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4.二人での昼食

 朝食の席でジャンルカがエドアルドに婚約の話をしてきた。


(えぇー!? 婚約!? 無理無理無理無理! 絶対無理! ぼく、ご令嬢とお付き合いなんてできないし、ご令嬢と婚約したら、かわいいリベたんとアウたんとだーたんとの時間が減るんでしょ? そんなの無理ー! 父上に似たぼくの大きな体を見てもらえます? こんなのが側にいたらご令嬢も怖いでしょ? 怖がられるなんて傷付くし絶対いや!)


 その思いを込めて「いいえ」と返事をすると、リベリオが妙なことを言って来る。

 エドアルドが先見の目で将来結婚する相手が分かっているので今は婚約をするときではないと思っているのだとか。


(リベたん! お兄ちゃん、先見の目なんて持ってないっていつも言ってるでしょう!? 将来結婚する相手なんて見えてないからね!? 将来こうしたいっていうヴィジョンならあるけど! リベたんとアウたんとだーたんと、アマティ公爵家でみんな仲良く暮らすんだよ!)


 リベリオの勘違いを信じてしまったジャンルカはそれ以上婚約の話はしてこなかったが、次はアウローラが自分はアルマンドと結婚すると言い出す。


(やっぱりアウたんはアルマンドが好きなんだね!? アウたんは嫁にはやらーん! って言いたいところだけど、アウたんに反対してアウたんが泣いちゃったら、お兄ちゃん、立ち直れない。アウたんがお嫁に行っちゃうのは寂しいけど、仕方がないんだろうか)


 そこまで考えてエドアルドは俯いて朝食を食べるのをやめているリベリオに視線を移す。リベリオはどこか思い詰めた顔をしている気がする。

 リベリオも十二歳である。貴族としてはそろそろ婚約を考え出す年齢ではあった。


(リベたんが婚約……!? え!? そんなの受け入れられない!? リベたんはずっとぼくのそばで笑っていてくれなきゃ……。リベたんは結婚なんてしちゃ嫌だ……)


 アウローラのときとは明らかに違う感情を抱いてしまっている自分に気付いてエドアルドは困惑した。出会ってすぐから魔力を分け与え、魔力臓が治ってからは今度はリベリオの魔力を受け入れているエドアルド。

 エドアルドとリベリオの繋がりはこの三年で非常に強いものになっていた。


 リベリオが結婚と考えるだけでエドアルドは耐えられなくなる。


(リベたんはぼくの義理の弟。義理だからぼくと結婚できる。ぼくとリベたんが結婚すればずっと離れずにいられるんじゃないだろうか。リベたんにはぼくが必要だし、ぼくにはリベたんが必要……。同性の結婚もこの国では認められているし、同性で子どもを作る魔法薬も開発された……。って、ぼくは何を考えているんだー!? リベたんと結婚なんて、そんな、そんな……ぼくは、リベたんがそういう意味で好きなの!?)


 まだ自分の気持ちもはっきりしていないのに結婚だなんて失礼極まりないし、リベリオの気持ちもある。それでも頭に浮かんでしまった可能性をエドアルドはどうしても打ち消せなかったのだった。


 馬車で学園に着くと、エドアルドは四年生のクラスに行く。エドアルドのクラスは王族や公爵や侯爵子息令嬢が集まった高位貴族のクラスで、学園は建前上平等と言われていても、身分ではっきりと分かれているのだと理解させられる。


 エドアルドの席はアルマンドの隣りだった。

 毎年学年首席を取っているエドアルドに、アルマンドは学年二位でぴったりと付けてきていて、エドアルドとアルマンドは競い合うよきライバルだった。

 クラスの委員長もアルマンドが務めているが、エドアルドは人前に立つのが苦手なのでクラスの役職には就いていなかった。


「おはよう、エドアルド。ビアンカとリベリオは同じクラスになったみたいだね」

「おはよう、アルマンド」

「ビアンカはリベリオがかわいいって言っていたよ。君と同じ『リベたん』のファンみたいだよ」


 アルマンドには相手の感情を読む能力が僅かにある。そのためにエドアルドの感情も読み取れてしまうのだ。「氷の公子様」なんて呼ばれているが、エドアルドの頭はいつも賑やかで、大抵ハッピーなことがアルマンドには分かっている。


「リベたんはぼくの弟」

「本当にかわいいよね、リベリオもアウローラも。アウローラのお誕生日のお茶会で、ぼく、アウローラにプロポーズされちゃったよ」

「アウたんが!?」

「アウローラとは血の繋がりもないし、アマティ公爵家の養子だし、つり合いは取れると思うんだよね。アウローラは将来ものすごい美人になりそうだし、頭もいいし」


 アウローラに好かれていることがまんざらでもなさそうなアルマンドに、エドアルドは胸中でため息をつくが、意外と嫌な気持ちになっていないことに気付く。


(アウたんとアルマンドが結婚するのを考えるより、ビアンカがリベたんの「ファン」だっていうのを考える方が嫌だ。なんでだろう。リベたんにはビアンカのようなかわいい女の子が似合うはずなのに)


 どうしてもリベリオの隣りに自分以外がいることを認められないエドアルドは自分の気持ちがよく分からなくなって混乱していた。

 午前中の授業が終わると、リベリオと校舎の前で待ち合わせをしていた。

 リベリオの方に行こうとすると、リベリオの横にビアンカが立っている。


「リベリオ様、わたくしと一緒にお昼を食べませんか?」

「すみません、わたしは義兄と約束しているもので」

「エドアルドお兄様と! わたくしもご一緒してはいけませんか?」

「エドアルドお義兄様は静かに昼食を食べるのがお好きなのです。ビアンカ殿下にはせっかくお声を掛けてくださったのに申し訳ありませんが、義兄と二人で食べます」


 ビアンカに誘われているが、リベリオははっきりと断っていた。エドアルドが来たのを見て、ビアンカがエドアルドを見上げてお願いする。


「リベリオ様には断られてしまったのですが、エドアルドお兄様、お昼をご一緒してもよろしいでしょう?」

「ビアンカ、ごめん」

「ダメなのですか?」

「男同士の話が」


 そんなものはないけれど、リベリオとの間に誰かが入ってくるのは例え従兄弟のビアンカとはいえ我慢できなかったのでエドアルドは断った。ビアンカは残念そうに引き下がって行ったが、食べているところに突撃されては困るので、エドアルドは校舎の周りを一周して誰もついてきていないことを確かめてから、校舎裏の秘密の場所にリベリオを連れて行った。


 校舎裏の少し離れたところには、きれいな水の張られた池があって、その近くにちょうど日陰となる木が立っている。木の根元に敷物を敷くと、エドアルドはリベリオと並んで座った。


「冬は少し寒いけど、誰も来ない、秘密の場所」

「エドアルドお義兄様はずっとここでお昼を食べていたんだね」

「これからはリベリオが一緒」

「秘密の場所を教えてもらって嬉しいよ」


 笑顔でエドアルドに言って来るリベリオの笑顔が眩しい。

 魔法のかかったショルダーバッグからお弁当のバスケットを取り出すと、リベリオも同じようにバスケットを取り出していた。

 中にはサンドイッチとビスケットと水筒が入っている。

 魚のフライにタルタルソースがかかったものを挟んだサンドイッチはエドアルドの好物で、卵サンドはリベリオの好物だ。ビスケットはバターの香りがしてサクサクでとても美味しい。

 二人で並んで食べていると、リベリオが報告してくれる。


「ビアンカ殿下がクラス委員長になって、わたしを副委員長に指名したんだ。ビアンカ殿下の御指名だったし、引き受けたよ」

「リベリオは偉い」

「エドアルドお義兄様のように、学年首席になれるように頑張らないと!」

「リベリオならなれる」


 三年間で少しは慣れたのか、リベリオと意思疎通できるくらいには話せるようになった。


(あぁ、リベたん、副委員長になったんだ! 偉いなー! やっぱりお兄ちゃんのリベたんはクラスでも活躍できる眩しい子なんだね! そんなリベたんが弟でお兄ちゃんは誇らしいよ! リベたん最高! リベたん素晴らしい!)


 二人で昼食を取って、エドアルドとリベリオは午後の授業に向かった。


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