「みなさん、本日の任務もお疲れ様でした」
「「「お疲れ様でした!」」」
「ニャッポリート」
「ではこれにて解散といたしますわ。各自、気を付けてお帰りくださいませ」
「「「はい!」」」
「ニャッポリート」
ウム、良い返事ですわ。
今日の任務も、特にこれといった問題もなく終えられて、何よりですわ。
グスタフさんは例によって、「これから飲みに行くやつ手ぇ上げてー!」と、飲み仲間を集っています。
本当に飲み会がお好きなのですわね。
さて、と。
わたくしはラース先生とレベッカさんに、おもむろに声を掛けます。
「ラース先生、レベッカさん、少しだけお時間よろしいでしょうか?」
「は、はい!」
「何でしょうかヴィクトリア隊長!? ヴィクトリア隊長の右腕であるこの私に、いったいどんな御用がッ!?」
相変わらずレベッカさんは圧が強いですわね……。
「来月辺り、みなさん纏まった休みが取れそうですし、満を持して――トウエイ地方に、『ドッペルフォックス』を狩りに行こうと思うのですが、いかがでしょうか?」
「「――!」」
最近はラース先生も【
ラース先生の槍の素材である、『ドッペルフォックスの爪』をゲットしに参りましょう――。
「い、いいんですか!? そ、それって、ヴィクトリア隊長と一緒に旅行するってことですよね!?」
「あ、はい。そうなりますが」
ラース先生は少年のように、目をキラキラさせております。
ウフフ、そんなに旅行が楽しみなのですわね?
相変わらず、ラース先生はお可愛いですわぁ。
「ウボァー!!!! お泊まりイベントキタアアアアアアア!!!!」
「レベッカさん!?!?」
レベッカさんが噴水のように、鼻血を吹き出しました。
今のどこに、鼻血を出す要素が????
「えー、トウエイ地方羨ましいにゃあ。ボクも行ってみたいにゃあ」
レベッカさんの隣に立っているボニャルくんが、猫耳をぴょこぴょこさせながらそう言います。
ウフフ。
「ではボニャルくんも一緒に参りますか? ただし、今回の獲物は伝説の魔獣ですわ。相当危険な旅になる可能性が高いですが、それでもよろしいですか?」
「はいにゃ! ボクだって王立騎士団第三部隊の一員だにゃ! お役に立って見せますにゃ!」
ボニャルくんは敬礼しながら、尻尾をピンと立てます。
ウム、良い返事ですわ。
確かに第三部隊に入ってからのボニャルくんは、医療班として八面六臂の活躍を見せておりますわ。
しかもボニャルくんは回復魔法だけでなく、各種補助魔法の扱いにも長けておりますので、きっと今回の旅でも、わたくしたちを適切にサポートしてくださることでしょう。
「よろしい。ではボニャルくんも旅のメンバーですわね」
「やったにゃあ! 楽しみだにゃあ!」
「よかったね、ボニャルくん!」
ボニャルくんとレベッカさんがキャッキャウフフしています。
てぇてぇですわぁ。
「ニャッポリート」
ニャッポがわたくしの頬をペロリと舐めます。
「ええ、もちろんニャッポも一緒ですわよ」
「ニャッポリート」
「ではこの五人で、ドッペルフォックス狩りの旅に、参りますわ!」
わたくしは右の拳を天高く掲げます。
「「「オー!」」」
「ニャッポリート」
みなさんとニャッポも、わたくし同様右の拳と右の前足を掲げました。
さあて、腕が鳴りますわね――。
――そして迎えた旅行当日。
「フム、文字通り雲行きが怪しいですわね……」
「そうですね……」
「ニャッポリート」
トウエイ地方行きの飛空艇乗り場に集合したわたくしたちですが、生憎天気は荒れ模様で、強風も吹き荒れておりますわ。
このままでは、最悪飛空艇は飛ばないかもしれませんわね。
困りましたわね……。
せっかくの旅行初日が、このままでは無駄になってしまいますわ。
ただでさえドッペルフォックスがどこに生息しているか、現地で調査するところから始めなければいけないというのに。
「オオ! これはこれは【
「「「――!」」」
その時でした。
よく通る男性の声が、わたくしたちの鼓膜を震わせました。
「アラ、ジュウベエ隊長!」
そこにいたのは、王立騎士団第四部隊の隊長である、ジュウベエ・ヤギリ隊長でした。
いつものように、腰まであるサラサラの長い黒髪を、後頭部でポニーテールのように縛っています。
「何故ジュウベエ隊長がここに?」
「拙者は久しぶりに、トウエイに里帰りするところでござる」
「ああ、なるほど」
ジュウベエ隊長はトウエイ出身ですものね。
ジュウベエ隊長が普段から着ている、着物と呼ばれる薄手の生地の服も、トウエイの民族衣装ですし。
左の腰に差している、刀という片刃の剣も、トウエイ産ですわ。
「でも、コタ副隊長のお姿が見えないようですが」
ジュウベエ隊長と、第四部隊の副隊長であるコタ・フウマ副隊長は、同じトウエイ出身ということもあり、常に二人セットで行動している印象があるのですが。
「もちろんコタも一緒でござるよ。ホラ、コタならそこに」
「ニンニン、私はここです、ニンニン」
「「「――!?」」」
なっ!?
わたくしの背後から、ハスキーボイスの女性の声がしました。
慌てて振り返ると、そこにはコタ副隊長が、腕を組んで立っていたのです。
こ、このわたくしが、まったく気配に気付けなかったとは……。
相変わらずコタ副隊長の気配を消す技術は、天下一品ですわね。
コタ副隊長は、トウエイでは
目立たないためにこんな格好をしているのでしょうが、我が国では忍装束は珍しいうえ、コタ副隊長は大層ご立派なお胸をお持ちで、胸元がはち切れんばかりにばるんばるんしておりますので、むしろ却って目立ちます。
この格好でスパイ活動は無理では?
「ニンニン、殿、お酒を買ってまいりました、ニンニン」
「オオ! かたじけないでござる!」
ジュウベエ隊長はコタ副隊長から嬉々として酒瓶を受け取ると、その場でラッパ飲みしました。
ジュウベエ隊長はお酒が大好きですからね……。
「かぁ~、美味いでござる! やっぱ旅には、酒は欠かせないでござるなぁ」
ジュウベエ隊長は、任務中も飲酒してるらしいですけどね。
それでも仕事はキッチリこなされてるので、半ば黙認されてますが。
「ああ、そういえば、【
「その名で呼ぶのはやめてくださいまし。わたくしの名前はヴィクトリアですわ」
「まあまあそう謙遜せずとも。武人にとって【
わたくしは武人ではなく、淑女なのですが……。
まあ、ここで押し問答するのも詮無き事ですし、今回はスルーいたしましょう。
「わたくしたちも、ちょうどトウエイに旅行するところだったのですわ。ドッペルフォックスという伝説の魔獣を狩るのが目的なのですが」
「ドッペルフォックス!? オオ、『九尾の狐』のことでござるな!」
「九尾の狐? トウエイではそういう名前で呼ばれているのですか?」
「左様。大変凶悪な魔獣で、その姿を見た者は最後、必ずや死んでしまうと言い伝えられているでござる」
なるほど、以前レベッカさんから聞いたお話と同じですわね。
これは、改めて気を引き締めてまいりませんとね。
「くううぅぅ、いいでござるな九尾の狐ッ! 拙者も一度斬ってみたかったんでござるッ!」
ジュウベエ隊長は刀を握ってうずうずされています。
この方も大概
【
つくづく王立騎士団の隊長は、わたくし以外は変人だらけですわね。
「決めたでござる! 拙者とコタも九尾の狐狩りに、ご一緒するでござるよ!」
「ニンニン」
「「「――!」」」
な、何と!
「それは渡りに船ですわ。ジュウベエ隊長とコタ副隊長が手助けしてくだされば、狩りはグッと楽になるでしょうし」
地元民のお二人がガイドしてくだされば、道にも迷いませんしね!
「アッハッハ! お任せあれ! 必ずや、お役に立ってみせるでござる!」
「ニンニン」
「みなさんもそれでよろしいですか?」
「あ……はい」
「ま、まあ、ヴィクトリア隊長がそう仰るなら……」
「もちろんだにゃ!」
「ニャッポリート」
おや?
ラース先生とレベッカさんは、若干不服そうですわね?
意外と人見知りなのでしょうか?
「えー、トウエイ地方行きの便をお待ちのお客様にご連絡します。大変恐縮ではございますが、本日は強風のため、欠航とさせていただきます」
「「「――!」」」
その時でした。
何とも無残なアナウンスが……。
まあ、致し方ないですわね。
「どういたしましょう、ジュウベエ隊長? 本日は一度解散して、また明日改めて集合いたしましょうか?」
「う~ん、残念だが、それしかないでござるなぁ」
「ニャッポリート」
「ん? ニャッポ?」
ニャッポがパタパタと羽を羽ばたかせて、東のほうに飛んで行ってしまいました。
ど、どうしたというのですか、ニャッポ!?
「お待ちになってくださいまし、ニャッポ!」
「ニャッポ様ぁ! 待ってくださいにゃあ!」
わたくしたちはみんなで、ニャッポの後を追いました。
「ニャッポリート」
暫く走ると、ニャッポは人気のない、開けた場所にふわりと下りました。
「急にどうしたのですかニャッポ? ここに何かあるのですか?」
「ニャッポリート」
「「「――!?」」」
その時でした。
おもむろにニャッポの全身が輝き出し、目を開けていられないほどの光を放ち出しました。
こ、これは――!?
「え!? あ、あなた、ニャッポですか???」
「ニャッボリート」
光が収まった目の前の光景を見て、わたくしは絶句しました。
――そこには一般家庭の家屋ぐらいの大きさにまで巨大化した、ニャッポが鎮座していたのですわ。
えーーー!?!?!?