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6.告白は成功したけれど

 夕食後にリベリオがエドアルドの部屋を訪ねてきた。

 パジャマ姿に湯上りで紅潮した頬。いつもは天使のように清純なのだが、冬には十六歳になるリベリオは、どこか色気もあるようでエドアルドは心の中で大いにのけ反ってしまう。


(湯上りのリベたん! なんて色っぽい! いつもの天使のようなリベたんもいいけれど、色気を滲ませるリベたんも最高! リベたん、優勝です! お兄ちゃんは今にも踊り出しそうです!)


 心の中で踊り出す準備をしているエドアルドに対して、リベリオは真剣な眼差しで告白してきたのだ。


 夕食の前にエドアルドはダリオの能力のことを知った。ダリオはエドアルドの気持ちが言わなくても通じるようなところがあったが、アルマンドと同じ周囲の感情を読んでしまう能力を発現させたようだ。

 それに関して、まだダリオは小さいし、貴族社会の闇を見るのではないかと同情したが、ジャンルカがアルマンドと会う機会を設けて、アルマンドに相談できるようにしようと言ってくれたのでエドアルドも少し安心した。

 それにしても、エドアルドの心を読まれて、リベリオを「リベたん」と呼んでいることや、告白が失敗して落ち込んでいたことも言い当てられてしまったのでエドアルドは多少の恥ずかしさがあった。


 リベリオにはそれが通じていなかったようだが、風呂上がりに部屋に来てくれたリベリオはエドアルドに告白した。


「エドは、わたしのこと家族としか思ってないかもしれないけど、わたしはエドが好き。多分、エドと魔力の相性がいいって言われて、エドがわたしに魔力を毎日注いでくれるようになってから、少しずつ好きになってた。エドにとってはこの婚約は国王陛下に言われて、仕方なくしたものかもしれないけど、わたしはエドが好きだから、好きになってもらえるように努力する」


(リベたんが! ぼくのこと! 好きだって! ぼくが家族としか思ってないなんてことないからね! ぼくはリベたんのことが好き! 恋人として、婚約者として好き! リベたん、愛してる! もう逃がしてあげられない!)


 小さく震えながら蜂蜜色の目を潤ませるリベリオに、エドアルドの理性は焼き切れそうだった。

 頬に手をやって、頬に、額に、鼻先に、閉じた白い瞼に口付けを落としていく。

 まだリベリオは十五歳なので我慢しなければいけない。分かっていても、何度も口付けて、何とか唇を奪うことは避けられたが、リベリオが目を開けたときには、林檎のように顔も耳も真っ赤になっていた。


「え、エド……」

「愛してる」


 ここで動かなければ何のための口だ。

 必死に言葉を紡ぐと、リベリオの顔がますます赤くなっていく。


「か、家族としてってこと、じゃないよね? わたしとエドは恋人だと思っていいよね?」

「恋人」


 その通りだと頷くと、リベリオの蜂蜜色の目から大粒の涙が零れる。

 力を入れすぎないように大事にリベリオの体を抱き締めて、エドアルドはリベリオの頬に唇を寄せてその涙の粒を吸い取った。リベリオは涙まで甘い気がした。


 やっと両想いになれた。

 これもリベリオが勇気を出してくれたおかげだった。

 エドアルドはいつもうまく喋れなくてリベリオに通じてくれない。

 それを悲しく思っていたら、リベリオの方から告白してくれた。


「リベリオ」

「こ、怖いけど、わたし、頑張るから!」

「怖い? ぼくが?」

「違うよ。エドは怖くない。いつも優しい」

「それなら、なにが?」


 何をリベリオは怖がっているのだろう。

 エドアルドはリベリオが成人するまで性的なことはするつもりはなかったし、病弱だったリベリオに妊娠、出産をさせるくらいなら、自分がすると決めている。


(問題は、リベたんがぼくを抱けるかなんだけど、それはできなかったら、養子をもらってもいいし、無理をさせることじゃないよね)


 エドアルドの中では自分が抱かれる方で、妊娠出産する方なのだが、リベリオはそうは思っていないようだった。


「魔法薬を飲んで子どもを産むのは怖いけど、エドのためなら、きっと頑張れると思う」

「リベリオ!?」

「い、今は、まだ覚悟ができないけど、学園を卒業するまで待って!」


 告白をしてお互いに気持ちが通じ合ったと思ったら、次はこれである。

 エドアルドは心の中で頭を抱える。


(リベたん、そんなこと考えてたの? それが「怖い」ってことだったの? 安心して! ぼくはリベたんにそんなことはさせないよ! ぼくが子どもを産むから……って、もしかしてー!? リベたん、ぼくを抱くのが無理って遠回しに言ってるー!? 嘘ー!? ぼくがリベたんを抱くの!? 無理無理無理! 天使のリベたんをぼくが抱くなんて絶対無理!)


 エドアルドはエドアルドでリベリオを抱く選択肢は一度も考えたことがなかった。

 一般的に考えれば、体格がよくて背も高いエドアルドの方が、華奢で美しいリベリオを抱くのだろうが、エドアルドの考えは逆である。


(ぼくの方が体が大きいんだから、子どもを産むのは有利だと思うんだよね! リベたん! そんなに思い詰めないで! そういうことはぼくが全部担ってあげるからね!)


 その思いを込めて「ぼくが」と言えば、リベリオは小首を傾げて不思議そうにエドアルドを見詰めている。


「エドが……? そうか、優しくしてくれるってこと? 大丈夫、分かってるよ。エドは優しいってこと。エドになら身を任せられるように、わたしも成人するまでに覚悟を決めるよ」


(ちがーう! 全く通じてないー! なんでそうなるのー!? ぼくが産むって決めてるのに、リベたんに通じない! 動け、ぼくの口! リベたんに雄弁にぼくの覚悟を語るのだ!)


 告白は成功したと思われたのに、今度はこんなことですれ違ってしまう。

 エドアルドは自分の口を鼓舞して言葉を紡ぐ。


「ぼくが、する」

「うん、エドに任せればいいんだね」


 「する」という単語を違う風に捉えられてしまった。

 これ以上はどう話し合えばいいのか分からずに混乱するエドアルドに、リベリオがそっとエドアルドの逞しい胸を押して体を離す。


「エド、お風呂入ってきたら? わたしはもう部屋に戻るね。エドの気持ちが知れてよかった」


 エドアルドより小さな手でリベリオがエドアルドの大きな手を取って、左手の薬指、指輪の上に口付ける。恭しい仕草は男らしくて、エドアルドは胸がきゅんとしてしまう。


(り、リベたんに、左手の薬指にキス、いただきましたー! 格好いい! リベたんはかわいいだけじゃなくて、格好よかった! 何これ! これまで以上にリベたんのことが好きになっちゃうんですけど! リベたん、責任取ってよね! あぁ! もう結婚して!)


 婚約者でリベリオが学園を卒業したら結婚するのは決まっているのに、何度も心の中でプロポーズをしてしまうエドアルド。誤解は解けなかったが、両想いにはなれたし、リベリオから左手の薬指にキスしてもらえたので、エドアルドの心の中はパレードが始まっていた。


 リベリオを部屋に送り届けた後、エドアルドもバスルームでシャワーを浴びて、パジャマに着替えてベッドに入った。

 ベッドの中でリベリオのかわいさと格好よさを反芻して、ごろごろと悶えるエドアルド。


(今日のリベたんは最高にかわいかったし、格好よかったし、お互いの思いも伝えあって、幸せなんですけど! リベたんが子どもを産む方だと誤解しているのに関しては、時間をかけて誤解を解いていこう! 大丈夫! リベたんとぼくは両思いだと分かったんだ! これからはもっと心を開いて話し合えるはず!)


 それにしても、リベリオの頬に、額に、鼻先に、閉じた瞼に口付けを降らせたときの幸福感と言ったら、エドアルドは頭の中でウエディングベルが鳴り響いて、もうリベリオと結婚したような錯覚すら見えてしまう。


(リベたんのこと、幸せにします。まだすれ違ってはいるけれど、それも時間が解決してくれるはず! リベたん、愛してる! リベたん、ラブユーフォーエバー!)


 心の中で高らかに歌い上げながら、エドアルドはベッドの上で悶えてなかなか眠りにつけなかったのだった。


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