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10.リベリオとアマティ公爵領へ

 熱を出したリベリオはエドアルドの大根に似たマンドラゴラとリベリオの蕪に似たマンドラゴラの葉っぱを煎じて飲ませれば完全に回復した。

 マンドラゴラには魔法的な回復力があるので、その葉っぱで回復したということは、リベリオには魔法的な病がかけられていたのだろう。


 じっくりとリベリオの全身に手を翳して魔力の流れを見ると、リベリオの魔力の流れがおかしくなっている箇所が数か所あった。それも今は回復しているようだが、リベリオが魔力的な干渉で病になったのは間違いない。


 エドアルドとリベリオは魔力の相性が非常にいい上に、ずっと魔力のやり取りをしていたので、エドアルドはリベリオの魔力の流れが読めるようになっていた。リベリオがこの病にかからなければエドアルドはこんなことに気付いていなかっただろう。


(リベたんに魔法で干渉して病を起こさせたのは誰!? お兄ちゃん、激おこなんだからね! かわいいリベたんを苦しめて! 最初にアマティ公爵領で流行り病が起きたっていうのもあやしいし! 絶対何かある!)


 怒りに燃えるエドアルドが「さいしょ……」などと口に出てしまったので、リベリオは宰相を疑っているようだが、確かに先見の目などなくても宰相が怪しいことはエドアルドにもよく分かっていた。

 宰相の地位をジャンルカに譲りたくないボニート・フレゴリ侯爵と、アマティ公爵領から起きた流行り病。アマティ公爵領で迅速に対処していなければ、アマティ公爵領から流行り病が広がったのだと罪を擦り付けられるところだったのではないだろうか。


 流行り病を広げようとした犯人を捜すのも大事だが、今は、流行り病に苦しんでいる患者を助けなければいけない。


(マンドラゴラを送ってもこの量では一つの領地を救うこともできない! どうすればいいんだろう? マンドラゴラが患者全体に行き渡るようにするには? あぁ、ぼくには分からない! 考えすぎてハゲそうだ! リベたん、ハゲたお兄ちゃんでも愛してくれる?)


 考えが妙なところに飛んで行ったところで、リベリオが「ハゲ」の言葉を拾って、マンドラゴラの活用法を考えてくれる。

 マンドラゴラの実の部分を使えばマンドラゴラは死んでしまうが、生きているマンドラゴラの葉っぱだけ使えば、マンドラゴラはまた土に埋まって葉っぱを生やして何度も使うことができる。

 マンドラゴラ一匹に十数枚葉っぱは生えているので、マンドラゴラをそのまま使うよりも効率がいいかもしれない。


(リベたん、ぼくが悩みすぎてハゲそうになっていたのに、リベたんは簡単に解決策を考え付いちゃうんだね! しかも、それをぼくの考えと勘違いしてる! それはリベたんの考えだよ! リベたんこそ、何か見えているんじゃない?)


 そういえば、エドアルドが予言をしたとリベリオが勘違いして当たるときには、毎回リベリオが説明していた気がする。それが当たっているのだから、先見の目を持っているのはエドアルドではなくてリベリオなのではないだろうか。


(もしかして、リベたんが先見の目を持っているの!? リベたんこそが、無意識に未来を予見してるんじゃない!?)


 そんな考えが浮かんできたが、今はできることをするしかない。

 マンドラゴラを箱詰めして、栄養剤も詰めて、各領地に送る手はずを整えて、エドアルドはアマティ公爵領に帰る準備を始めた。

 そんなエドアルドを見て寂しそうにしているリベリオに手を差し出して、一緒にアマティ公爵領に帰ろうと促す。


 移転の魔法はもう使ってしまったし、二人とも同じ場所にいるので使えない。馬車と列車を使っての移動は時間がかかるし、リベリオは少しの時間しかアマティ公爵領にいられないかもしれない。

 それでもエドアルドはリベリオと離れがたかった。


 荷物を用意して着替えたリベリオと馬車に乗って列車の駅まで行く。駅で列車に乗り換えて、列車で揺られていると、リベリオがエドアルドの手を握る。

 二人だけの個室コンパートメント席。

 護衛もドアの外に入るが、三人ずつ向かい合ったベンチの進行方向側に二人で座っていると、リベリオの手がエドアルドの手に重なって、ぎゅっと指を絡めて握り締める。


「エド……」

「リベリオ」


 気持ちを確かめ合った恋人同士なのだから、手くらい繋いでもおかしくはないのだが、エドアルドは自分の手がしっとりと湿ってくるのを気にしていた。


(リベたんが手を握ってくれるだなんて幸せ! なんて大胆なリベたん! そういうところも好き! それなのに、なんで出て来るの、手汗! リベたんのかわいいお手手がぼくの手汗でびしょびしょなんて、恥ずかしすぎる! リベたん、手を放して! いや、放さないで! あぁ、リベたんの手を放したくないけど、手汗は拭きたい! ぼくはどうすれば!)


「ハゲる」

「エド?」


 苦悩のあまりハゲそうになっているエドアルドが脳内から「ハゲる」という一言だけを口にしたために、リベリオは大いに混乱している。


「ハゲ……そう、マンドラゴラのことを考えていたんだね、エド。マンドラゴラならハゲても平気だよ。それに、熱が出ているときにマンドラゴラを抱き締めていたんだけど、冷たくて気持ちよかったんだ」

「看護?」

「そうだね。マンドラゴラに看護してもらったような感じだよ」


 微笑むリベリオを見ていると、それだけでエドアルドは胸がいっぱいになる。エドアルドが看護できなかった間、マンドラゴラがリベリオを看護してくれていたのならば、エドアルドはリベリオの蕪に似たマンドラゴラに感謝したいくらいだった。


(リベたんと手を繋ぐと手汗がひどいし、悩みすぎてハゲそうだし、リベたんのかわいさを見ていると鼻血も出てきそうだし、こんなお兄ちゃん、変態じゃない!? 変態とリベたんに気付かれてはいけない! お兄ちゃんはいつも格好いい存在でなくては!)


 リベリオとの触れ合いで鼻血を出しそうになったことはこれまで何度もあるし、今日ははげそうになるくらい悩んでしまった。リベリオと手を繋いでいると手汗は気になるし、自分は変態ではないのかとエドアルドの冷静な部分が言うのだが、リベリオの手を放すことはどうしてもできなかった。


 馬車で列車の駅からアマティ公爵家に戻ってきたエドアルドとリベリオを見て、ダリオもアウローラもジャンルカもレーナも驚いていた。


「わたしが学園で流行り病をもらってきてしまって、エドアルドお義兄様は看病のために王都のタウンハウスに来てくれたのです」

「マンドラゴラ」

「王都のタウンハウスの薬草菜園で育てているマンドラゴラも各領地に送ったら役に立つとも考えてくださったようで」


 エドアルドの言葉の足りないところはきっちりとリベリオが補ってくれる。ときどき曲解されるのは非常に困るが、このように助けてくれるのは非常にありがたいことだった。


「エドアルドの部屋をノックしたが反応がないと思ったら、タウンハウスに行っていたのだね」

「リベリオは治ったのですか?」

「わたしはマンドラゴラの葉っぱを煎じてもらったら治りました。魔力臓が壊れていた時期のことがあるので、わたしは免疫力が高かったようです」


 そこまでリベリオが説明すると、ジャンルカとレーナが深刻な表情になる。


「魔法に対する免疫力という意味だよね。この病は魔法で引き起こされたものなのか?」

「エドアルドお義兄様は、魔力の相性がよくて魔力の巡りをよく知っているわたしの体だから分かったようなのですが、この病は、誰かが作為的に魔法で起こしたもののようです」

「この病が始めに流行ったのはアマティ公爵領でした。アマティ公爵家に恨みのあるものが仕掛けたのでしょうか」


 硬い表情のジャンルカとレーナに、リベリオも証拠がないというのが分かっているのか、宰相の話はしなかった。

 宰相の話は持ち出されなかったけれど、エドアルドが怪しいと思っているくらいなのだ、ジャンルカが考えていないはずがない。


「他の領地の病にかかった患者は治りそうなのか?」

「マンドラゴラをそのまま使っては足りなくなるので、葉っぱだけを使う方式に変えて、葉っぱをまた生やして何度も使うようにすれば、薬も足りて来ると思います」

「アマティ公爵家は他の領地に感謝されるでしょうね」


 レーナの言葉に、エドアルドはその通りだと思った。

 アマティ公爵家を陥れようと流行り病を広げた犯人は分からないが、その人物の思惑に反して、アマティ公爵家の名を上げるような事態に変わっている。


「今後もこのようなことがあるかもしれません。アマティ公爵領に一刻も早くマンドラゴラを栽培する畑を作った方がいいかもしれません」


 エドアルドの心を読んだかのように述べてくれるリベリオに、ジャンルカもレーナも深く頷いていた。


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