポリート」

「「「――!?」」」


 その時でした。

 おもむろにニャッポの全身が輝き出し、目を開けていられないほどの光を放ち出しました。

 こ、これは――!?


「え!? あ、あなた、ニャッポですか???」

「ニャッボリート」


 光が収まった目の前の光景を見て、わたくしは絶句しました。

 ――そこには一般家庭の家屋ぐらいの大きさにまで巨大化した、ニャッポが鎮座していたのですわ。

 えーーー!?!?!?

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