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21.国王陛下一家との昼食会

 国王陛下は思ったより感情豊かでリベリオのこともアウローラのこともレーナのことも歓迎してくれているようだった。

 国王陛下と王妃殿下とアルマンドとビアンカとジェレミアと昼食を取る。


「おうじたまのおとなりがいーの!」

「アウローラはアルマンドを気に入っているのか。そうかそうか。微笑ましいことだ。アルマンド、アウローラの横に座ってあげなさい」

「はい、お父様」


 アルマンドと一緒に座りたいアウローラが我が儘を言っても、国王陛下はにこにことして受け入れている。

 アウローラは憧れの王子様の横に座ることができてものすごく嬉しそうである。

 リベリオはエドアルドの隣りに座って、レーナはジャンルカの隣りに座って、アウローラとアルマンドが隣りに座って、正面に国王陛下と王妃殿下、ビアンカとジェレミアが座った。

 料理が運ばれてくる。肉団子の入ったスープにサラダ、それにうずらのパイ包み、魚のソテーが順番にリベリオたちの前に並ぶ。一皿ずつ食べなければいけないようだが、アウローラは一人では食べられずにレーナが手伝っている。


「おにいさま、アウローラさまはかわいいですね。わたし、いもうとがほしくなりました」

「アウローラはぼくのことを気に入ってくれているからね。特にかわいいよ」


 ジェレミアもアウローラに視線を向けて、気にしている様子である。


「『様付け』などなさらずに、アウローラと呼んでやってください」

「いいのですか?」

「義理の従兄弟になるのですから、親しくしてくださったら嬉しいです」


 レーナの申し出にジェレミアが「アウローラ」と呟いて天井を仰いでいる。どうやらジェレミアは父親の国王陛下と似ているようだ。

 食事が終わると皿が片付けられてデザートと紅茶が出て来る。デザートは葡萄のタルトと牛乳のアイスクリームだった。

 魔法を使って冷やしてあるアイスクリームは暑くなりかけている今の季節にぴったりでとても美味しい。

 味わって食べていると、エドアルドがリベリオの頬に触れた。


「パイの欠片が……」


 鶉のパイ包みの欠片が頬についていたようだ。恥ずかしく口元をナプキンで拭ったリベリオは、エドアルドにお礼を言う。


「ありがとう、エドアルドお義兄様」


 それを見て国王陛下が満面の笑みを見せる。


「エドアルドはすっかりとリベリオと仲良くなったようだな。リベリオ、エドアルドは分かりにくいかもしれないが、優しい心を持った少年なのだ。どうか、ずっと仲良くしてあげてほしい」

「始めのころは分かりませんでしたが、今はエドアルドお義兄様の優しさがよく分かるのです。わたしの方こそ、エドアルドお義兄様に仲良くしてほしいくらいです」

「それはよかった。エドアルド、かわいい弟ができて本当によかったな」

「はい、伯父上」


 短く答えるエドアルドの表情はいつものように凍てついていたが、その心は温かく優しいことをリベリオはもう知っていた。


 国王一家と昼食を終えてから、リベリオたちは王都のタウンハウスに行った。高位の貴族たちは王都で過ごすためにタウンハウスを持っている。タウンハウスは第二のお屋敷のようなもので、アマティ公爵家のものは非常に豪華で建物も広い。

 数日王都に滞在できると聞いて、リベリオは王都を見て回れるのではないかとわくわくしていた。


「お義父様、せっかく王都に来たのですから、王都の町に出たいです」

「リベリオは王都に来るのは初めてか。王都の町を見て回れるように手配しよう」


 リベリオのお願いにジャンルカは快く答えてくれる。

 病で臥せっていたのでずっとお屋敷の中にいて、外を出歩いたことがないリベリオは、王都の町を見て回れることを喜んでいた。


「エドアルドお義兄様も一緒に来てくれる?」

「すき……」

「え!?」


 そのときエドアルドの口からぽつりと漏れた言葉にリベリオは反応する。

 エドアルドは「隙」と言っていなかっただろうか。


「わたしが王都の町に出ることで何かが起こるの!? 隙を見せてはいけないってこと!?」

「エドアルド、そうなのか?」

「すき……」

「そうなのか! 町に出るときには護衛の数を増やそう。こんなに楽しみにしているリベリオを町に出さないなんてひどいことはできない」


 護衛の数を増やして警護を万全にしてくれるというジャンルカだがエドアルドが先見の目で何か見たのだったらリベリオかアウローラかエドアルドに危険が迫っているのかもしれない。


「お義父様、危険があるのでしたらわたしは町に出なくても……」

「そうやってリベリオはずっと我慢してきたのだろう。ベッドから起きられなくて外に出たこともないリベリオに王都の町を見せてやりたいのだ。目立たないように地味な馬車で行って、服装も地味なものにしよう」


 手配してくれるジャンルカにありがたさは感じたが、それ以上に申し訳なさを感じてリベリオが俯くと、エドアルドがリベリオの肩を抱く。大きな手が肩の上に乗ってリベリオはエドアルドの顔を見上げた。


「リベリオは守る」

「エドアルドお義兄様……」


 リベリオのために危険を予見してくれた上に、エドアルドはリベリオを守るとまで言ってくれている。温かなエドアルドの手に肩を抱かれていると少しずつ落ち着いてくる。


「あーたんも、おでかけちたい!」

「みんなで行こうね」

「ママとパパも?」

「わたくしも行きますわ」

「わたしも行くよ」


 家族全員でのお出かけは楽しいものになりそうな予感はしていたが、エドアルドが言った「隙」という単語にリベリオはどうしても警戒せずにはいられなかった。


 王都のタウンハウスに来て二日目に、リベリオたちは馬車に乗って王都の町に出た。

 馬車は非常に地味なものでアマティ公爵家の紋章が入っているようなものは避けたし、リベリオたちの格好も庶民寄りのものになっている。

 ブレロ子爵家で暮らしていたころも、レーナの実家で暮らしていたころも、リベリオの治療費にお金がかかって贅沢はできなかったので、リベリオは庶民と変わらない服装で過ごしていた。質のいい服が着られるようになったのも、アマティ公爵家に来てからだった。

 アマティ公爵家のリベリオの部屋のクローゼットには質のいい服が大量に揃っていたし、タキシードやスーツも準備されていた。

 アウローラもアマティ公爵家に来てからきれいなドレスを着て、かわいいワンピースを着られるようになったのだ。


 庶民のような服にもリベリオとアウローラとレーナは慣れていたが、ジャンルカとエドアルドは慣れない様子だった。ジャンルカとエドアルドは髪の色を魔法で変えている。こんなに真っ黒な髪は王族にしか出ないので、危険を避けるために髪が焦げ茶に見えるように魔法をかけていた。


「ここのチェリーパイが有名なんだ」

「おいちとう……」

「あっちの店のバタークリームのケーキも有名でね」

「たべたい」


 馬車から降りたジャンルカのそばには護衛が控えているが、ジャンルカと手を繋ぐアウローラは美味しそうな情報に口の端からたらりとよだれを垂らしていた。よだれは素早くレーナによって拭き取られる。


「リベリオは見たい店があるのかな?」

「わたしは……文房具や雑貨が売っている店があれば見たいです」


 ジャンルカがリベリオに聞いてくれたので要望を言えば、ジャンルカが店に連れて行ってくれる。

 ショーウィンドウの中にガラスの天使のペーパーウエイトを飾ってあるその店は入ってみると、お洒落な文房具や雑貨が揃っていた。

 リベリオが万年筆を見せてもらっていると、アウローラは店の隅の木のおもちゃを見ている。どんぐりがかわいい音を立てながら上から転がっていくおもちゃは、アウローラの心を掴んだようで何度もアウローラの拳大のどんぐりを転がしては遊んでいる。


「リベリオ、気に入った?」

「エドアルドお義兄様……でも、これは高いし、もう少し大きくなってからにするよ」

「お父様、リベリオが」

「リベリオ、欲しいものは遠慮しなくていいんだよ。高いかもしれないが、それだけ長く大事に使えば、安いものを何度も買うよりもずっといい」


 ジャンルカにそう言ってもらって、リベリオは夜空のような軸の万年筆をジャンルカに差し出した。ジャンルカはアウローラの気に入っている木のおもちゃとその万年筆を買い、万年筆のインクまで買ってくれた。


「このインクには魔法がかかっていて、どれだけ書いてもなくならないよ」


 初めて持つ自分の万年筆をリベリオは胸に抱きしめた。

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