リベリオと過ごす夏休みはエドアルドのテンションを上げた。
毎日リベリオがアマティ公爵領の屋敷にいてくれる。
ジャンルカとレーナとアウローラとダリオが来る日もあったが、それはそれで家族で過ごせて幸せだし、そんな中でもリベリオは毎晩エドアルドの部屋に来てくれて夜眠るまでの時間を一緒に過ごしていた。
王都のタウンハウスとアマティ公爵領で離れているときには、その時間は指輪の魔法を使っての通信の時間なのだが、リベリオがアマティ公爵領にいると一緒に過ごせる。
エドアルドのお気に入りはリベリオを自分の膝の上に抱き上げて座ることだった。
(リベたんの天使のようなふわふわの髪が鼻先をかすめる! いい匂い! リベたんの白いうなじに吸い付きたい! 痕を付けたらいけないから、そっと唇で触れるだけで我慢するけど、リベたんと結婚したら……あぁ、鼻血が出そう!)
興奮のあまり鼻血を出しそうになるエドアルドにリベリオは気付いていない様子だった。
夏休みの最後の一週間はエドアルドは休みをもらってリベリオと共に王都のタウンハウスに滞在した。アウローラの誕生日があるのだ。
アウローラは秋の始めに十二歳になって、今年から学園に通うようになる。
学園にリベリオとアウローラが通うのをダリオは羨ましそうにしていたが、まだ十二歳になっていないのでダリオが学園に通うことはできない。
アウローラの誕生日にはアルマンドとビアンカとジェレミアを招いて私的なお茶会が開かれた。
音楽を収録した魔法具で流される音楽に合わせてリベリオと踊ったのだが、リベリオは何か言いたそうにしていた。
その話が何だったのか分かったのは、お茶会の後でリベリオがエドアルドの部屋に訪ねてきてくれたときだった。
膝の上に抱き上げたリベリオの襟足のふわふわの髪を持ち上げて、うなじに触れるだけの口付けをすると、リベリオが体を跳ねさせる。首の後ろまで真っ赤になっているリベリオがかわいくてたまらなくて、エドアルドは心臓が痛いくらいだった。
(リベたんはいつも甘い匂いがするし、髪の毛もお目目も蜂蜜みたいに蕩ける色で美味しそうだし……! リベたんはぼくを狂わせたいの!?)
リベリオがかわいすぎてつらい。
そんなことを考えるくらいなのに、リベリオはエドアルドに告げた。
「もう、わたしばかりがエドのことを好きで……エドは平静で、わたしばかりが慌ててる」
かわいいことを言われすぎて、エドアルドは心臓が止まるかと思った。
(リベたん、なんてかわいいことを言ってくれるの!? ぼくが平静なわけがないでしょう? ぼくはリベたんに触れるたびに、イケない気持ちになってるし、ドッキドキなんだよ!? それを証明すればいいんだね?)
リベリオの手を取って振り向かせてエドアルドの胸に手を当てさせると、リベリオが驚いているのが分かる。
表情は変わらないし、リベリオのように赤面もしないのだが、エドアルドの心臓は早鐘のように脈打っていた。
(この通り、ぼくの方がリベたんにドキドキしてるんだよ! リベたんのことをどうにかしたくてたまらない! 結婚するまでは我慢するけど、リベたんと結婚してしまったら、ぼくは歯止めが利かなくなっちゃうんじゃないだろうか)
リベリオと結婚したらエドアルドはリベリオを襲ってしまう自信があった。
もちろん、エドアルドが抱かれる方で、リベリオが抱く方なのだが、リベリオはその知識があまりない上に、自分が抱かれて妊娠、出産するのだと思い込んでいる節がある。
(ぼくの体格がこんなだからリベたんは誤解しているのかもしれないけれど、リベたんは昔は病で苦しんでいたし、妊娠、出産は女性でも命がけ。産む場所がない男性の出産となるとお腹を切らなきゃいけないから、そんなことはリベたんにさせられない! 絶対にぼくが引き受ける!)
それはそれとして、リベリオの体に触れたいし、白い肌に所有の証を付けたいと思ってしまうのは、エドアルドの男性としての本能なのだろうか。
エドアルドも肌は白い方だが、日に焼ければ若干黒くなる。リベリオは肌の色が血管が透けるほど白く、日に焼けても赤くなるだけで色素が沈着することはない。アウローラもレーナも同じような体質なので、リベリオはレーナに似たのだろう。
「リベたん」
「エド?」
最近、完全に気が緩んでしまっているのか、リベリオのことを心の中だけでずっと呼んできた「リベたん」というのが口に出てしまうことがあるけれど、リベリオはあまり気にしていないようだった。
これはもしかすると普段からリベリオのことを「リベたん」と呼んでも許されるということではないだろうか。
(リベたんと出会ったとき、リベたんは九歳だった。「リベたん」なんて呼ばれるのを嫌がるかもしれないと思って我慢してきたけど、恋人同士に、いや、
ずっと口に出して呼びたかった「リベたん」という呼称を、今でも半分くらいは許されている気がする。どうにか口で説明できればリベリオもそれが愛情を込めた呼称だと理解してくれるのではないだろうか。
「エド、そろそろ降ろして。夕食の時間だからね」
「お膝抱っこ」
「エド?」
「リベリオは、嫌?」
膝に抱き上げるのも嫌がられてしまっては悲しいと口にすると、リベリオが俯いて耳から首筋まで真っ赤になっている。
「い、嫌じゃないよ。エドに愛されてるなって思うし、包まれてるみたいで安心する。ちょっとだけ恥ずかしいから、二人きりのときだけにしてほしいけど」
(お膝抱っこの許可、いただきましたー! ありがとうございます! 嫌って言われるのが怖くてこれまで聞けなかったけど、これからは積極的に二人きりのときはお膝抱っこしていくね!)
「エドは、わたしの膝枕、嫌じゃない?」
「好き」
「本当? よかった」
お返しのようにリベリオが膝枕をしてくれるときがあるのだが、それはエドアルドにとってご褒美になっていた。
(リベたんの膝枕も、髪を撫でてくれる手も、大好き! リベたんがしてくれることなら、何でも好き! あぁ、早く夫夫になりたい! でもそうなると、ぼくはリベたんの何になるのかな?
考えるだけで興奮してくる。
リベリオを膝から降ろし、エドアルドはリベリオと手を繋いで食堂まで行った。
夏休みが終わって学園が始まると、アウローラの入学式があった。
アウローラの入学式にはエドアルドもリベリオもジャンルカもレーナもダリオも出席した。
入学試験で一位を取っていたアウローラは、新入生代表として挨拶をすることが決まっていた。
「本日はわたくしたちの入学式のためにお越しいただいてありがとうございます。わたくしたち一年生は、これから六年間、この学園で学んでいきます。六年後に学園を卒業するときには、この国を支える一員として、立派に巣立てるように勉強にも、その他のことにも励んでいきたいと思います。これから六年間、どうぞよろしくお願いします」
壇上で挨拶をするアウローラにエドアルドは惜しみない拍手を送った。
アウローラの入学式まで見届けてしまうと、エドアルドはアマティ公爵領に戻らなければいけない。
休んでいた間の執務は、王都のタウンハウスでできる書類仕事などはしていたが、アマティ公爵領でしかできないことは溜まっているはずだ。
学園を卒業してすぐにアマティ公爵となることは覚悟していたが、リベリオと離れて三年間も暮らさなければいけないのはつらかった。それも残り二年になっている。
「リベリオ、また夜に」
「エドアルドお義兄様、通信するね」
毎晩指輪の通信で話をしているし、毎週末リベリオはエドアルドの元に帰ってきてくれる。
それだけがエドアルドの楽しみだった。